非効率という不思議な幸福
翌朝、
倉庫の掃除が、使用人達によって行われていた。
執事の指摘の結果、
まず孤児達に食事を与えて、全体が慣れてから、
他の客たちも迎えるという事で決まった。
私はうっかりしていた。
せっかく混沌がなくなっていたのに、
自ら混沌を作りだすところだった。
ただ今日は誰一人あくびをしている者はいない。
退屈で完璧で眠たくなるシステムの中に、
小さな風を入れ、酸素を送った。
硬直した組織には、
こういう刺激が必要なのかと。
新しい知見だった。
エンジニアというのは、
効率が最大の幸福。
そう思っている節がある。
家の電気をIoT化し、
目覚める時間をセットし、
全てを自動化する。
珈琲をタイマーで作らせるツールを自作する者までいる。
とにかく、
機械にやらせる事ができる仕事は機械にやらせろ。
それがエンジニアの心情だ。
そして今、
非効率という不思議な幸福感
を私は味わっている。
庭の手入れをする調理師の男。
野菜の皮を剥く庭師の男。
花じゃなくて、花を作る男が来たと笑うビター。
楽しそうに仕事をしているセコイア。
効率化した先に、
非効率を楽しむ余裕がある。
なんとも皮肉ではないか。
私は執務室に戻る。
するとガーナがやってきた。
「アルフォート様」
「どうした」
「あの書類が人気で、他の部署の者まで真似したいと言っているのですが……」
「あぁ、もちろん。そうしてくれ」
「それで……」
「なんだ?」
「書類作成のコツを教えては頂けませんか」
「コツか……」
私は少し考え込む。
「その書類業務で使う事柄を決めるかな……」
「事柄ですか……、それはつまり魔物討伐の書類、補助金の申請書類という風にですか?」
「そう。今は全部手書きだろ」
「はい」
「決まった形式もない」
「そうですね」
「だから、よくある手続きは、初めから雛形を作っておく」
「なるほど。一つの雛型で全てを賄うことをやめて、分けるわけですね」
「あぁ例えば魔物討伐の書類であれば、魔物討伐専用にするのだよ」
「なるほど」
あれ……、
これをやると、
そもそも、
私のところに来させる必要のない書類を分けられるのでは?
「私のところにも魔物討伐の書類は届いているよな」
「はい。月に三件ほどですが」
「私はどう処理していた」
「たしか全部、これ処理しておいてくれと、おっしゃっていました」
「その魔物討伐の処理はどこに行く?」
「冒険者ギルドです」
「例えばだが、魔物討伐の書類が来たら、すぐに冒険者ギルドに流すのは、どうだ?」
「確認されずにですか?」
「確認する必要はあるか?」
「ないですかね?」
「過去の書類は残っているか?」
「はい。ご覧になられますか?」
「あぁ」
「ではお持ちします」
「行っては拙いか?」
「いえ。しかし散らかっておりますよ」
「構わない」
私はガーナ達が控える部屋に向かう。
そこは魔窟のように混沌としていた。
まるで私の机を見ているようだった。
「ようこそ魔窟へ」
ガーナは笑った。
他の事務官達は、慌てて片付ける。
「少しお待ちください」
ガーナは書類の山の中から、
魔物討伐の書類を探す。
「なぁ魔物討伐の書類を見なかったか」
「たしか、あっちのほうに」
会話が聞こえる。
あぁ人のこと言えない。
これが現実だ。
私はそう思った。
その瞬間、
アルフォートの記憶が流れ込む。
私の机が片付いていく。
なに……、
私の部屋も片付いているではないか。
ほうほう、
なるほど、そうやれば片付くのか。
「君たち私に三時間程くれないか?」
私は答えた。
「三時間程でしたら」
「ここには沢山の書類がある。
大半が処理が済んだもの。
そういう理解で良いかな?」
「はい。間違いありません」
「では進行中の書類を、まずどこかに固めてくれるか?」
皆頷き、進行中の書類を固める。
「これで進行中のものは固まったと見ていいかな」
「はい」
「ここで扱う主な案件ごとに書類を固めてくれるか」
「魔物討伐なら魔物討伐。補助金なら補助金という事ですか?」
「そうだ」
「わかりました。時系列は関係なく、ただ固めればいいですね」
「そうだ」
皆一斉に片付けだす。
三十分ほどで、分類ができた。
「次は、
この固まりごとに時系列で並べてくれ」
「はい」
二十分ほどで、分類ができた。
「書類はどう保存している?」
「書類に穴をあけ紐で綴じます」
「これは紐で綴じても問題ないな」
「はい」
「では綴じていってくれ」
皆一斉に書類を綴じる。
二十分ほどで、書類の束ができた。
「処理済みの案件の書類の保管はどこに」
「隣の書庫です」
「ではこれを皆で運ぼう」
私も手伝い、
書類を運びだす。
「窓を開けてくれ」
窓から冷たい空気が流れ込む。
「掃除をしよう」
「はい」
私達は三十分ほどかけて掃除をした。
「こんなものだろう」
「アルフォート様。ずいぶんスッキリしましたね」
「あぁそうだな」
「しかし、この状態が続かないのですよ」
「そうだな」
私は少し笑えてきた。
皆能力が低いわけではない。
むしろ高い。
しかし片付ける事は苦手。
原因は、
片付ける事の価値が低いからだ。
「今、心の感覚はどうだ?」
「心ですか?スッキリしています」
「仕事がスムーズに行きそうでは?」
「それはもう。すぐに片付きそうです」
「ではこうしよう」
「毎週、週の頭に1時間、この片づけをしてから仕事を始める」
「週末ではなくて?」
「週末に残業しようとする奴はいないか?」
皆手を上げる。
「だろう。残業する時に片付けとか、腹が立つだろう」
「たしかに」
「だからだよ」
「わかりました」
予定の三時間まで、しばらく時間があったので、私達はお茶としばし歓談をした。
「すまない。時間を取らせたな」
「いえ。それでは……、ってアルフォート様。魔物討伐の書類」
ガーナは笑った。
「あぁそうだった。魔物討伐の書類なんだっけ」
「たしか冒険者ギルドにすぐに流せばどうかとか」
「あぁそうだ。そうだ。ちょっと見てみよう。君たちもすまない。相談に乗ってくれ」
「はい」




