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社畜の矜持

私達は、

魔物討伐の書類を見る。


「たしかにこの書類、アルフォート様にお渡しする必要はないかもしれませんね」

ガーナは言った。

皆頷く。


「ではこの書類を私を通さずに、君らが処理したら、少しは早くなるか?」


「そうですね。少なくとも滞留が少しは減るので、魔物の被害は少なくなると思います」


「では、今度から魔物討伐の書類は私を通さずに、直接処理してくれ」


「はい。どれくらい予算がかかっているかなどは、報告しますか?」


「そうだね。月1回くらいで」


「少し異常が出た場合は?」


「異常が出た場合は、別件で考えたほうが良いかもしれないからな。

しかしそれだと君らの仕事が増えてしまうかな」


「仕事が増えるというより、判断が増えてしまうのが、少し面倒かもしれません」

若い事務官は言った。


「言葉が過ぎるぞ」

ガーナは制する。


「ガーナ。いいんだ。それだよ。それ。判断が増えるのが、一番面倒だ」


「アルフォート様。ずいぶん力が入ってますね」

ガーナは目を丸くする。


「あぁ、すまない。少し嫌なことを思い出してね」


結局何が面倒かというと、

判断基準を上層部がハッキリと決めないことにある。

自分だけの基準で、

仕様をブラックボックスにする。

結果すべてが滞る。


あぁイライラしてきた。


私は過去の冒険者ギルドへの支払い金額を見る。

月間の平均は300Gか。

400Gいった時のみ報告にして、

それ以下なら異常値と見なさない。


あとは現場の判断だが……、

この現場の判断にすると、

人によって差異が出てしまう。

確実に報告する必要がある案件とは何か?


「まず月間400Gいった時のみ報告して……」

いや……、

これは定例報告として、

日々の業務に埋没させたほうが良いかもしれないな。


「毎回同じ報告だけなのと、緊急時の報告がある場合となら、どちらが楽だ」


「それは毎回同じ報告だけのほうが楽です」


「では定例報告として、支払い金額を出してくれ。それの方が判断がなく楽だろ」


「はい」


「あと確実に報告する必要のあるケースはどうだ?」


皆沈黙する。


「スタンピード」

ガーナが言った。


皆頷く。


スタンピード。

魔物が一斉に一か所に向かって暴走するというあれか……。

たしかにこれは必要だ。


「わかった。スタンピード案件のみ、私に報告。あとは冒険者ギルドへの支払い金額を定例報告してくれ」

そう伝えた。


私は400G以上になった場合、必要なら調査をする。

そうでなければ、放置するというふうにできる。


「じゃあ」

私は部屋を出ようとする。


「アルフォート様」

ガーナが声をかける。


「どうした?」


「一つの雛型で全てを賄うことをやめて、分けるという所まではわかりました。

あとコツはないですか?」


「そうか、そうか。そうだな。この書類の束の中からくり返し使われる言葉を拾っていく事だ」


「それは例えば」


「そうだな。

この魔物討伐なら、住所、時期、魔物の種類、およその数、被害状況だな。

被害状況であれば、死者とか、農地被害とか、建物被害とか、そういう項目を作ってもいいかもしれない。

ようは冒険者ギルドに渡す際に、どういう情報があれば、ギルド側が状況を把握しやすいかだ」


「つまり、このケースだと、我々がわかるだけでなく、ギルド側がわかるまで、用意しておくと。そういう事ですね」


「あぁ、ただ被害状況がわからない場合もあるからな。それは考慮しておくべきかもしれない」


「なるほど。では手始めに、この魔物討伐の件から仕上げて、一度運用してみます」


「あぁ、頼んだ。ではいいかな?」


「はい。片付け、ありがとうございました。これからはキープします」


「あぁ」


部屋を出ると、

倉庫のほうがやけに騒がしかった。


私は倉庫のほうに歩いていく。


「アルフォート様」

セコイアが駆け寄ってくる。


「ずいぶん賑やかだね」


「はい。想像以上にキレイになりまして」

セコイアはずいぶん嬉しそうだ。


「掃除したなら、当然だろう」


「それもそうなのですが、ほら見てください」


倉庫は想像以上にキレイに整っていた。


「ほら調度品も上品です。

知ってました?

この倉庫、

お化けが出るって、みんな近寄りたがらなかったんですよ」


「お化けが出たの?」


「はい。お化けはこちらです」

セコイアはタヌキのような生き物を連れてきた。


「これがお化け?」


「はい。そうです」


タヌキのような生き物は、

訴えるような瞳でこちらを見つめている。


「これどうするの?」


「ビターさんが、今晩のディナーにと」


タヌキって美味いのか?

アルフォートの記憶は美味い。

食べるべきと言っている。


しかしな……。


「私一人で食べるのはな……」


「それでしたら、使用人一同、お手伝いさせて頂きます」

セコイアは興奮している。


タヌキみたいなのは怯えている。


この動物を助けるべきか。

少し抵抗してみよう。


「肉が少ないから、皆で食べるのは難しいのでは?」


タヌキは目を潤ませる。


「それは大丈夫。ミートパイにしますから。他の肉と合わせて食べると美味いですよ」

ビターは言った。


「ミートパイ!」

皆のテンションが上がる。


私はエンジニアだ。

エンジニア的に、

タヌキはどんな存在だ。

スパゲティコードの中に潜んでいたバグ。


エンジニアなら、

バグを逃すか?

いや逃さない。


しかも、

ここで逃せば他に移動する。


人の生きるところに来たという事は、

完全な野生では生きられない。


つまり、

他の家に迷惑をかけることになる。

いずれ捕まりミートパイになるだろう。


じゃあつまり……、

このタヌキはミートパイか。


いや……、

さすがに論理が飛躍しすぎだろう。


「このタヌキに使い道はないのかい?」


「それなら、肉を食った後に防寒用にいたします」

庭師の男が言った。


そういう意味ではないのだが……、

まさかタヌキを使用人とは言えないだろう。


「じゃあ多数決を取ろう」

私は多数決に逃げた。


一人の責任で負えない事は、

多数決か法で定型的に決めるのが良い。


「ミートパイが良い者?」

使用人の全てが手をあげた。


私はタヌキを見る。


「すまない。

これが私の限界だ。

社畜とは流れに逆らえない者なのだよ」


そう呟いた。

END


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は完結していますが、

反響があれば続編を書く可能性があります。

ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。


■坂本クリア作品

異世界・現代・コメディなど様々な物語を書いています。

次に読む作品はこちらから探せます。


坂本クリアの小説まとめ|全作リンク集

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2898515/blogkey/3591538/


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