価値を見出せない者の目には世界はゴミの山に映る。
私はアルフォートの記憶を探る。
孤児院……。
「この辺に孤児院はなかったか?」
「はい。屋敷から歩いて10分ほどの場所にございます」
「孤児院の食料事情は?」
「恐れながら芳しくはないと思います」
「そうか……、話を聞きに行こう」
「あの、お呼びしても良いのでは?」
私は仕事の事を思い出す。
そうだな。
これも、
セコイアに任せてみても、
良いかもしれない。
「セコイア、私は食料の廃棄を減らしたい」
「はい」
「だが、あまり手間もかけたくない」
「はい」
「君なら、どうする?」
「私ならですか……」
セコイアはしばらく考え込む。
「まず屋敷の中で消費します」
「余ったモノは孤児院に提供します。
しかし孤児院でも余るかもしれない」
「そうだよね」
「あの……、孤児院は教会が運営しております。
信者の中には貧しき者も多くございます。
孤児院で炊き出しをする事を勧めては?」
「なるほど。孤児院で炊き出しをしてもらうわけか……」
「しかし、どのくらいの量が余るんだ?」
「大人で20人分くらいでしょうか」
「それだと炊き出しの規模としては少量だな」
「たしかに」
「かといって保存が効かないなら、捨てる事になるし」
「他の孤児院はどうでしょうか?」
「距離は?」
「少しありますね」
「なかなか難しいな。問題は確実に提供できるわけではない。あっても人数が限られる」
「食材は良いのですか?」
「調理人も良いしな」
「はい」
「シェフを呼んでくれ」
「少々お待ちください」
数分後……
「お呼びでしょうか?旦那様」
「あぁビター君。今日の料理も美味しかった」
「恐悦至極に存じます」
「実は、今当家で廃棄している食材を上手く使えないかという話をしていてね。
基本は使用人全員と、通いの使用人には食材を持たせる。
あとは孤児院に提供という話だったのだが、それでも20人分ほどあまる。
炊き出しにしては小規模だし、毎回できるわけではない。
孤児院なら問題は少ないが、特定の個人に提供するとなると、それはそれで問題がある」
ビターは少し考える。
「食材の件ですが、食材として提供するのではなく、調理済みのものとして提供してはいかがですか?」
「それは構わないが、君達は手間がかかるだろう」
「それはもちろん手間はかかりますが、常日頃から、大量の人数の食事の手配をしておりますと、調理技術は高まります。
それに我々、意外と時間を持て余しておるのですよ」
「そうなのか?」
「常に会が開かれるわけではございませんし、
調理技術を低下させない為に色々と苦労します。
ですが多量の食事の用意ができるとなると、
その心配はいりません」
「なるほど。それは一理ある。しかし孤児達の元に食事を運ぶのか?」
「いえ、そうではありません。
屋敷の離れに使っていない倉庫があります。
あそこを掃除して、お使いになれば」
「つまり通ってもらうと」
「はい。食堂に行くような感覚で」
「それはそれで良いと思う。残りの食材はどうする?」
ビターは腕を組み、空を見上げた。
「少量だけ提供する食事体験というのはどうでしょう。
例えば三分の一くらいの量にしておけば二十人分でも、六十人分提供できます」
「それは面白いな。しかしどうやって客を集める?」
「そうですね。
屋敷に旗がありますよ。
その旗の隣に赤い旗が出た日は、食事を提供するみたいな御触れを出せばどうでしょう?」
「殺到はしないか?」
「始めは殺到するでしょうね。しかし一年も経てば、欲しい連中だけくるようになります。集った人数で提供する量を調整すれば良いでしょう」
「少しお待ちください」
セコイアが手を上げた。
「どうした?」
「面白い案ですが、それだと民間の食堂などの仕事を奪うことになりませんか?」
仕事を奪うか……。
たしかにそうだ。
「あと私も孤児院の出身ですが、たしかに施しをして貰うのはありがたいです。
しかし人としての尊厳。
つまり自分は弱いという。
人に守ってもらわないと生きていけない存在だと思う事にも繋がります」
なるほど、
それも一理ある。
「どうしたら解消すると思う?」
セコイアは目を細める。
「そうですね。
孤児達は簡単です。私達の仕事を少し手伝わせれば良い。
それこそ職業訓練のような形でも良いでしょう」
それは、
児童労働にならないか……、
そうか、
この時代では児童労働がそもそも問題視されないのか。
「君達の負担は大きくならないか」
「始めは仕事を教えるのが面倒ですが、負担は減ります。
逆に暇になるので困る事はあるかもしれません。
その時は先ほどのように仕事を作ってくだされば」
なるほど。
仕事が欲しいか……、
面白い言葉だ。
「そうだね。ではそうしよう。それで孤児以外はどうする?」
「そうですね。来る者の中には技術を持った者。知識を持った者がいます。代償として、一時間程技術を提供してもらう。知識を提供してもらう。そのようにすればいかがでしょうか?」
「つまり職人には技術を、商人には知識をという事だね」
「はい。そうです」
「しかし、それだと職人や商人だけになってしまう」
ビターは目を細めた。
セコイアは腕を組む。
「単なる手伝いでも良いし、街の掃除でも良い。あと不要品を持ってきてもらっても良い」
「手伝いや街の掃除はわかる。不要品?」
「はい。
ある人にとっては不要品でも、他の方にとっては有益なものもあります。
頂いた不要品を、当家で使ってもいいし、孤児院に提供しても良い。
使用人に安く与えても良いし、街の商人に売却してもいい」
「なるほど。それは面白い。しかし給仕とかはどうする?」
「それは私達侍女がいたします。アルフォート家の名に恥じぬようなお出迎えを」
「なるほど、貴族が平民を丁重に迎えるか。
それは面白いな」
「そんな話を聞くと、私も腕が鳴ります」
「そうかそうか。」




