ワークライフバランス
「では盗賊を雇おう」
「何をおっしゃってるんですか?」
「盗賊を雇うのだよ」
「おっしゃってる意味がわかりません。盗賊同士を争わせるとでも?」
「違う。盗賊は食うためにやっている者が大半だとしたら、雇用してしまえば、悪さはしない」
「理屈は正しいですよ。しかし彼らは罪人です。襲われた側からすれば、そんな理屈で納得できるのですか?」
「では、盗賊を討伐する為に、いたずらに兵を損耗し続けるのが正しい策か?」
「そうは言いますが、盗賊に仕事を与えるなら、真面目に暮らしている貧民より盗賊の方が得をすることになりませんか?」
「いや。それは大丈夫だ。まず人材を募集するのは、その盗賊団がいる付近だけだ」
「その付近だけ……、村は少ないですし、人々は貧しい」
「なら好都合だ。そこの村で募集をかける」
「どのような仕事ですか?」
「崖崩れの補修の仕事、そして荷物の運搬の仕事だ」
「つまり、盗賊が崖崩れの補修を行い。そして荷物の運搬をすると、なるほど盗賊の数が減るし、襲われるのも盗賊になるわけですか」
「そう。元盗賊なら、盗賊のやり口がよくわかっている。出し抜くことも、一般人より楽だろうし。それに襲う盗賊からすると、これほど厄介な連中はいない」
「可能性として、すべての盗賊がこちらに流れる可能性だってありますね」
「あぁ。それに向こうも人数が減れば、大人数の運搬の隊を襲いにくい」
「では過去に人を殺した盗賊まで同じ扱いなのですか?」
なかなか嫌な質問だ。
私はそう思った。
だが、
こういう事を言ってくる連中もいるだろう。
どう答えようか?
「君は、私が人を殺したことがあると言ったら、驚くか?」
「アルフォート様が?
信じられません」
「もちろん。
人を殺したことはないが、人を殺しても外見上何の変化も出ないのだよ。
そう思わないか?」
「それはそうですね」
「過去に人を殺した事がある。それはつまり記録だろ」
「はい」
「その記録は表に出るのかね」
「出ませんね」
「どうやって調べる」
「難しいですね」
「そうだ。
それは我々だってそうだ。
過去の経歴を全て調べる事なんてできない」
「そうですね」
「だからこうすれば良い。
罪人だと判明した時点で、罪を償ってもらう。
それまでは普通に接する」
「はい」
「君は怖いのだろう」
「怖い……、あぁそうですね。
恐ろしい。
罪人が平気な顔をして歩いているかと思うと、恐ろしい」
「そうだね。
わかるよ。
しかし、それが社会だと私は思う」
「あの……では罪を償い終えた殺人者なら?」
「この国で、罪を償い終えた殺人者という者が存在するのかね」
「いえ。ほとんど聞きません。貴族階級の方であれば……」
「貴族階級の連中が、このような仕事をすると?」
「いえ。ありえませんね。失礼しました」
それからしばらく、
予算や仕事の計画をまとめた。
調整には夕方までかかった。
「お食事の準備が整いました」
セコイアがやってきた。
「わかった。向かう」
私は食事を始める。
この国の宰相というのは、
ずいぶんと質素な物を食べている。
そう感じた。
まずスープの味が薄い。
というかコクがない。
正直飲んでいられない。
かといって残すのもな。
醤油は……、
と言いかけるが、彼の言葉に醤油はなかった。
あるのはバターか。
たしかバターをスープに入れるとコクが出る。
そんな異世界転生物を見た気がする。
「ほんの少しバターを貰えるか?」
「お待ちください」
「どうぞ」
私はバターを少しスープに加える。
一口飲む。
あぁやはりコクが出ている。
これは味噌バターラーメンみたいなものだな。
そう思った。
「あの……」
「どうした?」
「スープにバターを入れられましたが、それは?」
「あぁ……、スープにコクが欲しいと思ってね。
いや以前に何かの本で読んだのだよ」
「それで美味しかったですか?」
「カップはあるかい?」
「はい。こちらに」
私はカップにスープを入れる。
「何をなさっているのですか?」
「味の感覚は人によって違うだろう。少し飲んでみたらと思ってね」
「いえ。そんなもったいない」
「ふふ。もったいないのは、味を知らないほうだよ。ほら飲んでみたまえ」
「では、遠慮なくいただきます」
セコイアは味わいながら、飲んでいる。
「これは確かに。美味しゅうございます」
「そうか。良かった」
「あのアルフォート様」
「どうしたんだ」
「これ私も真似してよろしいですか?」
「もちろん。この知識は君が手に入れたものだ。自由に使ってくれ」
「では、他の使用人達にも?」
「もちろん。バターは高いものだったかい?」
「いえ。バターは屋敷で作っておりますし、腐らせてしまうのも多いですから」
なるほど、
保存技術が乏しいからか。
「じゃあ、今後バターを積極的に使おうか。使用人のみんなも消費に協力してくれるかい?」
「もちろん。喜んで」
セコイアは満面の笑みを浮かべた。
しかし、
屋敷で無駄にしているものとか、
多いのだろうか。
「ちなみに、腐らせてしまうものは、多いのかい?」
「はい。二割ほどは……、申し訳ございません。買っておかないと、色々差し支えがありまして」
なるほど、パーティやなんやらか。
「腐る前に使用人皆で、食べきる事はできるのかい?」
「いえ難しいですね」
「では使用人の中で通いの者とかいるか?」
「はい。数名おります」
「家族がいるなら、持って帰らせるのは?」
「それは可能です。喜ぶと思います。しかしそれでもまだあまります」
食材をはけさせる為に、使用人を雇うのは、明らかにおかしいし。
どうしようか。
コンポストにしようか。
しかし、
食材として流通させたほうが良いだろうし。
あれ……、
こんな事を勝手に決めて良かったのか?
屋敷の内部の事だ。
彼の方針的に問題が……。
しかし、心の中でまったく止める気配はない。
じゃあ、
これは進めて良いという事だろうな。




