複雑性の罠
「そうですね。
まずそのシステムが本当に必要かどうか?
これを現場の社員に確認を取ることが必要です」
「それから?」
「そのシステムが短期的に必要なものか、長期的に必要なものか、一部の人間が必要なものか、全体の人間に必要なものかにわける事です」
「それは大切なの?」
「はい。短期間だけ必要で、一部の人間だけに必要なものを導入し、それが全体に悪影響を及ぼす。そんな事例は山ほどあります」
「へぇそうなんだ。結構怖いんだね。でも一秒とかでしょ」
「たった一秒の遅延が起きる改修システムでも、二十の改修があれば二十秒の遅延。
それが一人が毎日十回あれば、二百秒。
社員が千人いれば、そして年間であれば……、
そういう風に広がっていくのが、システムの遅延の恐ろしさです」
「そうか……、規模の問題か」
「ちょっと待て。それは本当か?」
矢沢さんが口を開く。
「はい。計算上わかる事です」
「ワシは今までシステムの事で、あれこれ口を出してきた。
あれは遅延を起こすのか?」
「データを見てみないと、わかりません」
「調査はしてくれるか?」
「契約上どのようになっているか精査しないと」
「金は払う。情報も出す」
「御祖父ちゃん。ゴメン。僕何も知らずに」
少年は言った。
「確認取ってみます」
私は電話で確認を取る。
折り返し、
調査名目で受けるとの連絡があり、
見積もりが届いた。
「こちらが調査の見積もりです。改善にあたっては、別途料金が発生します」
「あぁ構わない。
大株主として、会社の売上を上げようと口を出したが、それが足を引っ張っていたなら、それほど馬鹿な事はない。
あんたらの会社にも、随分無駄な事をさせた。
申し訳ない」
「いえ。仕事ですから」
「とはいえ、ほとんど利益にならない仕事をさせたのだろう」
「よくある事です」
「そうか……、そう言われると助かるが、よくある馬鹿者と同じだというのは、癪に障る。
この際、ワシが大株主をやっている会社のシステムを全部調べてはくれんか?」
「当社が保守を行っている会社なら、問題はありませんが、他社さんのものとなると……」
「乗り換えると言っても?」
「それであれば、調べる事は問題ないと思いますが、なぜそこまで」
「いや正直な。ここまでちゃんと言ってくれる人は初めてだった。だからかもしれん。それに善意が足を引っ張るという構造がな。嫌でたまらん」
「乗り換えるのは?」
「他にはあんたみたいな人はいなかった。それだけだ」
「そうですか。しかし矢沢さん、それは相手側の会社も絡む事ですから、ちゃんとお話した上で、問題のない案件だけ、上げていただけますか?」
「あぁそうだな。君にも迷惑がかかるからな」
私は少し話を詰め、
帰社した。
会社に着くなり、
営業部から質問責めを受ける。
私は事情を説明して、
システム部に戻った。
「フルタ。お前とんでもないことをしたな」
部長は目を細めた。
「申し訳ございません。出過ぎた真似を」
私は頭を下げる。
フルタの国では、
『出る杭は打たれる』
という諺があり、
目立ちすぎる事を戒める習慣がある。
私は、
この習慣に抵触したのではないだろうか?
だとしたら、
フルタにどう詫びよう。
論理的に考えれば、
仕事上の成果とも言えそうだが、
政治は色々な感情や派閥の力関係も加わる。
彼はどちらかというと、
政治には疎そうだから、
面倒ごとを増やしたかもしれない。
「何を言ってる。社長が喜んでたぞ」
「社長が?」
「あぁ、なんでも矢沢さんという方は、かなり上のクラスの方らしくてな。
パイプができたのは、我が社にとって飛躍のチャンスだと、そうおっしゃっていた」
「それであれば良かったのですが……、
すみません。
主任の権限を逸脱していませんでしたか?」
「ちょっとやり過ぎかもな。それは社長もおっしゃっててな。だからお前には何か特別な名前を付与しようと言われていた」
「特別な名前?」
「あぁ、名前は決まってないが、システム改善リーダーとか、そういうのだ」
「失礼ですが、それは肩書だけの?」
「ははは。なかなか辛辣だな。給料と権限はプラスされるそうだ」
……
(こんこんこん)
ノックの音で目が覚める。
窓から入る光がやけに強い。
しまった。
ずいぶん寝てしまった。
「どうぞ入ってくれ」
「失礼します」
ガーナが入ってきた。
「先ほどの件ですが……」
「状況は?」
「実はこの物資を補給するルートが崖崩れで崩れており、仕方なく迂回ルートを使っているのですが、そこに盗賊がいまして」
「そうか」
崖崩れを直す時間と、盗賊を壊滅する時間。
どちらが速い?
いや……、
盗賊団の壊滅だと、兵の損傷が出るな。
いや……、
崖崩れを直すにしても、損傷が出る可能性がある。
「盗賊団の規模はわかるか?」
「規模はわかりませんが、かなり大人数です」
「だとすると、盗賊を壊滅するにも兵の損耗が激しそうだな」
「はい。盗賊は土地勘がありますから」
「ガーナ。盗賊を止めさせる方法はないか?」
「盗賊を止めさせる?」
「あぁ。そもそも盗賊なんてなぜやっている」
「ほとんどが孤児連中です。食うためでしょう」
「盗賊が捕まった場合の刑はなんだった?」
「鞭打ち百回ですね」
「それは死罪と同様だな」
「はい」
「つまり彼らは命がけで襲っていると」
「そうなります」
「命がけって楽しいのか?」
「そんな事はないでしょう。仕方がなくでしょう」
なるほど、
そういう事か……。
つまりこの世界での盗賊は、
命の危険性はあるけど、報酬の良い仕事という事か。
うん。
ちょっと待てよ。
現代社会は何故、
犯罪率が下がった?
警察機構がしっかりしているため?
それもあるだろう。
しかしそもそも、
現代社会には盗賊等をしなくても、
仕事があるからじゃないのか?
盗賊に比べて比較的安全で、
稼げる仕事があるのに、
わざわざ死ぬリスクを冒す奴はいるか?
少ないだろう。
という事は?
答えは一つだ。




