曖昧
「あぁこれね。お客さんから言われたの、適当に納品してよ」
適当に……、
こいつは一体何を言っている。
「このシステムはなぜ必要なのですか?」
「そんな事知らないよ。向こうが必要だから、受けただけだよ」
この営業は、システムの必要性を確認せず、仕事を取るのか?
ここでそれを責めても仕方がないな。
なにか上手くごまかして、
発注した側と会談の機会を得よう。
「基本的には問題はないと思うのですが、例えば機能が重複しますと、全体の動作が重くなったりして、さらなるシステム改修が必要になる可能性もあります。なので十分に必要性などを確認して、重複機能を除去する方向で進めるほうが良いと思うのです」
私はそう言った。
「そうは言われてもね。じゃあ君行ってくれる?話通しておくから」
「はい。すぐに伺います。ちなみに確認ですが、これは受けるほうが利益が出る案件ではないですよね」
「そうよ。だから本音はこっちは受けたくない。でもね。わかるでしょ」
「はい。でも連絡をお願いします」
私はシステム部に戻り、
部下と上司に報告をし、約束をとった。
私は電車に乗り、
機能追加を希望した会社に向かう。
「システム部のフルタと申します」
私は名刺を渡す。
「なんか、将来にトラブルが起こるかもしれんからって、わざわざ来てくれたんやな。君親切やな。ワシがこの会社の部長や。なんでも質問してな」
「はい。そもそもこのシステムは何故必要になったのでしょうか?」
「いや実はな。大株主の矢沢さんという方がおられて、君の会社にこのシステムはあるのかね?って聞いてきたんや」
「はい」
「それでありませんって言ったら、こういうシステムがない会社はアカンと孫に言われてなと」
「あの……、御社としては、このシステムは必要なのですか?」
「君わかってないな。大株主やで、反抗なんかできへんで。それにあんたの所に追加したって、うちは腹痛まんもん」
部長は笑った。
「つまり、別に必要性を感じてないと」
「オフレコやで。そうや。別にいらんわ」
「では私が矢沢さんという方に話をすれば、問題ないわけですか?」
「まぁそうなるわな。でもな。矢沢さんって怖いで。それでも行くか?」
「はい。御社のシステムに不具合が出れば、私共の信用にもつながります。
それに御社のシステムに不具合が出れば、大株主の矢沢さんにも影響がでます」
「そう言われるとそうやな。
すまんすまん。
ただ仕事受けるのが面倒やから断わりに来たと思ってたわ。
ほんまにヤバいかもしれへんねんな」
「はい。
御社のシステムを拝見したところ、
必要以上に複雑になりすぎていまして、例えば最近パソコンが重いとか、そういう話を社員の方から聞かれていませんか?」
「そんなんあるんかな。ワシパソコン使わんから、あんまりわからんのよ。ちょっと待ってな」
「おい!最近パソコン重いとか、そんなんあるか?」
部長は大きな声でオフィスの社員に声をかける。
「たしかに重いです」
「見にくいです」
「重いです」
次々と声がかかる。
「君のいうとおりやな。ちょっとやり過ぎたかもしれんな。一度矢沢さんに話してもらえるか?」
「はい。すぐに伺います」
私は会社に連絡し、
矢沢さんのお宅に向かう事にした。
高級住宅街の一角にある邸宅。
お金持ちだそうだが、
私の別荘の半分もなかった。
「フルタと申します」
ベルを鳴らすと、秘書と名乗る男が現れ、
案内してくれた。
「フルタ様をお連れしました」
「フルタです」
私は頭を下げる。
矢沢という男は体は小さいが、
迫力のある男だった。
「緊張とかせんでいい……」
矢沢はそう言いかけて、
言葉を止めた。
「あんた。緊張してないねんな」
緊張していないと、
おかしいのか。
私は矢沢の言葉の真意がわからなかった。
別に屋敷も普通だし、
使用人も少ない。
それにこの男。
多少の迫力はあるが貫禄はない。
「いや~。初対面の人。
だいたい緊張してるからな。緊張してない人を見ると、おもろいわ」
あぁそういう事か。
この男は、
それなりに威圧をしているのだろう。
そういえば、
調度品もそのようなものばかりだった。
しかし、
この話を伸ばす必要はない。
「早速ですが、『こういうシステムがない会社はアカンと孫に言われて』という事を矢沢様がおっしゃった事により、弊社に受注が回ってきました」
「それで?」
「はい。お受けするのは構わないのですが、お受けするにあたって、十分に必要性を確認しておかないと、システムが重くなり、あなたが投資されている会社の社員の方々の負担が大きくなる可能性があります」
「あのな。言うとくけど、絶対にやれとは言ってないからな」
「それでは、別に必要なければ、必要ないで良いと」
「そうそう。
ただな。
孫がな色々雑誌とかで勉強しててな。
それでアイデア出してくれるねん。
わかるやろ」
「つまり、矢沢様は必要だとは認識なさっていない。あくまでお孫さんの意見をお伝えされただけだと」
「そういう事」
「では私がお孫さんにお話をしても」
「おぉ話してくれるか。
ありがたい。
あの子はな、賢い子やねんけど、現場を知らんのや。
だからな教えてやってほしい。
もうすぐ帰って来るから、ちょっと待っててな」
……
一時間ほど、
そこで過ごしていると、
一人の少年が帰ってきた。
「ただいま」
「おぉ帰ったか。お客さんや。フルタさん言うてな。システムの会社の人」
「どうも」
「フルタです」
「それでお前が言うてた、システムあるやろ。こういうシステムがない会社はアカンと言ってた奴。あの件で来られたんや」
「あぁあれ。わざわざ。へぇ」
「はい。システムを導入するのは、構わないのですが、そのまま実装してしまいますと、システムが複雑化し、挙動が重くなってしまいます」
「それはスマホの帯域制限みたいなやつ?」
少年は私をじっと見た。
「はい。そのように思ってもらって構いません」
「そうなんだ。ではこういう場合、どうするのが賢いの?」




