侍女の矜持
私は外に侍女が待機している事を思い出した。
侍女は字も読める。
頼んでみよう。
私は扉を開ける。
侍女は、そこでじっと立っていた。
「すまないが手伝ってもらえるか?」
「喜んで」
侍女は頭を下げた。
この侍女の名前は……、
たしかセコイアか。
「セコイア」
「はい。アルフォート様」
「君は字が読めたよね」
「はい。読めます」
「この書類の分類を頼んでもいいかね」
「私のようなものが、そのような大事なお仕事を?」
「あぁ。書類が膨大でね。
困っているんだ。
手伝って貰えれば助かる」
「もちろんお手伝い致します」
セコイアは顔が赤くなっている。
「顔が赤いが、熱でもあるのかい?」
「いえ。そんな大切なお仕事をお任せいただけるなんて、光栄で」
私は少し不思議に思った。
「忙しくないか。仕事を増やして申し訳ない気もする」
「いえいえ。暇……、というか、常にお側に控えておりますから、何もしてない時間が、結構多いので、仕事があるほうが、スッキリするというか。やる気が出るというか」
「そうなのか」
私は言った。
そうか。
私は仕事の優先度や、仕事の速度を重視しすぎて、部下の仕事を奪っていたのか。
いや、
でもあれは仕方がない。
どんどん積みあがる仕事。
あぁしなくては賄えなかった。
でも、
今のセコイアのように、できれば……。
まぁ良い。
今は目の前の事に集中しよう。
しかし、
どうしようか……。
一つ聞いてみよう。
「セコイア。
君は侍女だという事は、屋敷の備品などの整理や整頓などもすると思うが、その目から見て、この書類をどうしたら良い?」
セコイアは頷き、
書類全体を見る。
金色の髪の毛に白い肌。細い身体に整った顔。
よく見ると、
とても綺麗な人で、少し緊張してしまう。
「整理を行う際に、私は初めから完璧な片付けは致しません。
まず大雑把にいくつかに分類し、そして、必要なら細かく分類いたします」
「ではこれなら?」
「そうですね。
見たところ、飢饉の訴えが多いようですから、まず飢饉と、飢饉以外にわけるとよろしいかと」
「なるほど。では半分手伝ってくれるかい?」
「喜んで」
私たちは書類を分類しはじめた。
二時間ほどで、分類は終わった。
朝の光が窓から差した。
「すまない。こんな時間まで付き合わせて」
「いえ。滅相もございません。主が働いておられる中、私達は休めません」
「そ、そうなのか?」
「いえ。そういう意味ではなく。失礼しました」
「正直に言ってくれ、上司が働いていると、部下は休みにくいものなのか?」
「いえ……、そんな事は」
「本当か?」
「すみません。本当は休みにくいです」
「それは気を使ってか?」
「いえ。自分の無能さを痛感するのです」
「無能さ?」
「はい。
私がもっと上手く立ち回ることができれば、アルフォート様も楽にできるのにと」
「そんな事を考えていたのか。しかし君のせいではないだろう。今回の件だって、飢饉が原因だ」
「それはわかっております。しかしお手伝いができないのは、心苦しいのです」
セコイアは目を伏せた。
「すまなかった。私は思い違いをしていたようだ」
思わず、
深い事まで言ってしまったが、
これで良かったのだろうか。
ただ、
この書類の量は異常だ。
アルフォートが部下を頼れるようにするのは良いだろう。
それにもしこの判断が間違っているならば、
アルフォートの知識は拒否しているはずだ。
つまりそれがないとすれば、
アルフォート的にも問題がないはず。
しかし、
部下を頼れないアルフォートが悪いとも思えない。
それなら、
私が悪い事にもなる。
うん……、
私は保身をしているのか?
一体誰から?
誰も私を見ていないのに。
なぜ保身をする。
「アルフォート様。次は何を致しましょう?」
「うん。そうだね」
何も考えていなかった。
現状最大の問題は、
食料危機だ。
これは緊急を要する。
ただ他の案件も手を抜くわけにも行かないだろう。
「ではまずこの飢饉の訴えを地域ごとにまとめてくれないか?」
「はい」
セコイアは書類を地域ごとにまとめはじめた。
私は、
その他の案件に目を通す。
その中には簡単な問題。
複雑な問題。
ただの愚痴のような要領を得ない問題。
が混ざっていた。
複雑な問題は保留し、
要領を得ない問題には、
問題を簡潔にまとめるようにと指示を書いた。
そして簡単な問題は、人を呼び、すぐに処理をした。
セコイアが書類をまとめたところ、
飢餓の訴えが特に多いのは、
東北部のいくつかの地域だということが判明した。
私は資料を見る。
すると、
その地域には多量の物資が発送されていることがわかった。
「セコイア、事務官を呼んでくれ」
セコイアは事務官を呼びに行く。
「お呼びですか?」
事務官がやってきた。
名前はたしか……ガーナ。
「ガーナ君」
「はいアルフォート様」
「この地域にはすでに多量の物資が発送されている。
しかし飢餓の訴えが異常に多い。
荷物がちゃんと届いているか確認を取ってくれ」
「畏まりました」
ガーナは部屋を出て行った。
仕事は思ったより早く終わった。
「ふわぁー」
セコイアはあくびをした。
「セコイア。
また頼むことが出てくるだろうが、集中力がいる。
だから呼ぶまで、しばらく休んでおいてくれ。
眠ってくれても構わない」
「アルフォート様は?」
「今はやることもないし、私も報告が上がるまで眠ることにする」
「そうですか。では必要となれば、すぐにお呼びください」
「あぁ、わかった」
私は執務室のソファーで仮眠を取ることにした。
私は朝の光の中、目を閉じる。
久々に感じる爽快感だった。
実質まだ何も片付いていない。
しかしなぜか……、
爽快感を感じていた。
向こうは、
今どうしているだろうか?
私は執務室から動く必要もなさそうだが、
私になったアルフォートは、
出勤する必要もある。
全ての事を自分でやらないといけない世界。
果たして彼にやっていけるのだろうか。
そんな風に思った。
あぁそういえば電子決済だし、
現金がなくて、
生活ができるのだろうか。
中世の事は上位互換だから理解できる。
しかし、
未来の事はどうだ。
理解できるのか?
パソコンの操作は?
心配で仕方がない。
あぁこれは向こうもか……、
そう思うと少し笑えてきた。




