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寝落ち

「私は不器用で、行動力がなく、そして不遇な人間だ」

そんな言葉をメモ帳に書き込んでいるのだから、

我ながら、呆れてものが言えない。


毎日終電ギリギリ。


ワークライフバランスという言葉。

カスタマーハラスメントという言葉。

聞こえはよく、

世界は改善されたように見えるけど、

あれはきっと空想の物語なのだろう。


最適解は転職。

それはわかっているのに、

『辞表書き方』

と検索するだけで、

鳩尾辺りが重くなる。


私は社畜……、

給料という柵に縛られた哀れな羊。


私はアパートに仕事を持ち帰り、

作業を始めた。


時間は午前二時。

昔で言う丑三つ時。

開いた窓から入る冷気に気が付き、

窓を閉めようと立ち上がる。


ふと眩暈がおき、

意識が遠くなる。


またか……、

また寝落ちだ。

私には、やはり行動力がない。


……

「もし、もし」

声が聞こえる。

目を覚ますと、私は古びた図書館のような場所にいた。

中世ヨーロッパの貴族階級のような恰好をした、

おそらく同じ年くらいの男が、心配そうに私の顔を見ていた。


「ここは?

それとあなたは?」

私は尋ねる。


「私の名前はアルフォート。

カカ王国の宰相です。

この場所はわかりません。

私は先ほどまで、執務室で仕事をしておりました。

それでウトウトとしていると、気付いたらこちらに。あなたは?」


「私はフルタ。SEです」


「SE?」


「あぁ、わからないか、システムエンジニア……、システムを作ったり、修正したり、保守したりするのが主な仕事です」


「なるほど」


「私も似たような感じで、自宅で仕事をしていて、眠くなって、気が付くとこちらに」


「同じような境遇なのですね」


「そうですね」


「しかし不思議ですね。

言葉が通じる」


「私も思っていました。

これは夢なのでしょうか?」


「そうでしょうね。

夢でしょう」


「そうですね。

しかし覚めませんね」


「はい。

どうしたら覚めるのでしょうか?」


「私達の国の物語では、ほっぺたをつねるというのがありますが」


「なるほど。

しかし、自分では手加減しますから、お互いにつねり合いましょうか?」


「王国の宰相といえば、かなり身分の高い方でしょ。

私は平民のような者ですから、気が引けます」


「そんな身分など、ここは二人しかいませんし、あなたは私の国の民でもないですから」


「たしかに。

じゃあつねっても怒らないでくださいね」


「もちろん。あなたこそ。じゃあ行きますよ」


「はい。行きましょう」


「いてててて」

二人は同時に声をあげた。


「痛いですね」

アルフォートは言った。


「はい。痛いです」

私は答えた。


「これで目が覚めるのですか?」


「いえ。そういう類のものではなかった気がします。これが夢か現実かを判断する手法だったと」


「あの……、痛いというのは、現実であるという事では?」


「そうなんですよね」


「困りましたね」


(ぴんぽんぱんぽーん)

突然アナウンスが入る。


「本日は、アカシック図書館にご来館頂き、ありがとうございます」


アカシック図書館……。

それがここの名称か。


「あなたの前のその方があなたのソウルメイトです」


「当図書館では、世界の恒常性を維持するため、定期的に異世界間交流を実施しております」


「それが、このソウルメイトシステムです」


「異なる世界に存在する、魂の性質が近い者同士を一定期間入れ替えます」


「異質な知識、価値観、経験を持ち込むことで、膠着化した世界に新しい変化を促します」


「なお、それぞれの国や立場などの知識は、頭の中に入りますので、ご安心ください」


「質問は受け付けません。それでは五分後に強制転移いたしますので、それまでの間、ゆっくりと会談を楽しんでください。」


アナウンスはそれで終わった。


「私達以外にも、このソウルメイトシステムというのに、参加している方がいるという事でしょうか?」

アルフォートは言った。


「探して対策を考えますか?

それとも5分しかありませんし、素直に受け入れ、情報共有しますか?」

私は尋ねる。


「そうですね。恐らくこれは絶対的な力。まずは素直に受け入れて、隙を見て、対策を立てることにしましょう」


「同意します。ではアルフォートさんの、現状の問題点を教えてください」


「はい。知識が共有されるという事ですので、詳しい事は省きますが、東北地方で起きた飢饉での、食糧不足問題ですね」


「なるほど。それが上手く進展していないと」


「はい。フルタさんのほうは?」


「私のところは慢性的に業務過多で、休みがロクに取れません」


「わかりました。フルタさんの現在の権限は?」


「主任という役職はありますが、実質は負担が増えただけです」


「部隊の最前線という事ですが、私でもできるのでしょうか?」


「そうですね。一応部下がいますから、部下に仕事の割り振りが上手くできれば、いいのですが、私が自分でやった方が早い部分があり、部下も育たず」


「お気持ちはわかります。なかなか難しいですよね」


「はい。離職率も高く。育っても、後が続きません」


(ぴんぽんぱんぽーん)

アナウンスが入る。


「五分経ちました。それではカウントダウンを始めます。5,4,3,2,1,0」


目の前の景色がガラッと変わった。


部屋は中世ヨーロッパの邸宅の一室のような造りをしていた。

アルフォートはやはり身分が高いのだろう。

室内の調度品はどれも豪華だった。


知識が頭に流れ込む。

少し頭が痛い。


私は少し不安になった。

パソコンを使わない事務作業など、

果たしてできるのだろうか。


私は目の前の書類に目を通す。

字はスムーズには読める。

しかし筆記体が多く、少し判別が難しい。

あとは感情的な記述が多く、それがノイズになっている。


こんな書類を一日中読み続けているのか……。

俺は宰相という職業の苛烈さが少しわかった。


書類の大半は、

食料が足りていないとの訴状ばかりのようだった。


しかし書類が多すぎる。


仕分けができれば、早く済むのだが……。



もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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