第八話 絶叫
そして10分程度の休憩の後、僕たちはまた動き出した。
様々な写真が撮りたいとは言っていた物の、また絶叫マシンに乗る勇気はないらしく、次に向かったのは、メリーゴーランドだ。
メリーゴーランドはあまり絶叫系ではない。
それも、あまり早くは動かない。
勿論観覧車などに比べたらだいぶ絶叫のレベルは高いかもしれない。しかし、低レベルの方に位置している。
だからこそ、休憩としてうってつけだ。
ちなみに、観覧車でもいいかもしれないとは思ったが、観覧車の場合、最後に乗るものという印象が強い。あまりこのタイミングで乗る物ではない。
メリーゴーランドのいい所。
それはこちらも乗りながら写真を撮れることだ。
という事で、祈里さんには二度乗ってもらう事となった。
一度目は、僕が外周で写真をパシャリ。
二週目は、僕が後ろからパシャリだ。
そして、一週目、楽しそうな祈里さんの写真が取れた。満足だ。
そして、二週目、僕もメリーゴーランドに乗った。今度は、僕もまた乗れる。きょう初のアトラクションだ。
乗っていて楽しい、そう思った。
楽しい。楽しいのだ。
先程から見る事しかできなかったから、その反動なのだろう。
前にいる祈里さんの顔を見るとまた、楽しそうな顔をしていた。
その笑顔は兎に角眩しく、写真も場えるものとなった。
パシャリ、祈里さんが僕の写真を撮る。
「え?」
祈里さんがカメラを向け、写真を撮った。
「三輪君の写真もあった方がいいでしょ」
「僕の写真はいいでしょ」
僕の者位sンはそこまで主題という訳でもない。
「だめだよ。二人で行ったんだからちゃんと二人の写真を撮らないと」
「はあ」
「盗撮ですよ」と、試しに言うと、「でも君はストーカーだから」と、笑いながら祈里さんが言う。
でも、写真を撮ってもらえることは楽しい。 僕の写真が残ってくれるのだから。
そして、もう一度写真を撮る。
今度もまた写真の取り合いだ。
写真を撮る祈里さんの姿を撮るのもまたいい物だ。
だけど、撮り過ぎたからか、少しだけバランスを崩した。
だけど、間一髪僕は手を伸ばし復帰が出来た。
「良かった」
安心した。カメラも落としてない。
命よりもカメラの方が大事だ。何しろ、10万円以上もするのだから。
写真に気を取られすぎてはいけないな。
そう、僕は思った。
そして、メリーゴーランドを降りた。
「楽しかったー」
祈里さんは降りてすぐにそう言った。
「楽しかったの」
「勿論。楽しかったよ。楽しすぎた。満足!!」
そう笑顔で言う祈里さん。その姿を見て、ほっとする。
「やっぱりさ、わたしにあってるのは絶叫マシンよりも、こういうホンワカ系だよ」
そう言って祈里さんは、笑った。
そしてその祈里さんが向かったには、所謂バイキング。
そう、絶叫マシンの王(と僕は勝手に思っている)だ。
先ほどの会話と繋がっていない。ホンワカ系とは一番程遠い絶叫マシンじゃないか。
あれ、どうしちゃったのかな?
なぜここに行こうと思ったんだ。
僕だったらどんな事情があろうと絶対に乗ろうとは思わない、何しろここは地獄のような絶叫マシンだ。
今乗ってる人たちを見ても分かる。
90度以上回転するって、正直三半規管を殺しに来ていると思う。
こんなものに乗ったらきっと吐き気がすごいことになる。そして、確実に倒れてしまうだろう。
あとの事を考えるなら乗らない方がいいのだ。
「なんで、乗るの?」
それは勇者とは言わない。死にたがりという。
よく魔王キャラが言うセリフだ。
「だって今乗っとかないと、永遠に乗れないかもしれないから」
「そうかもだけど」
確かに、今乗らないと、永遠に乗れないかもしれない。
勇気は基本若い人の方が出る。それに三半規管も若い方が基本強い。
もしおじさんおばさんとかになったら確実に乗れなくなってしまうのだ。
でも、だからと言って今乗る必要があるとは到底思わないんだけど。
アルバムに乗せる、とは言ってもそんな写真を乗せる必要があるとは、到底思えなかった。
「本当に乗るの?」
僕は訊く。
彼女は一瞬ためらってから、「うん」と、小さくうなずいた。やっぱり乗りたくないのか。
だけど、それは当然だろう。こんなもの好き好んで乗る物じゃない。
普通のらない。それこそ、バンジージャンプのように、人生観を変えたい人か、絶叫するのが好きなドMみたいな化け物かだ。
僕がこれが苦手だからこんなにも毒舌になるのかもしれない。
だけど、乗らないのが身のためだと思う。
「本当に乗るの?」
「決意が鈍るからやめて」
「鈍るくらいならやめた方がいいと思う」
「乗るから」
無理だ。ジェットコースターですらあんなに体調崩した彼女がこれを耐えられるかもしれない。
祈里さんは手で小さく拳を作る。
緊張している様子だ。
僕は一応念のため、その姿をカメラでとらえた。
そしてついに、祈里さんが乗る番が来た。
僕は「がんばってとしか言えないよ」と言った。彼女はきっと死ぬ。次に間近で見る彼女の姿はきっと、死にかけの姿だろう。
すると彼女は笑顔を浮かべて、「死んでくる」と言った。
死んでくる。本人はがんばって笑顔を作れている、とでも思っていると思うが、僕から見tらそれは、本当に死にそうな顔だ。
心配でたまらない。だけど、僕が彼女の決意を無駄にするわけにはいかない。
僕はカメラで写真を一枚とって、
「楽しんできて!」と言った。
……恐らく楽しめる未来など未来永劫来ないと思うが。
そしてバイキングの船が回転し始めている。
先ほどの決意はどこへやら、「助けて―」という祈里さんは、まるで死刑台へと向かう囚人の様だった。
うん、確かにこれは死刑台だ。それも恐ろしい死刑台。残虐拷問死刑台だ。
其れこそ有名な、
僕は、彼女に生きていて欲しい。だけど、五体満足では戻れなさそうだな、と思った。
そして回転が本格的になってくる。角度で言うと、120度くらいであろうか。
「いやあああああ」
祈里さん。まだまだ半分です。ご愁傷様。
だけど、その表情が面白いので、遺影として彼女の姿はばっちりとカメラに収めていようか。彼女が、祈里さんが今死んでもいいように。
いや、シャレにならないけれど。
そして回転していく。回転が増していく。
さっきから彼女の悲鳴しか聞こえない。
祈里さんの感情に共鳴して、僕まで気持ち悪くなりそうだ。
そんな事は嫌だから、必死で僕は吐き気を耐えていく。
だけど、一番大変なのは祈里さんだ。
「がんばれー!!」
僕は叫んだ。人目もいとわず。
ここさえ乗り切れば、祈里さんは成長できる。
「がんばれ!!」
動画を撮っているから、この声も入る。
そして、一番の回転まで行った。
「いやー---------」
今日一番の恐怖の声を上げた。
あの中で一番声がでかい。しかも、他の人は楽し気に叫んでいるのに、祈里さんのは本当の意味での悲鳴だ。
そして回転が段々と治まっていく。だけど、祈里さんの悲鳴は一向に収まる気配を見せない。
そして、結局回転が終わるまで、彼女の悲鳴は続くのであった。
「タオル持ってる?」
船から降りた祈里さんの第一声はそれであった。
そりゃ、吐き気があるよな、と僕はタオルを渡す。すると、祈里さんは思い切り吐いた。
食後じゃないからか、そこまで多くの量は吐いてない。
「私のげろだよ、写真撮って」
「これも!?」
率直に言おう。汚い。
「飲んでいいよ」
「誰が飲みますか」
乙女のげろとは言っても需要はないと思う。
「もう乗らない」
ベンチに座りながら彼女が言う。そこでは40分の休憩を有した。
そして、時刻は13時になった。お腹もそこそこすいていた僕たちはご飯を食べに行った。
そこは所謂フードコートだ。
様々な料理が置いてある。
パスタやグラタンなどのイタリアンや、ラーメン餃子チャーハンなどの中華、そしてそばうどんなどの麺類、そして寿司屋さんだ。
そこには沢山のお店がある。
色々な料理があって、どれを食べたらいいのか、少し迷ってしまう。
迷うのは時間がもったいない、とは思うけれど。
でも、それだけの価値がある。
「祈里さんはどうする?」
僕は訊いた。
「迷ってるけど、うーん」
顎を触る。前から思ってたけど、癖だったりするのかな。
僕はどれがいいか精査する。
どれもおいしそうだ。
でも、これかな。僕は決めた。
「決まった?」
「うん、一応」
その言葉から察するに決まったけど、
まだもう一つの選択肢も好ましく、そこで迷っているといった感じか。
「どれ?」
僕は訊く。すると、祈里さんは一つの場所を指さした、
そこにあったのは、そばやさんだ。
「そばなんだ」
「うん。だって今あまりカロリーが高い者はたべられそうにないもん」
確かに、今の祈里さんはあまりカロリーが高い者を食べたらいけなさそうだ。
「まだ、吐き気は残ってるの?」
「うん、少しだけだけどね」
力なき笑みを浮かべる。
「祈里さん」
僕はたまらず口を開いた。
先ほどから気になっていることがある。
「無理して笑わなくていいよ」
先ほどからとにかく困ったら笑顔を浮かべているのだ。
それも少しだけ嘘っぽい。
勿論いつもそう言う訳ではない。だけど、今はそう言う傾向が強いのかなっと思った。
「なんで?」
まさか何で、という言葉が出てくるとは思ってなかった。
だけど、その言葉は弱く消えそうなものだった。
もしかして、図星だけどばれないようにしたいのか?
「隠し通せると、思ったの?」
僕はまた訊いた。
「ばれてたのか、わたしのくせ」
そう、あざとっぽく言う祈里さん。
「ばれてますよ」
「ふふ、流石だー」
そう言って僕の背中を叩く。これは本当っぽい。
「なんで、何ですか?」
「そりゃ、わたしの癖だよ。だってさ、笑顔を浮かべてないと嫌われそうで」
「嫌われそう?」
「うん、わたしってさあまり人付き合いが上手くないの。だから、笑顔でコミュニケーションを撮ろうとしちゃうと気が結構あるんだよね」
「そうだったんですか」
「そうそう。笑顔がコミュニケーションの手段の一つなんだ。これってわたしの癖なの」
僕はその言葉を黙って聞いた。
「三輪君はだめだと思う?」
「だめ?」
「うん」
駄目かどうか。
「だめじゃないと思う」
そもそも僕に、その祈里さんのくせを否定するつもりはない。
勿論常に嘘が張り付いたような笑みを浮かべられたら気に障るかもしれないけど、
でも今は無理して笑うような状況だ。
何しろ、絶叫の王、バイキングによって結構体力が削られていたわけだから。
「僕は全然悪いとは思わないよ」
「そう、ありがとう」
っ削いて僕たちは、レストランで注文をして頼んだ。
僕はスパゲッティで、祈里さんはそばだ。
僕たちは無言でそれを食べる。
祈里さんがそばを食べる姿。それもまたきれいだ。
僕は彼女の姿をじっとカメラに収める。
また、いい画が撮れたな、と思った。




