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君の遺影を撮りたい  作者: 有原優


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第九話 過去


 その後、午後は早速軽い物からだという事で、ゴーカートに並んだ。前半戦で結構重い物ばかりに乗ったから、という事らしい。

 そしてゴーカートは車をサーキットで走らせるといったものだ。

 

 勿論車の免許などはいらない。

 車ほどの速度は出ないが、それでもサーキットがかなり工夫がなされており、普通に運転するだけでも、楽しめる。


 そしてここにした一番の理由は、ここだと速度を調節できるから、だそうだ。

 早いのが嫌なら五キロくらいののろのろ走行してもいいのだ。


 勿論あまりにも遅すぎたら怒られるとは思うけれど。



 ちなみに運転手はもちろんの事、祈里さんだ。

 僕が運転したら、僕の写真しか残らなくなるからね。


 運転する祈里さんの笑顔をカメラで納めるのが僕の仕事だ。




 そして列に並ぶ。列はそこそこ長かった。

 勿論1時間待ちとかにはならないと思うけれど、それでも20分くらいは待つ雰囲気だ。


「ここで、休憩できるの良いよね」


 並んでいる最中に、祈里さんがふと、そう言った。



「それに、食休憩もしたいし」

「それは僕も思ってます」



 確かに休憩が出来る。僕たちはお腹いっぱい食事を取った。


 そこからいきなり車に乗ったらしんどくなるかもしれない。

 ゆっくりと胃を休める事が出来る。

 

 「ゴーカートで私の運転記述を見せてあげるよ。100キロくらい出してあげるから」

「高速道路で、出してください」

「えー、免許持ってないから無理じゃン」


 頬を膨らませる。


「三輪君の家には車あるの?」

「僕の家にはないです」


 お母さんは今運転ができない。

 お義父さんが離婚した際に、車を持って行ってしまったのだ。

 そのために、もう車に乗ることはできないだろう。


 僕は恐らくあの家から出られないし。



 しかし、列に並ぶとやはり周りの視線が気になってしまう。

 僕の事を見ているんじゃないかと、不安になる。


 罵られるかもしれない、そんな怒ってもいない妄想をしてしまう。

 妄想なんて、楽しい事でしたいはずなのに。


「三輪君、どうしたの?」

「え?」

「怖い顔してたよ?」


 僕は今怖い顔をしていたのか。

 気が付かなかった。


「楽しくいようよ」

「そうだね」


 祈里さんは可愛い。美人だ。

 この視線も僕に向けられているんじゃなくて、祈里さんに向けられている。

 そう思えば気分は些かましだ。

 まあ、それでも、少し腹多々しく思えるのだが。


 僕はカメラで祈里s何を取る。


「急にどうしたの?」

「急に撮りたくなって」


 これはただの言い訳だ。

 ただ、祈里さんを僕だけのものにしたくなった。


 ――その時だった


「あれ」


 僕に話しかけて来た人が一人いた。先程から僕たちを見ていた視線。そのうちの一人の人物だ。


「沙雪じゃん」

「知り合い?」


 祈里さんが僕に訊く。そして僕は、彼の顔を見る。

 すると彼の正体にすぐに気づいた。


 正直あまり会いたくなかったな、と思う。そこにいた人物は、僕の因縁の人物だった。

 名前を菅原健太という。僕の元クラスメイトだ。


 僕はその祈里さんの「知り合い?」という言葉には何も返答できなかった。

 僕は、菅原君の事をじっと見る。

 

 祈里さんは僕と菅原君を交互に見る。そして――


「どういう事?」


 と、少しワザとっぽい感じで、驚いて見せた。

 僕があまりにも緊張しているから、気を使ってふざけてくれたのだろう。

 祈里さんは気遣いが出来る人間だ。

 悪気はないのだろう。


 だけど、残念ながらこの場では悪手だと言える。


「よう、まさかデートしているとはな」

「デートじゃない」


 男女が一緒に出掛けることをデートというならデートなのかもしれないが、僕たちに恋愛感情という物はない。

 僕たちはカップルでも、片思いとかでもないのだ。

 

 祈里さんに対して恋愛感情がないのかと言われれば否定せざるを得ないが。


()()()でのデートか?」


 言われたくない言葉を適切に。

 僕の心をえぐるように発した。まるで鋭利な言葉のナイフだ。


「僕は女じゃない」

「そうかあ、女っぽい格好してるってことは女ってことじゃないのか?」

「女じゃない」


 僕はもう一度そう言った。

 僕は女じゃない。

 僕は男だ。


 それに僕は今どう考えても男の服を着ている。


「沙雪ちゃん」


 僕は菅原君を睨む。


「何怒ってるんだよ、沙雪ちゃん」


 僕は名前が嫌いだ。僕のこの長い髪の毛が嫌いだ。

 僕のこの髪の毛は、目立ってしまう。


 そして、僕の沙雪という言葉と繋がってしまう。


 今まで、何度も切ろうと思った。

 だけど、切ったら最後、母さんが心のよりどころを無くしてしまうのだ。

 そして、僕に当たられるのが怖い。


 実際過去に一度切った時があった。三日三晩母さんの心は潰れたまま、止まらなかった。

 精神科医で薬を貰って何とか落ち着いたけれど、僕の髪の毛が伸びきるまで大変だった。


「どこかへ行ってくれないか?」

「そんなに嫌なのかよ」


 僕は静かにうなずいた。


「あー、そーいう事ですか」


「そう言う事?」

「ああ、お前、女口調はどうした?」


 女口調。一度母さんが文化祭に来た時にいつもの発作が起こり、仕方なく沙雪ちゃんの真似をした時の事だ。


「それ以上、僕のトラウマを掘り下げるのはやめてくれないか」


 だからこそ、僕は高校ではあまりしゃべらなくなった。


 「ごめんな」


 菅原君はそう言って去っていく。だけど、そのごめんなはおちょくってる感じだ。

 翻訳するならば、『ごめんな、まさかそんな冗談にこんなに怒るとは思ってなかったんだよ』だろうか。どちらにしても、僕にとっていい言葉ではないだろう。


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