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君の遺影を撮りたい  作者: 有原優


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第六話 名前

 その後3日間、秋峰さんは学校に来なかった。休んでいるのだ。

 何があったのだろうか。

 やはり昨日疲労なのか、山登りの最中に眠りこけていたのと何か関係があるのだろうか。

 僕が彼女を心配するなんて、思っていなかった。


 彼女がいなくなると、また僕は学校で一人だ。

 だけどこれが普通だ。

 秋峯さんが変人なだけだ。

 僕は自分の長い長髪を掴む。


 子の髪の毛の長さが、憎い。

 まずわかる事は僕は学校で避けられている事なのだ。

 当然だろう。ロン毛での僕に話しかけてくれる物好きはいない。


 そして僕の長髪には嫌な記憶がたくさん詰まっている。



 基本女性の長髪は、きれいなものとみなされる。逆に男の長髪は、大体の場合、汚いものと見られてしまう。

 ロン毛が許されるのは基本バントマンくらいだ。


 いつも秋峯さんの姿を見ていたから、授業中暇を免れていた。

 だけど、一人になると暇だな。




 ★


 そして、三日後。ついに秋峯さんが教室にやってきた。

 僕は安心した。勿論彼女が元気そうだったから。

 なぜ休んでいたのかは、訊けずにいたが、でも彼女が笑って友達と喋っている姿を見るだけで、何となく嬉しくなる。

 そう、僕は秋峯さんロスだったのだ。


 久しぶりに見る秋峯さんの姿は可愛らしく、ドキドキとする。

見ていて楽しい。


 昼休みに、僕は秋峯さんの元へと向かった。

 屋上だ。


「あ、来た来た。ストーカー君」

「ストーカー君?」

「うん。今日、ずっと私の事を見てたでしょ」

「そりゃ、うん」


 そりゃ見るに決まっているでしょ。



「心配だったんだ。三日ほど休んでたからさ」

「私の事を心配してくれるの? やだ、うれしい」


 彼女はわざとらしく口元を抑えながら笑った。

 なんとなくその姿を見たら、少し安心した。

 いつもの秋峯さんで、変に変わったところはない。


 ああ、今日の僕は安心しっぱなしだ。


「ただの疲労だよ。あの後風邪を引いちゃってさ」


 その言葉、本当なのだろうか。

 なんとなく怪しいと思ってしまう。その顔が若干嘘っぽい。

 


「学校サボるため?」


 嘘をつくならそれしかない。


「サボるためなら、三輪君もつれていくよー」


 そう言って笑う。その言葉は嬉しいが、やはり嘘っぽいんだよな。



「だから信用してよ」

「信用っていうか、嘘っぽいんだよな」

「えーーー」


 そう頬を膨らませた。


 ふくれっ面だ。かわいい。僕は咄嗟にカバンからカメラを取り出して、その写真を撮った。

 よし、またいい画が取れた。


「今度はまた別の場所に行こうと思ってるんだけど、いける?」


 またか、


「どこに行くんですか?」

「うーんとね。カラオケも行ったし、山登りもしたし、今度はまたちょっと遠出してみようかなって思ってるの」

「どこに?」

 「遊園地とかどうかな」


「遊園地……」


 まるでデートスポットだ。


「だめかな」

「だめじゃないです」


 遊園地なんて、いい表情がたくさん撮れるじゃないか。

 僕は遊園地で笑う秋峯さんの写真が撮りたい。


「行きたいです」

「じゃあ決まり。次のお出かけ先は遊園地ね」


 その言葉に僕は頷いた。

 きっと楽しいお出かけになりそうだ。


「それよりさ、私達名前で呼ばない?」

「な、名前で?」


 その言葉に、秋峯さんは頷いた。

 

 名前で、名前か。


 秋峯さんの名前を呼ぶのは別に構わない、と僕は思う。

 秋峯祈里。祈里さん。

 いい響きだ。

 だけど、僕の場合はどうだろうか。


 僕の名前を呼ばれる場合、沙雪君、もしくは沙雪になる。

 その名前は嫌いだ。


「秋峯さん、いや祈里さん。そう呼ぶのは構わないけど」

「かまわないけどなに? 沙雪君」

「僕の事は今まで通り名字で呼んで欲しい」

「なんで?」

「この名前が嫌いだから」


 僕ははっきりとそう言った。


「なんで? いい名前じゃん。……て、そう簡単には言えないわよね」


 僕は黙って頷いた。

 

 そうだ、僕にとってこの名前は呪いだ。

 

「ごめんね」

「謝ることないよ。詳しい訳は」

「ごめん、あまり教えたくないよ」

「うん、そっか大丈夫だよ」


 そう言って笑顔を見せた。秋峯さんの笑顔。相変わらず美しい。

 おそらくだけど、秋峯さんにとって笑顔というのは一種の武器なのだろう。


「その代わり僕からは名前で呼ばせてもらうよ。祈里さん」

「さん付けなの?」

「まだ、祈里って呼ぶには早すぎると思う」


 異性だし。そもそも僕の精神が持たない。

 祈里さんなんて言う美少女を呼び捨てにするのはそれだけ勇気のいる行動なのだ。


「そっか、いい判断だと思うよ」


 その言葉に、僕は軽い難痒さを覚えた。


「遊園地、楽しみだよ」

「カメラの充電はしっかりしておいてね」

「分かってるよ」


 そう言って僕は頷いた。


「そろそろ時間だね」

「うん」


 僕たちはそう言って階段を下りていく。

 僕たちが教室に戻る時は毎回秋峯さんが後に行く。一緒に帰っては、怪しまれるから。


「あ、そうだ」


 階段を降りようと、足を階段の段差に踏み入れた瞬間、秋峯さんはこちらを振り向いた。

 いやもう、秋峯さんじゃなくて、祈里さんか。


「どうしたの?」


 僕が訊き返すと、


「今度友達に紹介しようかなって思うんだけどいい?」

「え?」

「いい?」

「それは少し、恥ずかしい」


 僕が言うと、「そう言うと思った」と言って笑いながら階段を下がって行った。

 

 その場に一人置いてかれる。僕は自身の顔を手で覆った。


 ああ、楽しみ過ぎる。

 遊園地となれば可愛らしい姿を沢山カメラに収められるだろう。

 僕の理想の写真もたくさん撮れるかもしれない。否、確実に撮れるだろう。

 楽しみで仕方がない。


 わくわくで体が火照ってしまいそうだ。

 とにかく楽しみで仕方がない。


 

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