第5.5話 親
僕が家に戻ると、お母さんが飛び込んできた。
「遅いじゃない、沙雪、遅れるなら説明しなさい」
額から汗が流れている。よほど心配しているのだろう。
僕はそれに対し、「ごめんね、お母さん」
そう言った。そして僕は自身の長い髪を後ろに一つで結ぶ。
「ご飯あるから早く食べなさい」
「もう、食べてきたからいいわよ」
「それはだめ、誰と食べてきたの? 相手は? もしかして彼氏だったりするの?」
お母さんがこうなったらどうしようも無い。
お母さんはたまに病む。
その時には僕に対し、姉の紗雪の様に接する。
僕が男の紗雪であることを言いたいのだけど、今のお母さんは何を言っても無駄なのだ。
僕は女になりきらなければならない。
女として母さんに接しなければならない。
そうでないと非常に面倒くさいことになる。 そんなことになるくらいならば、素直に姉ちゃんのマネをしたらいいのだ。
僕には姉ちゃんと話した記憶がない。僕が産まれた10日後に死んでしまった。
僕はその名前を引き付いて、嫌な呪いの名前。砂雪を演じなければならないのだ。
僕はひたすらに、愛想笑いを浮かべながら母さんと会話していった。
ああ、この髪の毛が嫌だ。この名前が嫌だ。僕はもっと自由に生きられるはずなのに。
母さんの子の性格のせいでお父さんは家を出た。離婚したのだ。
僕は母さんの事が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。
僕の事を一生懸命育ててくれているし、病みがそこまでではない状態の母さんは、シンプルないい人なのだ。
だけど、母さんが僕をたまに姉ちゃんして扱う日。それは僕にとって地獄の日である事には何の変わりもないのだ。
辛い。
早く秋峰さんに会いたい。
そう僕は思った。




