第15話 サッカー
「良かったね、ヒットが出て」
すべてが終わり、席に戻ると、祈里さんがそう笑顔で呼びかけてくれた。
もう、僕との友達関係を隠すつもりはないんだろうな。
まあそれは昨日の借り物競争の時に、僕を選んだ時点で、それは確定しているのだけど。
そして、僕は隣に座る、祈里さんにドキドキとしていた。
いや、それは語弊が生じるだろう。
そうじゃなくて、僕が感じているのは。
周りからの目だ。
祈里さんはモテる。モテモテだ。
そんな祈里さんの隣で座っている。それだけで、周りの男子から恨まれる可能性がある。
みんな福城君のように、優しい訳ではないのだ。
「祈里さん、話は聞いたよね」
僕は周りに聞こえないように、小さく言う。
「何を?」
「僕の長髪の件」
「あー聞いたね」
「だからあまり僕にべたべたしない方が」
いいんだけど、と言おうと思ったら、口を防がれる。
「大丈夫、わたしを信じて」
そう言って祈里さんが僕の手をギュッと掴む。
「それに分かってるでしょ。このクラスにはそんなことでは子にする人なんかいないって」
それはそうかもしれない。
だけど、そう言う問題じゃない。
「僕はさ、この髪の毛を切りたいんだよ。今まで、ずっと怖かったんだ。髪の毛を理由に嫌われるのが」
「怖かったの?」
僕は頷いた。
「僕はずっと祈里さんと遊んでいるのは楽しかった。だけどずっとこの髪の毛の事を指摘されるのを恐れていたんだ。遊園地とかで文句を言われるのはいい。馬鹿にされるもいい。だけど、
高校という小さな箱庭だと、文句を言われた時に、祈里さんに迷惑が被ってしまうから」
その言葉に、祈里さんは僕の指をギュッとつまんだ。
「そんなこと言ったら怒るよ。もう写真撮らせないよ」
まさかそんなに怒るとは思わず、僕は目を見開いた。
「ひどいでしょ。わたしに迷惑かかるんだったら、髪の毛切ってよ」
「えっとそれは……」
「出来ないんでしょ。だったら、迷惑かかるとか言わないでよ。それだったら、私一方的に、友達関係解消されるだけじゃん。友達関係なの周りに言えなかったじゃん」
「祈里さん……」
この状況。周りから見たらイチャイチャしているように見える。
「ずるいこともう言わないで」
「っはい」
流石にこういわれては、もう言い逃れが出来ない。
「それに前の学校では、髪が長い理由って言った?」
「言ってないはずです」
「なら、諦めるのはまだ早いよ」
「そうですね」
確かにそうだ。だけど、僕は。
「まあそれはゆっくりでいいから」
そう言って彼女は笑った。
そして昼ごはん。母さんはこなかった。正直ほっとしている。
おかげでやいやい文句を言われたりしないし。
そして僕は、祈里さんと一緒に食事をとる。
あんなことを言われたのだ。もう覚悟を決めるしかない。
「祈里さん、今日もご飯少ないんだね」
僕はそう思った。祈里さんの弁当箱には相変わらず少ない量のご飯しかない。しかも野菜ばかりだ。
毎度毎度思うが、よくこれだけのご飯で一日持つな、と思ってしまう。
一回祈里さんを背負った時にも思った。
彼女の体重は異様なほど軽かった。
基本漫画などのお約束で、
たまたま女子を背負う時は、後で重かったと言って怒られるのが鉄則だ。
だけど、不思議と軽すぎたのだ。
「祈里さん、それだけでもつの」
「持つよ。私、燃費いいから」
燃費って、人に対しても使うのか、なんていう疑問は置いといて。
僕はまた祈里さんの写真を撮る。
可愛い。
そして周りからまた色々と見られている。
気まずい。
僕は祈里さんの友達なだけで、他の何物でもないのに。
「そう言えばさ」
祈里さんは箸でキャベツを掴みながら言う。
「さっき彼氏? なんて聞かれちゃった」
「か、彼氏」
僕たちはそんな関係ではない。
そんなおかしな関係性ではない。
「不思議だよね。女性同士だったら親友なの? なんて聞かれないのに、男女だと、彼氏なの? って訊かれるの」
「僕はそれに対してどう答えたらいいの?」
何を答えても、間違いな気がしてならない。
「大丈夫。わたしと三輪君は彼氏関係じゃないし」
「そうだよね」
何だろう、安心という気持ちと一緒に落胆の気持ちもあるのは。
「三輪君は、いつもパンなんだね」
祈里さんは僕の食べている焼きそばパンを見て、そう言った。
「うん。これ好きだから」
好きだから、と言えば語弊があるかもしれないけれど。
実際は、いつもパンを食べるのが楽だから、というのが大きいのだから。
「いいなあ、わたしもパン食べたいなあ」
「食べたらいいじゃん、なんてそんな話じゃないんだよね」
流石にこの状況で、食べたらいいじゃンなんていうのは、怒られても仕方のない行為だ。
「うん。そうだね。アレルギーみたいな感じでさ」
小麦アレルギーなのか。あれ、でも食べてた時もあったよな。
あれはどういう事だろうか。
「食べ過ぎたらだめなだけなんだけどね」
「野菜をたくさん食べているのも関係あるの?」
「関係あるある」
関係あるのか。
「ちっとだけならいいかな。一口頂戴」
「うん。いいよ」
そう言って僕はパンを一口サイズに切り裂いて、祈里さんに与える。
「ありがとう」
そう言って祈里さんはパンを食べる。
「美味しい。満足」
幸せそうだ。今までずっと我慢してきたんだな。
そして、昼休憩が終わった。
いよいよ祈里さんの出番だ。
「サッカー頑張ってね」
「うん。無理のない程度で頑張るから、写真お願いね」
「うん」
そして祈里さんは階段を駆け下りていく。
僕は観客席から、声援を与えよう。
そして祈里さんの活躍を祈ることにしよう。
サッカーが始まる。
女子の部がサッカーとは、少し珍しいな、と思う。
早速祈里さんは、走り出すことはなく、まずは後ろで待機をしているみたいだ。攻撃に参加するのは後という事だろう。
ただ、祈里さんは、スタミナがあまりない。序盤から走り回って疲れてしまうよりも、今はただゆったりと後ろで陣取るのがいいだろう。
そして僕はそんな彼女の写真を撮る。後ろにいるからとは言え、決して気を緩めているようでは無い様だ。彼女は唇をギュッとつまんで、戦う顔をしている。
そして、早速サッカーは激戦に入って行ったみたいだ。
前の方でとにかく敵味方がぶつかっていく。
そのぶつかりで、相手のクラスの方が優勢みたいだ。
実際に、ボールがどんどん味方コートに運ばれていく。
まずいという事は誰の目にも明らかだ。
祈里さんは早速動き出す。
それも、ボールを奪い取ろうと。
しかし、経験の差、運動神経の差は顕著なみたいで、祈里さんの必死の頑張りむなしくあっさりと抜かれてしまった。
そしてそのままゴール。早速一点を失ってしまったようだ。
「悔しい」
祈里さんは地面に拳を突き立てて、そう言った。
いや、正確には声は聞こえていない。僕が勝手にそう思っただけだ。
だけど、実際そんなふうに思っているのだろう。そしてそんな顔も、写真に撮れば永遠に眺められる。嬉しい事だ。
そしてまたサッカーの試合が始まる。今度は祈里さんもまた、前屈みになる。臨戦態勢だ。常に、動けるようにしている。
そしてまたボールが転がっていく。すると、祈里さんはボールの方へと走って行った。
そして、相手の選手が蹴るボールを横からぶっ飛ばした。
「やった」
祈里さんのプレイでボールが相手コート側に転がっていく。
そして、そのまま味方チームの選手がボールを受け取った。
これで祈里さんのリベンジ成功か。
その後も激戦は続いていく。
ただ、カウントは一対0のままだ。中々点が入れられない。
そして残り時間は3分ほどになった。
膠着状態が続く中、祈里さんは汗をたらたら流している。
このままだとスタミナが持たない。それは祈里さんも分かっているのだろう。
そこで善人前に出て行く。攻撃的なフォーメーションだ。
ここですべてが決まる。それは全員知っていることだ。
そして、祈里さんが前に飛び出していく。
まさかの一番前。
祈里さんが最後はアタッカーになりたいとでも言ったのだろうか。
ここは陸上部の長谷部さんとカニ、任せた方がいいと思うのだが。
最後の三分間で祈里さんが何ができるだろうか。
祈里さんの前方の子がボールを持ち、前へと攻めに出る。それに対して祈里さんはどうするのか。
あれ、あっさりと抜かれているじゃないか。ならなんで前に出たんだ。
しかも本人。悔しがってるから作戦とカヤなさそうだし。
だけど、祈里さんの後ろにいた子、長谷部さんがボールを奪い、そのままゴールネットに入れた。
「やった」
そう僕はガッツポーズをした。
そして下にいる祈里さんたちも同じらしくガッツポーズをしていた。
そして試合は結局延長にもつれ込んだ後、勝った。




