コーカサスに舞う
「副長、電文の解読は終わったか」
艦橋にカーチスの声が響く。エレナは振り向き、
「丁度今終わったところです。読み上げますね。《貴艦ノ方角二向カウ艦影ヲ確認ス。警戒サレタシ》」
「短いな。...サンダーバード隊を偵察に出す。各機に命令を」
サイレンと共に格納庫のハッチが開き、シラヌイがその姿を現す。灰色の機体が日に反射し輝きを放つ。だが、その形状はAMでは無く、むしろ戦闘機のように見えた。
「各機、AF形態で発進するぞ。高速戦だ」
「りょーかい!エース・ファイターの本領発揮ってな!」
「我々の任務は偵察です。危なくなったらすぐ帰りますよ」
言いながら、カタパルトからAF形態のシラヌイが射出される。三機は編隊を組むと、報告された方角へ飛んで行った。
「偵察の第二波は五分後に出す。イェゴール大尉、サヴィナ中尉」
「任されて。機体の最終調整をやるぞ、サヴィナ」
「オーライだ。しかし、索敵用レドームってのはアテになるのかよ、おやっさん」
「問題ねぇ。エインヘリャルじゃどうしてもシラヌイに速度じゃ劣っちまうが、ならその速度分だけ索敵距離を長くしちまえばいいんだ。こいつはシラヌイの二倍近い距離を見れる」
油に塗れた顔を拭いながら、緑郎が親指を立てる。それを見たサヴィナはニヤリと笑うと、機体のコクピットに入り込んだ。
「攻撃はアセット少尉、卜持准尉、カルラ大尉だ。即応態勢にて待機」
「何だよ、俺たちゃ留守番かよ」
「そう言うな雫。据えてくれた膳を喰らい尽くす、一番美味い役だ」
「...まぁ、そうですね」
雫はミナから保存食のエナジーバーを受け取って噛む。小気味のいい食感だが、粉っぽく口の中の水分を吸われ、思わず顔を顰めた。それを見逃さなかったミナはすかさず常温水を投げ渡した。
「サンキュー、大尉」
(な〜んか、距離感近くない?この二人。これは何かあったな...)
「石田機からクサントス、聞こえるか。コーカサス山脈上空に敵艦隊を視認、北方へ進行中と思われる。敵艦隊の陣容、駆逐艦二、巡洋艦一、補助空母が二、それと...、大型の戦艦が一隻。引き続き監視を続ける」
コーカサスの気流に揉まれながら、修蔵はモニターの向こうの艦隊を睨み続ける。補助艦とはいえ空母が二隻、それにクサントスと同等かそれ以上に巨大な戦艦が一隻と大規模な艦隊だ、その動向は逐一報告しなければならない。
ふと、艦隊からぽつぽつと光点が浮かんだのを確認した修蔵はそれをアップにする。
「見たことねぇAMだな、新型かァ?妙な格好しくさりやがる」
「二種類いる...?二種二機で編隊を組んで、そういう戦法の機体なんでしょうか...?」
「詮索は後にしろ、出来れば実戦データを取りたいが...、任務は偵察だ、航路を偽装しつつ帰投するぞ」
疑念を抱きつつも、反転して帰投ルートにつこうとする。だが、後方から警戒アラートがけたたましく鳴り響く。
「捕捉された?このシラヌイに追いつく機体だと言うのか」
言い終わる前に、高出力のレーザーが編隊の間を貫く。ジョシュアと修蔵は避けたが、反応が遅れたアリサ機は不運にも右翼に被弾してしまった。
「右翼先端部に被弾...、三番機、慣性航行能力に異常発生」
「アリサ!クソッ!」
みるみる引き離されていくアリサのシラヌイを見たジョシュアがAM形態に変形し、アリサ機を庇うように前面に立つ。
「やってくれたなてめぇら!ぶっ殺す!」
ジョシュアが激昂しながら、右腕に装備した90mmロングレンジライフルと主翼に内蔵されたミサイルを連射する。理論値では艦船の装甲すら貫徹出来るほどの威力を誇っている装備だが、アルゴスが展開した電磁フィールドによって尽くが撃墜された。
「クソが、何だあの馬鹿みてぇな防御兵器は!」
「ジョシュア、アリサ!増援を要請した、到達まで耐えるぞ!」
戦列の中に修蔵機も加わり、三機がそれぞれをカバーするように展開する。
「あのフィールドを展開している機体、その後ろから撃ってくるレーザー機が厄介だ。何とか狙えないか...」
ふと、アリサはあることに気が付いた。アルゴスがフィールドを展開している間、動きが非常に単調で、かつ鈍くなっているのだ。もしや...、と踏んだアリサは、
「少尉、正面の敵機に近接戦闘を仕掛けてください」
「はぁ!?...そりゃ、近付くのは出来るけどよ、何をするつもりだ?」
「良いから早く行けってんですよ」
「...ったく、少しは可愛く言えっての!」
悪態を吐きつつ、ジョシュア機が機体の全ての推力で前進するのを、後方からアリサ機が二丁のライフルと増設のミサイルで斉射して援護する。直撃すれば撃墜は免れぬ苛烈な攻撃に、アルゴスは防御に手一杯となる。
相棒兼盾を守るべく、後方のアレースがアルゴスの陰からレーザー砲を構えながら姿を出す。だが、アレースのモニターに映ったのは真っ直ぐに向けられたシラヌイの腕と、それに内蔵されたガトリング砲の銃口だった。
「お陀仏だァ!」
右腕から一連射された特殊装甲徹甲弾がアレースの装甲を抉り、その数発がコクピットを貫徹し、パイロットをただの一つの肉片として弾けさせる。アルゴスとのセット運用を前提に開発されたアレースは装甲が薄く、特殊仕様とはいえたった一連射の実体弾で機体が潰滅する程だった。
僚機の撃墜に驚いたアルゴス、その一瞬の隙をついて、今度は修蔵が仕掛ける。シラヌイの左腰部に提げられた刀を抜くと、大きく振りかぶって真下に振り下ろした。フィールド発生装置ごと真っ二つに斬られたアルゴスが火球に変わる。
「このシラヌイの真骨頂が、変形だけだと思うな。超鋼複合輻射式スチールソード、別の名をオニマル。これに斬れない物は無い」
「へっ、ジャパニーズ・サムライの末裔か。そいや、雫もそうだったか」
「全員がそうとは限りませんけど。...でも、ようやくたった一ペアですか」
アリサの言葉に、喜色を浮かべていた二人も押し黙る。今撃墜したのはたかが一機ずつ。まだ周りには同じ機体が大勢展開しているのだ。
だが、彼らもたった三機の孤軍、という訳では無かった。西方から飛来した数発の射撃がアレース・アルゴスの編隊を掠める。
「オラオラァ!騎兵隊の到着だァ!」
「敵は新型か、サヴィナ、油断はするなよ」
エインヘリャルのサヴィナ機がレーザー・マシンガンを、イェゴール機が二丁の280mmバズーカ砲を撃ちながら突撃をかける。突如として現れた増援に混乱し、敵の編隊が乱れたその隙にサンダーバード隊は離脱、二機と合流した。
「私はてっきり、カルラ大尉達が来ると思っていましたが。偵察のイェゴール大尉達の方が早いとは」
「あいつらは別働隊だ。今頃艦隊に攻撃をしに行っている」
苦戦の報告を受けたカーチスは第二波偵察隊をサンダーバード隊の援護に向かわせると共に、それ以上戦力を送らせないために攻撃部隊を用いて艦隊を陽動する奇策を打っていたのだ。
「とりあえずここを離脱してからだ。こいつらの性能は?」
「堅牢な防御フィールドを展開した機体が盾になり、大火力のレーザー砲を持った機体が矛となってその陰から撃ってきます。近接戦闘で一組は倒しましたが、それ以上は」
「どうすんだ?ケツ巻いて逃げっか?」
「それもありだが...、データの一つでも取らさてもらおう」
その言葉を合図に、五機が一斉に散開し、正面のアルゴスに突撃する。アレースのレーザーをそれぞれ避けつつ、装備した近接装備で斬りかかった。
同刻、コーカサス上空に展開していた連合軍艦隊は、接近する熱源を捉えていた。
「艦長、艦隊に近付く熱源三、高速です」
「あの白い艦の別働隊か。ならば三機とはいえ油断は出来ん。直掩部隊で迎撃しろ」
艦隊三番艦"ジェリコ"の指示と共に、艦隊と周辺のAMが対空防御を開始する。
「へっ!そうそう当たるかよォ!」
対空銃座とミサイル、レーザーの攻撃を避けながら、アキレウスのコクピットで雫は口角を吊り上げる。既にジェリコの艦橋に照準を定めていたのだ。だが、右腕の大型リニアライフルを連射しようとした瞬間、左方から激しい弾幕がアキレウスを襲った。間一髪で回避した雫は、攻撃方向を見る。
「...おいおい、新型のバーゲンセールかよ...。大尉、アセット、ヤバ気なのがご登壇だ」
そこには黒いAMが浮かんでいた。周辺のアルゴスでもアレースでもない、全くの新型だった。
「白い機体に赤い機体、これまでの雪辱を晴らさせてもらうぞ、ヘラクレスの力で!」
コクピットのダイマが叫び、左腕に持った巨大な刃付きの棍棒、カッター・クラブを振り下ろす。雫はトネリコで受け止めるが、力を殺しきれずに吹き飛ばされる。
「何て力だ!?この機体がパワー負けした!?」
「雫!?今援護するぞ!...ぐうっ!」
ミナのヴァルキリアがヘラクレスに牽制射撃をするが、意にも介さない様子でヘラクレスは右腕に固定された二連装のマシンガンを撃つ。ミナは正確な精度のその射撃を躱すのに精一杯だった。アセットのエインヘリャルはアルゴスとアレースを相手取っているが、状況は芳しくない。
「こいつ...、この圧力、バンクーバーのあいつか!」
自分のエインヘリャルを圧倒したエンプーサの事を、雫はよく覚えていた。顔も名前も知らないが、凄腕のパイロットだ。
「だったら、ここで叩いてやる!二人は艦隊をやってくれ!」
「分かった。...死ぬなよ、雫」
「了解!任せて、雫!」
トネリコを構え、アキレウスが突撃をする。パワーで不利と言うことは先の一合の打ち合いで理解していた。故に、雫はある狙いを付けていた。
頭部のガトリング砲を牽制の為に連射する。20mmという極小口径ではあるが、弾頭いっぱいに詰められた炸薬によりエンプーサ相手であれば被弾箇所を抉り取る事が出来る。無論、それより装甲が遥かに厚いヘラクレスには焦げを付けただけだ。だが、頭部のセンサーに一発の弾頭が直撃を与えた。そのショックで一瞬だけヘラクレスのモニターが消失した。その隙に、アキレウスのフロントスカートから伸びたサブアームがビーム刃を発振し、クラブに向かって真っ直ぐに振りかぶられた。それを悟ったヘラクレスは身を僅かによじらせ、クラブを失うことは無かったが、その代わりに右側体部に斬撃を受けた。
「やる!」
「豆鉄砲も使いようってこった!」
そのまま蹴りを入れようと考えたが、パワー負けしている事を思い出し、代わりに返す刃でサブアームを振り下ろす。先端が胸部に当たり、その部分が消失する。直後にヘラクレスのマシンガンがアキレウスを捉えるが、間一髪でこれを躱した。
「ビーム刃相手では重装甲も役に立たん...。コクピットに当たってないのは幸運か」
「はーっ...、はーっ...、クソッ、こいつ相手じゃヒヤヒヤして堪らん...!」
双方共、先程から致命傷をギリギリで避けていた。二人は流れる冷たいものを実感しながら対峙する。
「なーに遊んでるんですか?中尉殿」
突如ヘラクレスの無線に、少女の声が走る。
「お前...、出るのか!」
「中尉殿が苦戦しておられるようですのでね。さっさとトンズラしてください、私があいつらボッコボコにしますんで」
艦隊中央のトロイから、白いAMが姿を見せる。アキレウスのカメラがそれを捉えるが、雫はそれが何か分かっていなかった。
「何だありゃ、まだ新型が残ってやがんのか?だが...、何つーか、その、しょぼいな...」
ヘラクレスやアレース・アルゴスと比べて軽装であり、古臭く、機体各所には赤錆に穢されていた。
「ちょっと、雫...。まだ終わんないの...!?」
アセットが悲鳴を挙げる。エインヘリャル単機で直掩のアレースやアルゴスと交戦しているのだ、無理もなかった。
「おう、待ってろアセット。五秒でデブとボロを片付けて、二秒で助けに行ってやる」
「そうしてくれると助かるよ...!」
「待て!アセット、雫!今すぐに撤退するぞ!」
ミナが叫ぶ。その表情は強ばり、吐く息は荒い。その様相を不審に思った雫が尋ねる。
「どうしたんです大尉?まぁ確かにちと手強いですけど、アキレウスならこんな奴ら一捻りに...」
「奴はゼウスだ!この戦力勝てる相手じゃない!...いや、例えここにクサントスの全ての機体が集結していても、勝てない...!」
絶望感を滲ませた、消えゆくような声でミナが呟く。
初めて聞いた声に、雫は自分たちの置かれた状況が極めて不利な状況に置かれたことを悟った。
「ゼウスだと...。あのボロがですか?...アセット、引き上げるぞ」
「了解...っと」
「撤退するだと?追うぞ」
「言われなくても!」
スモークを散布してクサントスの方向へ遁走をする。それを確認したダイマとZ-12は追撃しようとするが、直前にとある情報が入った。
「別働隊を追撃しに行った部隊がやられた、戦力の再編成が必要だ。こちらも一度退くぞ」
あの後サンダーバード隊とイェゴール・サヴィナチームは包囲網を力ずくで破壊し、二割程度の機体を排除していた。これ以上の戦力の消耗は、今後の作戦に大きく響くと判断したのだ。
「...了解。帰投する」
「...つまんないの」
二人は渋々トロイに戻る。だが、それとは対照的に整備員や艦のクルー達は歓喜に沸き立っており、二人だけに留まらず帰還したアレース・アルゴス編隊に至るまで、全員が笑顔で迎えられた。
「何だ、どういう訳だ、この状況は」
驚きながら周囲を見渡すと、整備班長がダイマに握手を求めてきた。戸惑いながら返し、
「何故...、皆こんなに騒いでいるんだ?...帰ってこなかった者も多いというのに」
と尋ねる。整備班長は少し困ったような顔をしたが、
「皆嬉しいんですよ。今まではあの艦とあの機体にやられっぱなしでしたから。ようやく一矢報いてくれた中尉達は我々の英雄なんです」
と答えた。ダイマは試合に負けたが勝負に勝ったのだ。その事実を受けいれ、微笑を浮かべると、整備班長の手を握り返した。
「おー...、こりゃあ手酷くやられたなぁ」
帰投したAM隊を見て、緑郎が嘆く。
「シラヌイ一番機は全武装、三番機は飛行能力と両腕、エインヘリャルの二番機が右腕...。目立った損害が無いのはエインヘリャル一番機、シラヌイ二番機だけか」
新型部隊の二割を排除した代償であるが、その被害は甚大だった。
特にシラヌイ三番機...、つまりアリサ機はオーバーホールが必要となる。予備機のパーツを使っても、二週間もの時間がかかる。
「仕方ねぇじゃねぇか、おやっさん。あの新型やべーんだよ」
「あの機体、連合軍のものではなかった。データを渡すから、見ておいて欲しい」
イェゴールがエインヘリャルのデータベースの情報を納めた端末を渡すと、緑郎はその場で開いた。
「ちょ、即かよ...」
「...EAM-005と007に酷似してるな...。よし、こっちで対策をやる。三週間待ってくれ」
「...だが、西欧攻勢に連中が出てくる事は考えられないか?また奴らと交戦しても、同じような事になるだけ...、いや、もっと酷いことになるかもしれない」
来たる西欧攻勢作戦はたった一週間後。アリサ機と同じく相当損傷したアセット機が出せないのでは、苦戦することは必至だった。
だが、緑郎はその疑問に対し、
「出てこねぇさ。連中はそんなに数を持ってねぇ」
さらりと答えた。
「何故分かるんだ?」
「...お前らが数減らしたんだろ。新型ってのはそうそう簡単に整備出来るもんじゃねぇからな。機体も補給もな」
「...ま、そういう事にしとくか。飯行くぞ、飯。おーい卜持、大尉、アセット!飯行くぞー!」
走っていくサヴィナと早足で追い掛けるイェゴールを見送り、緑郎はため息をついた。
「予想はしてたが、本当に寝返ったとはな...。あのバカタレが...!」
「オレ、おやっさんは絶対何か知ってると思うんだよ」
食堂でサヴィナがそう言って話を切り出した。同席していたアセットは何を言っているのか分からないと言った表情をしたが、それ以外の雫、ミナ、イェゴールは同意するような表情を浮かべた。
(あの新型、どう見ても地球軍の機体ですよね。それに敵の中にゼウスがいたってことは...)
(鹵獲されたにしては数が多すぎる。多分ゼウスと一緒に、亡命した連中が手土産にしたんだろう)
雫とミナがバレないようにひそひそと会話をする中、アセットはサヴィナに突っ込む。
「立林曹長が知ってるって、何を?」
「そりゃー...、そのなんだ、イェゴール頼む」
「おやっさんがあの新型についての技術とか、開発について知ってるかもって事だ。確かに、データを見てから明らかに雰囲気が変わった」
「そう!そういうことを言いたかった!」
サヴィナがイェゴールの肩を叩く。そこそこ大きな音が鳴ったが、イェゴールは動じずに食事を口に運んだ。
(ゼウスについて言うべきですかね。隠したままだとリスクになりますよ)
(それについては艦長から説明すると聞いたが...)
「AM隊、至急ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す、至急ブリーフィングルームに集合せよ」
艦内放送でエレナの声が流れた。
全員が一斉に立ち上がってブリーフィングルームに駆け込むと、そこにはカーチスが立っていた。
「座ってくれ」
カーチスが短く言い、全員が席に着くのを見た後、パネルを操作してスクリーンに映像を出す。
「戦闘映像?卜持達のか」
そこに映っていたのは、ヘラクレスと死闘を繰り広げるアキレウスだった。映像の中のアキレウスはヘラクレスと対峙した後、トロイから出現したゼウスの姿を見て退却していく。その光景に、イェゴールは眉をひそめた。
「卜持、今のは...」
「あー...、うーん...」
頭を掻きながらカーチスとミナに視線を向け、助け舟を求める。その様子を見留めたイェゴールは畳み掛けるように尋ねる。
「艦長、あの新型、技術系が地球軍の物と類似しているように見受けられました。奴らが技術を模倣したのでしょうか、それとも...」
「...最早隠す必要もない。全てを明かそう」
それからカーチスは全てを話した。ゼウスの事、MH計画と自身がそれの研究に携わっていた事。雫もミナも自らの身の上を話した。だが、ミナがダイモスの王族であるという事実は話さなかった。確かに仲間に隠し事をするのはリスクになるが、あまり晒し過ぎるとかえって混乱を招くという判断だった。
「あー...、つまりなんだ、艦長はやべぇ事やってて、その償いをしたいって事か?そんで、雫と大尉は同じ火星生まれで、二人はバンクーバーでひでぇ事されてて、それで...」
「喋るな、サヴィナ。余計混乱する」
とはいえ、与えられた情報の膨大さは凄まじい。たった一つ情報を隠した程度でどうにかなるものでは無かった。サヴィナはともかく、イェゴールも処理に時間がかかっていたようだ。
「...しかし、敵が地球軍機を使ってくる以上、こちらも相応の対策を打つべきです」
「イェゴールお前、直ぐにそれかよ?遂に明かされた衝撃の事実!って感じなのに、なんか感傷とかねーの?」
「感傷に浸るのも悪くないが、別にそれを知ら無かったからといって死ぬわけではない。だが、敵を知るのを怠れば、明日の命は無い。俺達が十四年前に学んだ事だ、違うか?」
「...ちっ、思い出させんなよな」
サヴィナの表情が渋くなる。
(そう言えばこの二人、昔からの縁だって緑郎さんが言ってたな。...考えてみりゃ、自分の事だけじゃなくて、仲間の事も何も知らないんだな、俺...)
雫はそう思い、思わず過去について尋ねようとしたが、イェゴール達の渋面に気圧され、結局引き下がるしか無かった。




