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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る~改訂にあたってカットしたエピソード集~  作者: 兎野羽地郎


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第六章 平坦地

 ヴィルの話では、来週はマチルダが工作所の二人と一緒に来て、火薬を使って岩山の一部を砕いてみるらしい。西の原から派遣される穴掘りの得意な魔法使いもくるので、今月中には調査結果が公示されるだろう、という事だった。


「この穴の近くなんだよね?」


 ベイオウルフとヴィルが聞いてくる。


「うん。近いと言っても、今のとこ森の傍としか決まってないから、もう少し離れた所になるかも」

「森の近くなら少しはましかな。この辺りは砂が多いせいか、水はけが良すぎるし、耕すのも大変だよ」

「分かってる。南の森に沿ったところを考えてるんだけどね」

「森の傍だと、魔物に羊が襲われないか?」

「キツネやイノシシだけみたい。それに、始めの一年はクローバー増やすだけだから、その間に羊が逃げない様に木の柵とか小屋とか整備しないといけないのよ」

「井戸と人間と羊の小屋と柵か。結構な手間になるよ」

「まあね。でも、どこに行ってもやらないといけない事だから」

「それもそうだ。まずは候補地を探さねばならん。休憩時間にでも見ておこう」

「お願いね」


ベイオウルフやヴィルは神官の護衛なので、一緒にいないといけない。ずっとゲジゲジのいた穴の付近にいることになる。ある意味事前偵察にはうってつけだ。休憩は交代でとるらしいので、二人に交互に見て貰うことにした。




 さて、気分を入れ替えて、魔物退治だ。

 とは言え、林や森が雑草だけの荒れ地と斑になっているところだ。オーク共が侵入して来なくなった今、魔物はそうは見つからないだろう。


 お椀に乗って平坦地を巡回する。森の中にイノシシかキツネ、後は兎や山鳥くらいしかいないので中の原と大差無い。北の山の方に行けば、クマやオオカミがいるようだが、それは担当外だ。餌をぶん撒いて集まったのを魔法や弓矢で仕留めていった。


「この間のヘビはもういないのかしら?」


 木陰を求めて林の中に着陸し、お弁当を食べていたら、実入りの良さに味を占めたベアトリクスが不穏な事を言う。


「あんな化け物、そうそういてたまるか。退治するのが大変だぞ」


 あの時、パウルさんはお椀に乗って山砦に第一班を送っている最中だったので、退治した後に来た。

 ルイスさん達と一緒になって、随分と褒めてくれた。

 ルイスさん達は、ゴブリンの事もあるので、フローラの事にも理解を示してくれ、内緒にしておくと言ってくれた。


「あら? パウルさんなら簡単じゃないの? 窒息させればいいんだから」

「口を閉じとったら大丈夫かも知れんが、開けとったら無理だな。それに、窒息するまで、あの長いのが暴れまわってみろ、周囲におる者が大変だ」


 確かにそうだ。あんなのに体当たりされたら身体がバラバラになってしまう。


「アンジェリカのグレイシエイトの方が確実だろう。この間の奴も、ベアトリクスの氷の魔法で牽制したんだろう?」

「そうなのよ。ジャンヌ経由でフローラに教えて貰ったのよ。その後、マルセロさんがジャンヌを連れて、ヘビの頭の下にテレポートで跳んだのよ。びっくりしちゃったわ」

「マルセロが言っとったぞ。ジャンヌに引っ張り出されたってな」

「違いますよ! 私は近くに行って止めを刺すつもりだったんです。まさか、頭の下とは思いませんでした」

「相手はあのマルセロだぞ。敵の死角をつく事しか考えとらん。頭の上に乗らんかっただけマシだ」


 パウルさんは面白そうに笑っていた。

 そう言えば、クモの時は上に乗ってたな。

 多分、私が一緒だから下になったんだろう。だと、すれば私に引っ張り出されたというのは、あながち嘘では無いのかもしれない。




「それは、そうと、マルセロ商会がここの開拓に一枚噛むかもしれんぞ」

「えっ?」


 パンが喉に詰まってむせてしまった。

 ボニーが差し出してくれた水を飲む。


「そんなに驚ろかいでも良いだろう?」

「すみません。急だったもので……」

 

 丁度、クローバーを探していたので、びっくりした。

 桶に幾つか苗を入れて持って帰る事になっている。


「なんでマルセロ商会が参加するの?」


 ベアトリクスも知らなかったようだ。


「まだ、相談を受けただけなのだがな。何せ儂とアンジェリカがおったら大概の開拓は出来てしまうからな。支店を出してもいいんじゃないか、と言っとるんだ」

「わざわざ、店を出すの?」

「もし、町長の許可が下りたら、テレポートで中の原と繋いで通勤出来るだろう。開拓参加者に資金は出るが、開拓そのものは自分達でやらんといかん。儂らに依頼があったら儲けが出る。その場合、窓口をここに設けておかんと、わざわざ中の原までは来んだろう?」


 確かにそれはそうだ。

 井戸一本金貨五枚と言っていた。上級魔法使いはどこでも重宝されるし、雇うだけの価値がある。魔法陣で臨時の泉が作れるのは実践済みだ。風の魔法で木を伐採して掘り起こす、土の魔法で耕す。日照りの時は水の魔法で散水する。播種も刈り入れも脱穀も、上級魔法使いがいれば段違いだ。


そう言った魔法利用を専門にやっている連中ももちろんいる。しかし、マルセロ商会は、リュドミラが参加して以来、魔法の農業利用についても突っ込んだ研究をしている。


「でも、窓口を出すだけで開拓に参加出来るの?」

「出来るぞ。開拓者だって、生活せにゃならんからな。小間物屋から娼館まで、一通りの店が軒を並べるぞ」


 考えてもみなかった。そんなに大規模なんだ。


「当り前だ。国策で村が四つも出来るんだぞ。最終的には人口が千人を超えるかもしれんのだ。商売人は皆手ぐすね引いて待っとるわ」

「じゃあ、皆土地を買うの?」

「土地は買わんだろう。借りるんじゃ。開拓の場合、三年間は無償だ。わざわざ買わんでも店舗を作る資金だけで店が出せる。どうせ、手を挙げた者を何か所かにまとめて、臨時の町を作るだろう。その一角を占めるんだ」

「三年たったらどうなるの?」

「普通の店と一緒だ。国有地の場合、賃貸料を国に払うだけで良い。荒れ地の土地税より安いからな。マルセロ商会の店舗もそうだぞ」


 てことは、あれか? 地主になっても賃貸料は取れないのか? どう考えても国に借りた方が安くつくぞ。


「だから、ほとんどの者が三年たったら撤収するんじゃ。買っとる場合は六年売れんが、借りる場合は年単位だからな。地主経営しようと思っとる連中は、そっからが勝負になる。繁盛しとる場所なら、馬鹿みたいに高い値段でも借りる奴は借りるからな」

「王都の目抜き通りもそうなの?」

「あそこは特殊なんじゃ。基本的に国有地なんだが、店を出すには一年契約で買わんといかん。売る時は国に売却するんじゃ。買いたい者が大勢おったら競りになる。競って値上がりした結果があれだ。王都に行った時に見ただろう。上品な店がひしめき合っとる。それでも、あそこに本店があると言うだけで、王都や地方の支店の売り上げが何倍にも跳ね上がる。箔をつけとる様なもんだ」


 目抜き通りは店舗の移り変わりが激しいと聞いた。支店の売り上げが思うように延びなかったら、さっさと撤収するんだろう。そう考えると、街道クッキーは単価が安い割には頑張ってるわけだ。きっと、大勢のマニアが支えているんだろうな。


「御師匠様。ここで土地を買ったら繁盛しますかあ」

「ここは農地にしかならんだろう。恐らく始めのうちは放牧地だ。開拓が一段落したら、海の潮が引く様に店は消えるんじゃないか」


 他の人達と競合しないのは良いが、海の潮が引く様に消えると言うのはどういう意味だ? 海を見た事が無いから分からないが、まさか無人にはならないだろうな。


「珪石はどうなの?」

「平坦地全体に鉱脈が広がっとるとも思えんし、鉱山職人とガラス職人が増える程度じゃないのか。駅逓のある村と変わらんと思うぞ」


 となると、人口は三百から五百か。中央広場の店は十軒足らずってとこだな。


「お前達も店をやっとるだろう? ゲジゲジのおった穴の辺りを調べとるようだが、何か考えとるんじゃないのか? もし、そうなら、マルセロと一度話してみたらどうだ?」


 見抜かれていた。

 ベアトリクスとボニーを見ると、頷いてくれた。話をしても良さそうだ。

 実は……、と羊と蜂の話をする。


「やっぱりそうか。フローラに見て貰っとったから、何か考えとるとは思うとったんだ。しかし、羊の放牧と養蜂とは考えたな」


 糸にして染めた羊毛と蜂蜜は良い値段で売れる。羊は肉で売ればもっと良い値になる。荒れ地に出来る村でも中の原でも買い手はいるだろう。


「しかし、それだけでやっていく積りか?」


 税金と一人分の生活費を稼ぐ分には何とかなるだろう。鉱山の調査に来た神官も保証してくれた。しかし、稼ぐとなるとかなり難しい。


「お店や魔物退治も同時にやって行く積りです」

「人手は足りるのか?」


 最大の問題がこれだ。皆仕事を持っている。平坦地に住み込めるのは私とボニーくらいだ。二人では到底処理出来ない。自給自足で精一杯かも知れない。


「とりあえず、六年やってみようと思います。それで駄目なら、手放します」


 悪くない、と言ってくれたのは神官なのだ。彼らは儲ける事は考えていない。神官らしく静かに暮らすには丁度良いのだろう。


「フーム」


 パウルさんが腕を組んで、考え始めた。

 止めろ、と言われたらどうしよう。

 ボニーは固唾を飲んで見守り、ベアトリクスはそっぽを向いている。ここは本命ではない事を知っているからだろう。


 ひとしきり考えていたパウルさんが、ニカッと歯を見せた。


「これは業務提携が必要だな」

「業務提携?」


 思わず、三人で顔を見合わせた。




 パウルさんが言うには、私達が買った土地に大き目小屋を建てて、マルセロ商会の窓口にすれば良い、との事。


「家賃はタダにして貰う。窓口業務は無償でやって貰う。もちろん泊まり込んだ時の食事も出して貰う。土地や小屋に関する全責任は、お前達が背負う」

「じゃあ、私達の損じゃない」

「家賃代わりに魔法だ。木を伐採して掘り起こす。土をおこし耕す。水を撒き、種を撒く。これだけの事を儂やアンジェリカがやったら、どのくらい金が要ると思う? 儂ら上級魔法使いは、作業一回で銀貨四枚が相場だぞ」


 ベアトリクスを見ると、指を折って計算している。


「えーっと、銀貨十六枚かな?」


 とんでもない話だ。畑の枚数が多いと効率が良いのだろうが、なにせ三枚しかない。無駄が多いし実入りも少ない。しかも、耕す回数は一回では無いし、冬は蕪を植えなければならない。年に金貨四枚は飛んでしまう。放牧と蜂蜜の稼ぎが全部消えてしまいかねない。

中級魔法使いなら時給は半額らしいが、時間が掛かる分結局は同じらしい。


「それが、家賃だ。その代わり、スケジュールの調整をして貰う。もしテレポートが使えれば、通勤出来るぞ。勿論、泊まり込みでも良い。開拓中は物騒だからな。留守番がおった方が良いかも知れん」


 土地を買えば私有地になるから、開拓資金は出ない。人力でやるか、魔法使いを雇わなければならない。その分を請け負ってくれると言うのだ。

 放牧主体でクローバーを増やすだけだから、小屋を建てて貰って、井戸を掘って貰って、ある程度耕してさえもらえば何とかなる。

小屋でお店も出来るだろう。


「いいの? そっちの損になるわよ?」

「損かどうかはやってみねば分からんぞ。王国軍や教会におる上級魔法使いは参加出来んのだ。もちろん、アドルフ町長も参加出来ん。果たして、開拓に参加出来る上級魔法使いが、儂ら以外に中の原に何人おるかな?」


 中の原にはいないだろう。中級魔法使いはいるだろうが、開拓に時間がかかる。資金が出る三年間と言わずに早々に開拓してしまえば、差額は自分の物に出来るわけだ。


「上級魔法使いを他所から呼んだら、宿泊費や食費も支払わねばならん。毎日だぞ。儂らなら、仮にテレポートが使えんでも、お椀に乗って飛んできてどこへでも行ける。お前達の土地に拠点さえあれば、魔法の分しかかからんのだ。開拓資金は一世帯につき幾ら、と決まっとる。せいぜい月に一回上級魔法使いを雇える程度だ。魔法の値段はただの相場で、神聖魔法以外決まっとらん。その気になれば相場よりも少々安くも出来るし融通もきくぞ。果たして、どっちが人気になるかは考えんでも分かる。その調整をやるんだぞ?」


 これはお得かも知れない。

 三人して頷き合う。


「是非、マルセロさんと、お話しさせて下さい」




 中の原に帰って、マルセロさんと話した結果、パウルさんの言った条件に井戸まで掘って貰える事になった。事務所の飲料水用だ。ただし、窓口の開設は開拓が始まってかららしい。それは、そうだろう。


「魔物退治をするから、小屋と井戸は先に作っておきましょうか。当面は休憩の出来る物置小屋程度です。勿論、一七五の会が土地を手に入れてからですよ」

「早ければ、十月には買おうと思っているのですが」

「そうですね。九月には申請出来るでしょうから、それまでは、土地の選定をお願いします。鉱山域と町域が発表されたら……そうですね。少し離れた方が良いかも知れないですね」


 マルセロさんが言うには、町域の近くは土地持ちの連中が買いに来るかも知れないらしい。


「セルトリアが大きくなった過程で吸収した、元貴族連中ですよ。軍事にも政治にも介入はさせませんでしたが、地主にする事によって一定の財産を保証した連中です」


 そういう、からくりになっているとは知らなかった。


二代目と三代目の国王は、積極的に国土を広げたらしいが、特に領民の評判の良かった敵領主は殺さずに生かしておいたらしい。領地の大半を取り上げたとは言え、一等地の大地主である事には変わりない。普通に税金さえ払っていれば貴族の義務も軍役も無いので、一平民として気楽に地主経営をやっているそうだ。旗上げの地となった中の原には、そういう人はいないので知らなかった。 


セルトリアで、良いところのお坊ちゃん、お嬢さんと言えば、その血筋だそうだ。

 因みに、ヘンリー様の代で領土拡大が出来なくなったのは、魔王の復活と、その後のエングリオの仕掛けた大戦争のせいらしい。


「羊の放牧と養蜂をやるのであれば、ある程度先を見越して、町から離した方がいいでしょうし、競りにかからなくて済みますよ」

「町から離れていても、工事の注文は来ますか?」

「我々は上級魔法使いですよ。大丈夫です」


 珍しく、マルセロさんが胸を張った。

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