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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る~改訂にあたってカットしたエピソード集~  作者: 兎野羽地郎


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第五章 お山の探索②

 移動用のお椀だが、上昇と下降だけだろうから底を目一杯厚くした。お椀というよりは、深皿だ。転げ落ちないように座って乗った。


 透明なので底を通してライトで照らせる。


「マジック・ディフェンド!」


 ジェームズ様がお椀に魔法防御の魔法をかけた。


「こんなことが出来るんですね!」


 魔法で作った空気の壁に魔法をかけて強化するとは驚きだ。パウルさんもびっくりしている。


「魔法そのものにかけているわけではないからね」


 知らなかった……。しかし、良いことを聞いた。


「ディフェンド!」


 それならば、とお椀を固くしてみた。これで物理攻撃にも強くなったはずだ。


「これで安心だな」


 ロバーツ様も満足そうだ。何せ真下からの攻撃に対してはお椀で護るしかない。お椀が突き破られるようなことがあったら万事休すだ。

 念の為にと、ジェームズ様はマルセロさんのホーリーの巻物を三本持っている。相手が魔物の類であれば大方倒せるだろう。


「皆様、お気を付けて」


 グラディス様達の見送りの声を背に、右手で穴の底を、左手で周囲の壁を照らしながらゆっくりと降りた。




 お椀に先行させているジェームズ様のファイアー・ボールが、底に辿り着いた。まるで焚火の様に燃えている。

 上を見上げると、何本か壁に刺した松明が辛うじて見えた。

 もしかしたら、本当に麓の祠と同じ高さまで降りたのかも知れない。


「どうやら、底に着いたようだな」


 ジェームズ様がカンテラに差し込んだ蝋燭を見ている。時間は左程経っていない。

 ライトを両手で目一杯にすると、地面が見えた。

 空洞は頂上部から徐々に広がっていたようで、思っていた以上に広い。直径にして大股十歩以上あるだろう。


「横穴があるな」


 ロバーツ様が言うように、底には二つ横穴が空いていた。ほぼ円形の穴の底の丁度反対側同士に空いている。

 縦長で風の結界を抜けた先にあった洞窟と同じくらいの大きさだ。

 着地してライトで横穴を照らすが、奥までは見えない。


「どちらかが入口へ向かい、どちらかが奥へ向かうのではないか」

「ロバーツ。そうだとすると、一方は完全にふさがっていることになるぞ」

「土砂崩れの現場だな」


 一方だけの探索では、もう一方の穴に何かがいた場合、後方から襲われる。そうかと言って、これ以上二手には別れられない。上で待機している方達を呼んだところで同じだろう。

 これは、ヘンリー様達を呼ぶしかないのではないだろうか。


「一方を塞いでしまえ。ついでに落とし穴でも掘っておけば大丈夫だろう」


 ロバーツ様が荒っぽい。


「その方が良いな。ヘンリー様達と合流するにはまだ早すぎる」


 そう言うと、ジェームズ様はご自身の物入袋からお椀と水筒を取り出した。

 お椀に水を注ぐので、飲むのかと思ったらそうではなかった。

 何やら魚の様な形をした木片を浮かべている。

 魚は水に浮かぶと少し向きを変えた。


「どうやら、こちらが西、つまり土砂崩れの現場だ。一旦こちらを塞ごうか」


 驚きだ。魚の木片で方角が分かった。

 パウルさんに聞くと、大陸から伝わった物らしい。

 色々な物があるものだな。


 早速、土木工事が始まった。地面に大穴を空け、どんどん土を横穴に放り込む。入り口付近には縦穴を掘って、その手前にまた土の壁をこしらえた。


「上の者達はどうする? 呼び寄せるか?」


 ロバーツ様が聞いている。

 パウルさんがお椀で往復すればあっという間だ。

 しかし、ジェームズ様の考えは違った。


「ある程度安全が確認出来るまでは、上に居て貰おうか。この空洞が皆を守ってくれるだろう」


 遥か上を見ながらジェームズ様が言った。

 辛うじて松明の炎が見える。夜空の星のようなものだ。

 エレノア様が来るまでは誰も降りて来られないだろう。

 残り時間は半時間あまり。とうとう、四人での探索になってしまった。




 手つかずの横穴はパウルさんのお椀に乗って進むことになった。

 お椀自体が防壁になるので丁度良い。新しく作ったお椀は横穴のサイズに合わせて、縁を高くし縦長になった。歩くよりも早いし楽ちんだ。

 ライトで照らすと、枝分かれしているわけでもなく、少々うねっているだけで、簡単に進んで行けた。


「この分で行くと、結構距離を稼げるな」

「そうだな。最初からこうすれば良かった」


 山頂の真下まで行ったとしても、お椀の速度が結構早いので半時間程度でたどり着けるらしい。丁度良い加減だ。


「しかし、この穴はなんのためにあるのだ?」

「分からんな。ジャンヌ。水の精霊に出会った時は洞窟を通ったりはしたのか?」

「ほんの僅かですが地下道を通りました。でも、どちらかと言うと、水の中を通った方が長かったですね」


 ここで、手つなぎ歌を思い出した。


「そう言えば、手つなぎ歌では、西の門では飛ばされるはずです。今のところ、風に飛ばされるような場所には来ていませんから、ここは結界とは関係が無い場所ではないでしょうか」

「手つなぎ歌? ジャンヌ神官、なんだい? それは?」


 そうか。ジェームズ様は他国の人だから知らないのか。


「セルトリア初代国王が作った四大精霊に関する歌だ。精霊に会う手がかりが詠われている」

「そんな歌があるのか?」


 折角なので歌ってみた。ロバーツ様とパウルさんが一緒に歌ってくれた。


「メディオランドには無いのか?」

「何の手がかりも無いな。光の魔法が使えたかどうかも伝わっていないのだ」

「まあ、普通はそうだろうな。秘密にするだろう」


 ちょっと、びっくりした。秘密にしなければいけないのだろうか? でも、デューネは平気な顔で宴会に参加したり人前に出て来たりしている。


「秘密にしないと、他国や何かの勢力に狙われるからだ。精霊の力を手に入れたと知られてみろ。南の物騒な国なんかは、目の色変えて奪いに来るかもしれんぞ」


 ロバーツ様が笑いながら言っているところを見ると、そう深刻では無い、と信じたい。


「そう思っても当然だ。しかし、過敏に反応しても仕方無いだろう。どうせ、本人にしか使えんし、光の魔法が使えんと精霊にも会えないのだろう? 気にしなくて良いさ。初代もそれを見越して、歌を作って、いろんな噂を流したのだろうさ」

「噂とは?」

「原初の遺跡は地下道があって、結界外のどこかと繋がっているそうな」


 そう言えば、パウルさんが湖の底に地下道があるとかなんとか言っていたな。でも、遺跡にはそんなものは無かった。


「となれば、我らが今進んでいるのは、その地下道なのか?」

「そうかもしれん。しかし、水の精霊が知らんのだ。もしも人間が後から作ったものなら、禄でもないものだろうさ」


 突然ロバーツ様が槍を前に突き出した。


「例えば、あれだ。パウル、止まれ!」


 パウルさんがお椀を止めると同時に、ライトを目一杯にする。


 ロバーツ様が槍の先で地面を突くと、落とし穴が口を開けた。


 中を覗くと、何やら尖った物が上を向いている。どうやら何も引っ掛かってはいない。死体があったら夢に出てきそうだ。


「こういったものを仕掛ける奴がいるのだ。我々はお椀に乗って飛んでいるから、いくつか素通りしたが、俺が気付かなかったのもあったかも知れんな」


 罠が地面を歩く者を対象としているのなら、仕掛けも地面にあるだろう。飛んでいる者には発動しないということか。


「良く分かったな」

「床が少し凹んでいた。綺麗な四角形だったから気付いたが、そうではなかったら気付かなかった。普段、あちこちに罠を仕掛けているからな。下手糞が作った物なら見分けられる」

「流石は元猟師の作った国だな。今度、教えてくれ」


 他国の騎士様は、こういったやり方を騎士道に反する、と言って嫌うと聞いた。その点はどうなのだろうか。


 恐る恐る聞いてみると、ジェームズ様はニコリと笑った。


「神官。ご存じの通り、戦争とは所詮人同士の殺し合いだ。そういった行動に美学も何も無いと私は思っている。そんなものは、貴族同士が互いに死なないように取り決めを作って自己の正当化をしているに過ぎないよ。戦争を指揮する者としては、兵士を含めて味方がいかに死なないかを考えるべきで、そのためには罠を学び、見破り方を身につけなければいけない。勿論、味方の兵士が敵に対して罠を仕掛けることもあるだろう。その時は、戦争指導者の私が下手な言い訳をせずに、その誹りを受ける覚悟を持てば良いだけのことだ」


 驚いた。見識と言うのはこう言うことを言うのだろうか。


「戦争に騎士も兵士も無い。要は、殺し殺される、それだけのことだろう?」


 ロバーツ様の言葉に、パウルさんが無言で頷いていた。




 それ以降、時々止まり、ロバーツ様の解説の後で罠を意図的に発動させるようになった。

 石が落ちて来たり、壁から槍が出て来たり、矢が飛んできたりしたが、全部躱してロバーツ様が槍で壊していた。

 一体、何を目論んでこんなにも罠を仕掛けているのか。


「この先には何があるのだろうな」

「所詮は人間が作った物だ。そう大した物ではあるまい」


 ジェームズ様の問いかけに、ロバーツ様が答える。人間が作ったものだけに、なおさら悪意を感じてしまうのだが、ロバーツ様は気にもしていない。




 と、行く手に暗闇が広がっている。洞窟の狭い壁ではなく、左右に広い場所のようだ。

 広くなったところで、何やら蠢いている物がいる。

 腐臭が酷い。

 顔が腐っていて良く分からないが豚顔だ。随分と数が多い。

 こちらに気付いたのか、向かってきた。

 目が死んでいるせいか、ライトの光を浴びても怯まない。


「オークのレヴァナントか!」

「やれやれ、面倒な相手だな」


 ロバーツ様は白銀の槍を持っている。倒せるだろうが数が多い。


「どうする。一旦下がるか?」

「そうだな。パウル殿、後退して連中を引きずり出してくれないか。少々荒っぽいが炎の魔法でケリをつける」


 ジェームズが詠唱を開始した。これは上級以上の魔法を使う気だ。


「ジャンヌ。一発デカいのがくるからな。お椀の縁からは絶対に顔を出すなよ」


 ロバーツ様に無理やり座らされた。首根っこを持たれて押さえつけられているので、立ち上がれない。

 ていうか、少々痛い。

 ロバーツ様の親指と小指が私の首元でくっつきそうになっている。どんなにでっかい手なんだ。


 お椀が後退するにつれ、魔物が洞窟内に入り込んで来る。ここなら一直線に攻撃できるだろう。全部が洞窟に入り込んできたら一発で片がつく。

 頃合いを見計らって、ジェームズ様が両手のひらで赤黄色い玉のようになっている魔法を発動した。


「プロミネンス!」


 顔の前に突き出した両手から、オレンジ色の炎が迸る。渦を巻く様に突き進み、洞窟の中を追いかけて来る魔物を飲み込み、そのまま奥に突き進んで行った。

 炎の塊が通った後は、何一つ残っていない。巻き込んで吹き飛ばしたのか。それとも骨まで燃え尽きてしまったのか……。


「炎の超上級魔法だ。母上が魔王と戦った時に使った魔法の一つらしい」


 マジですか?


 レヴァナントとは言え、元はオークですよね?

 ロバーツ様が白銀の槍を振るってネズミを一匹退治するようなものではないか。


 洞窟内の温度が急激に上がっている。かなり暑い。いや熱い。

 ちょっと、待って。壁の表面が溶けているんですけど……。


「ブリザード!」


 今度はジェームズ様の手から吹雪が噴き出した。氷の上級魔法だ。どうやら熱くなり過ぎたので周囲の温度を下げる積りらしい。


「やり過ぎたか」


 ロバーツ様が笑っている。


「すまん。狭いところで使う魔法ではなかったな。パウル殿、すまないが後退してくれ。化け物を退治したのは良いが、これでは我らが干からびてしまう」

「う、承って、ブフッ、そ、候!」


 パウルさんが思わず吹き出していた。




「いやー、まいったな」


 皆、暑くなったところを冷やされたものだから、汗だくになった。ジェームズ様が手拭で顔を拭いている。


「両手を使って目一杯でやってしまった。こんな事なら片手にしておくべきだった」


 結果はそうは変わらないような気もするが、そこは言ってはいけないのだろう。


「何事も経験だ。野外でなくて良かったよ。外なら山火事になっているところだ」

「これでは、エレノア様に怒られてしまうな」

「そう言えば、母上はお前の師匠だったな」

「そうだったんですか?」


 びっくりだ。こんなところで繋がりがあるとは思わなかった。


「私が十歳ほどの頃、ヘンリー様とエレノア様がメディオランドにお見えになられて以来だ。その頃から、何くれとなく行き来する度に教えを受けていた」

「俺や兄上がカトリーヌ司教に錫杖で尻を叩かれていた頃、ジェームズは母上に絞られていたわけだ」

「あの、やっぱり、厳しかったんでしょうか?」


 失敗したら、火責め、水責めにされたのだろうか。


「いや、そんなことをされた覚えは無いな。優しく指導して下さったよ」

「随分と扱いが違うな。不公平だ」

「その代わり、一回の失敗につき一回はエレノア様を笑わせるネタを披露しなければならなかったな」


 十分すぎる罰だ。不憫にも程がある。


「すまん。母上に代わって詫びておく」


 頭を下げるロバーツ様の額を流れた汗は熱いからではないだろう。既に、ジェームズ様の冷気の魔法が効いている。


「いや。どうも私にはそういったセンスが無いのだが、他国との交渉の場で相手のユーモアや冗談を機敏に察して自然に笑えるようになった。そういう意味では感謝している」


 思わず、ロバーツ様と顔を見合わせてしまった。

 どうやら洗脳されてしまったらしいが、暑い夏の日にしか役に立たないオッサンのくだらない冗談をことごとく笑えるのは高等技術に違いない。相手はさぞや喜ぶだろう。

 結果的に、外交の場で役に立っているのなら良かったのかもしれない。 




 温度が落ち着いたので、広間に行くことにした。

 途中の洞窟は急激に加熱されて急激に冷却された。その温度差だけでも無事な生き物はいるまい。


 がらんとした空間は静まり返っていて、聞こえるのは四人の息遣いだけだ。

 目一杯にした光で周囲を照らすと、かなり広い円形の部屋だった。隙間なく詰め込めば五百人程度は寝泊まり出来そうだ。何本か柱が立っている。

 天井はそう高くなく、洞窟の二倍程度でしかない。

 床のところどころに窪みがあるが、それ以外には何も見当たらない。


「行き止まりか?」

「レヴァナントがうろついていたところを見ると、特段地面に罠はないだろう。だとすると、上か。ジャンヌ上を照らしてくれ。パウル、隅から隅まで見て廻るぞ」


 ロバーツ様と共に天井を見上げながら、ライトで照らしていくと、一か所穴が空いていた。

 入ってきた入り口から見ると、左の方向になる。

 ここまで来た洞窟と同じサイズだ。お椀で登って行ける。

 ジェームズ様がウィンド・バリアで頭上の守りを固め、ライトを目一杯にして照らしてみる。

 全く先が見えない。

 まるで、縦に繋がった配管のように上の方に延びている。

 このまま登るのかと思ったのだが、ジェームズ様はカンテラを見ている。蝋燭に刻まれた筋が一本見えない。


「ロバーツ。時間だ。一旦切り上げよう」

「分かった。その前に、ここの真下に大きめの穴を掘っておいてくれ。上からレヴァナントが降ってきたら、また汗をかかねばならん。ある程度は穴の中に落としておこう」


 なるほど。そういう補充方法も

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