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アラカン派遣探索者は意外とヤれる  作者: あおおに


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36/48

神 vs 吸血鬼

 伊吹蝶子と再会してから、数日が経った。

 あの女は、最後に言った。

 深層で待ってるわ、と。

 正直、格好良かった。

 中学時代から格好良い女だったが、迷宮で若返り、深層冒険者になり、胸まで立派になって現れた初恋相手が、そんな台詞を吐いて去って行ったのである。


 刺激されなかったと言えば、嘘になる。

 だが、俺こと三烏柔内は、アラカンである。

 若い頃なら、うおおお、俺も深層に行くぞ、と燃え上がったかも知れない。だが、今の俺はまず膝と腰の心配をする。

 人間、年を取ると、情熱より関節が先に来るのだ。


 とはいえ、少し深いエリアに行ってみようかという気にはなった。

 別に蝶子に刺激された訳ではない。

 ないったらない。

「ほう。初恋の女に尻を叩かれたか」

「イナリ様、言い方」

 俺の部屋の神棚付近で、いなり寿司をつまみながら、イナリが楽しそうに言った。


 家賃二十万円の部屋に住み着いた幼女神は、今日も実に偉そうである。見た目は日本人形のように整った幼女。中身は神様。そして、食い意地はなかなかのもの。

「別に尻を叩かれた訳じゃありません。ただ、少し深いエリアにも慣れておくべきかなと思っただけで」

「同じ事じゃろう」

「違います」

「では、妾が行きたいと言ったからにしておけ」


 それは事実だった。

 イナリは迷宮に興味津々である。神様らしく、存在力とやらを高めるためでもあるらしいが、最近はどう見ても、食べ物目当ての比率が増えている気がする。

 迷宮牛。黄金牛。ついでに、『はるか』のいなり寿司。

 この神様、だいぶ地下都市に馴染んでいた。


 そこで俺は、久々にカヤシマのオッサンのパーティーと組む事にした。

 大剣持ちのカヤシマ。盾役で調理役のクラタ。魔法使いのエグサ。そして紅一点、弓矢使いのミショウ。

 安定感のあるベテランパーティーである。

 俺一人とイナリだけで深めのエリアに行くより、ずっと安心だ。


 いや、イナリがいる時点で安心も何もない気もするが、精神的な保険は大事である。

「それで、今日は少し深いエリアまで行くんですよね?」

 ミショウが確認する。

「はい。無理しない範囲で。イナリ様もいるので」

「妾は構わぬぞ。強い獲物の方が、存在力も増す」

「あと、美味いものがあると良いですね」

「そこも大事じゃ」

 やはり食べ物目当てが混じっている。


 ともかく、俺たちは迷宮に潜った。

 浅いエリアを抜け、いつもより深部へ進む。

 空気が変わる。

 出てくるモンスターの気配も、明らかに濃い。

 カヤシマたちも、自然と口数が減る。

 俺も装備を確認しながら歩いた。

 イナリだけは、草履に着物で平然としている。


「本当に、その格好で深いエリアまで来るんですね」

「妾に防具など要らぬ」

「その台詞、一度で良いから言ってみたい」

 俺が呟くと、カヤシマのオッサンが苦笑した。

 しばらく進むと、エリアの奥から、重い足音が聞こえてきた。

 ずしん、ずしん。

 嫌な音である。


「トロールです」

 ミショウが弓を構える。

 トロール。

 大柄な人型モンスター。膂力が強く、再生力もある。普通の冒険者なら、正面から戦うのは避けたい相手だ。

 現れたトロールは、まさにそんな感じだった。


 身長は三メートル超。腕は丸太のよう。口からは牙が覗き、濁った目でこちらを見ている。

「クラタ、受けるな。逸らせ」

「分かってる」

 カヤシマのオッサンが大剣を構え、クラタが盾を前に出す。エグサは杖を上げ、ミショウは弓に矢を番える。

 俺も武器を抜こうとした。


 その時、イナリが一歩前に出た。

「ふむ。少しは食いでがありそうじゃな」

「食べるんですか?」

「食わぬ。喩えじゃ」

 そう言って、イナリは小さな手を軽く振った。

 ぽう、と鬼火が灯る。

 一つ。二つ。三つ。


 トロールが咆哮を上げ、こちらへ突っ込んで来た。

 クラタが盾を構える。カヤシマが横から斬り込む態勢に入る。

 だが、その前に鬼火が飛んだ。

 青白い火が、トロールの胸に、肩に、顔にぶつかる。

 トロールが燃えた。


 いや、燃えたというより、焼かれた。

 再生力がどうこうという間もなく、鬼火が肉を焼き、魔力を焼き、存在そのものを削っていくようだった。

 トロールが暴れる。腕を振り回す。だが、イナリは少しも動かない。

「もう少しじゃな」

 さらに鬼火が二つ飛ぶ。

 トロールの膝が崩れた。巨体が通路に倒れる。


 そのまま、光となって消えた。

 残ったのは、ドロップと魔石。

 あっさりである。

「……トロールですよね?」

 クラタが、盾を構えたまま呟いた。

「トロールでしたね」

 エグサも呆然としている。

「三烏さんの周り、どうなってるんですか?」

 ミショウが聞いてきた。


「俺も知りたいです」

 正直、俺も同じ気持ちだった。

 イナリの鬼火は、迷宮牛にも、黄金牛にも通じた。だが、再生力のあるトロールにも問題なく通用するらしい。

 ゲキつよである。

 カヤシマのオッサンは、大剣を下ろしながら笑った。

「心強いな」


「心強過ぎて、自分たちの出番が減りそうですが」

「それもまた経験だ」

 ベテランは受け止め方が大人だった。

 その後も、俺たちは何体かのモンスターと遭遇した。

 トロール。大蜘蛛。硬い甲殻を持つ蜥蜴のようなモンスター。

 カヤシマたちが前に出て、俺も支援し、イナリが鬼火で焼く。


 安定していた。

 安定し過ぎて、少し怖いくらいだった。

 とはいえ、深いエリアで長居するのは危険だ。  俺たちは無理をせず、いつもの安全エリアに向かった。

 そこは砂漠エリアだった。

 迷宮の中なのに、空があるように見える。いや、本物の空ではないのだろうが、頭上には暗い夜空のようなものが広がっていた。


 砂は白く、ところどころに低い岩があり、風もある。

 不思議な場所だ。

 そして、この一角はモンスターがほとんど近づかない。探索者たちの間では、野営場所として知られている。

 クラタが慣れた手つきで簡易的なかまどを作り、ミショウが水を用意し、エグサさんが火種を魔法でつける。


 カヤシマのオッサンは周囲を確認し、俺は荷物を出した。

 イナリは、岩の上に座って夜空もどきを眺めている。

「迷宮というのは、不思議なものじゃな」

「神様でも不思議なんですか?」

「神にも分からぬものはある」

「そうなんですね」

「だから面白い」

 イナリは少し笑った。


 その顔は、見た目相応の幼女のようでもあり、年齢を超えた神のようでもあった。

 クラタの料理は美味かった。

 迷宮で食べる温かい飯というのは、それだけでありがたい。肉と野菜を煮たものに、固めのパン。  そこにイナリ用として持ってきたいなり寿司も並ぶ。

「準備が良いのう」

「忘れると怒られそうなので」

「分かっておるではないか」


 神様の機嫌を取るのも、社守の仕事らしい。

 食事を終え、皆が少し落ち着いた頃だった。

 砂漠の向こうから、足音が聞こえた。

 軽い足音。

 だが、妙に響く。

 カヤシマのオッサンが大剣に手を伸ばす。ミショウが弓を構える。エグサは杖を握り、クラタが盾を持つ。

 俺も身構えた。


 そして、闇の中から現れたのは、女だった。

 美しい女。

 白い肌。赤い唇。長い髪。夜の砂漠に似合う、黒いドレスのような服。

 女吸血鬼、メサージュ。

「お久しぶりですわ、三烏様」

 メサージュは、優雅に微笑んだ。


 俺は思わず、ほっとした。

「ああ、メサージュか。久しぶりだな」

 美しい女吸血鬼。強い冒険者を見ると仕掛けてくる、困った存在。ただし、勝っても殺しはしない。  吸血はするが、眷属化はしない。負けると消滅するが、死ぬ訳ではない。

 何とも迷宮らしい、よく分からない存在だった。


「ちょうど野営してるところだ。何か飲むか?」

 俺はそう言いかけた。

 だが、メサージュの視線は俺ではなく、岩の上のイナリに向いていた。

「今日は、あなたに用があるのです」

「妾か」

 イナリが楽しそうに笑った。

 その瞬間、空気が変わった。


 カヤシマたちも、それを感じ取ったらしい。全員が身構える。

 メサージュは、いつもの余裕たっぷりな笑みを浮かべている。だが、よく見ると、少し緊張していた。

 肩の力。指先の動き。目の奥の光。

 強い相手を前にした戦士の緊張だ。

「ずっと気になっておりました。迷宮に、新しい強い気配があると」


「ほう」

「神の気配。けれど、幼子の姿。実に興味深いですわ」

「ならば、試してみるか」

 イナリが岩から降りた。

 草履が砂を踏む。

 見た目だけなら、夜の砂漠に迷い込んだ着物の幼女である。だが、その周囲に漂う気配は、明らかに人ではない。

 メサージュは、嬉しそうに唇を吊り上げた。


「では、参ります」

「うむ。来い」

「いや、ちょっと待ってください」

 俺は思わず口を挟んだ。

「ここでやるんですか? 野営地ですよ?」

「少し離れますわ」

「そういう問題でもないんだが」

「心配は無用じゃ」

 イナリが言った。

「すぐ終わる」

 自信満々だった。


 メサージュは、その言葉を聞いても怒らない。  むしろ楽しそうだった。

 俺たちは少し離れた砂地に移動した。

 安全距離を取る。とはいえ、どこまでが安全距離なのか、正直分からない。

 カヤシマさんたちは完全に観戦モードだった。

 メサージュが動いた。

 速い。

 以前、俺と戦った時も速かったが、今回はさらに速く見えた。


 黒い影が砂の上を滑る。右にいたと思ったら、次の瞬間には左。さらに背後。

 月もどきの光の下、吸血鬼の姿が残像のように揺れる。

 俺は目で追うだけで精一杯だった。

「これ、俺とやった時より速くないか?」

 思わず呟く。


 ミショウが、顔を引きつらせていた。

「弓で狙える気がしません」

 だろうなと思った。

 だが、イナリは動かない。

 何気なく立っているだけである。

 着物の袖が、砂漠の風に少し揺れる。

 メサージュが爪を伸ばし、横から斬りかかる。


 その瞬間、鬼火が一つ灯った。

 ぽう。

 青白い火が、メサージュの爪を弾く。

 メサージュはすぐに離れた。さらに高速で動き、今度は背後へ回る。

 鬼火が二つ。

 背後に回ったメサージュを追い、弾ける。

 メサージュは空中で身を捻り、砂地へ着地した。


「素晴らしいですわ」

 声が弾んでいる。

 緊張しながらも、嬉しそうだ。

 強い相手と戦う事が、本当に好きなのだろう。

「まだまだじゃな」

 イナリも笑っている。

 こちらも嬉しそうである。

 何だろう。見た目は幼女と美女の戦いなのだが、中身は戦闘狂同士の交流会である。


 メサージュがさらに加速した。

 砂が舞う。黒い影が幾筋にも分かれる。

 吸血鬼の爪が、牙が、魔力を帯びた赤い霧が、イナリに迫る。

 それに対し、イナリはただ立ったまま、手を少し動かすだけ。

 鬼火が灯る。飛ぶ。弾ける。


 一つ一つは小さい。だが、数が増えていく。

 最初は十。次は二十。やがて、空中に数え切れないほどの青白い火が漂い始めた。

 メサージュはその間を縫うように動く。

 速い。美しい。そして、危ない。

 一つ触れただけで、ただでは済まない鬼火の群れを、吸血鬼は紙一重でかわし続ける。

 だが、逃げ場は少しずつ削られていった。


「あれ、包囲してますね」

 エグサが呟く。

「鬼火をばら撒いてるだけに見えますけど、ちゃんと逃げ道を潰してます」

「神様って、えげつないな」

 俺は正直な感想を漏らした。

 メサージュも気づいているのだろう。笑みは消えていないが、額に汗のようなものが見えた。

 吸血鬼に汗が出るのかは知らない。


 それでも、追い詰められているのは分かった。

「ならば!」

 メサージュの身体が、赤い霧に変わった。

 霧化。

 物理攻撃をすり抜ける吸血鬼らしい能力である。

 普通なら厄介だ。

 だが、相手は鬼火である。


「霧でも、燃やす!」

 イナリが指を鳴らした。

 鬼火が一斉に収束した。

 青白い炎の網が、赤い霧を包む。

 メサージュの声が響いた。

「ああ、これは……!」

 悲鳴ではなかった。

 歓喜に近い声だった。


 次の瞬間、赤い霧は青白い炎に包まれ、激しく燃え上がった。

 砂漠の夜が、一瞬だけ昼のように明るくなる。

 そして、メサージュの姿は消えた。

 あとに残ったのは、一つのワイン樽だった。

 ごろん、と砂の上に転がっている。

 沈黙。


「……勝ったんですか?」

 クラタが聞いた。

「勝ったんだと思います」

 俺は答えた。

 イナリは、満足げにワイン樽へ歩いて行った。

「良い酒の気配じゃ」

「ドロップ品がワイン樽……」

 吸血鬼メサージュらしいと言えば、らしい。


 イナリが樽を軽く叩くと、いつの間にか杯が現れた。いや、神様だから何でもありなのだろうか。

 樽から赤いワインが注がれる。

 イナリはそれを、くいっとあおった。

「うむ」

 目を細める。

「美味い」

「幼女の姿でワインをあおらないでください。絵面が悪いです」

「妾は神じゃ」

「便利な言葉ですね、本当に」

 俺も少しだけ分けてもらった。

 一口飲んだ瞬間、分かった。

 超美味い。


 ワインの事など詳しくない俺でも分かる。この前の黄泉平坂の葡萄のワインとは違う。香りが深い。  渋みが柔らかい。甘さもあるのに、重くない。飲み込んだ後、身体の奥がじんわり温かくなる。

「これは、凄いですね」

 カヤシマも驚いていた。

 クラタは料理人の顔になっている。

「肉料理に合わせたいですね」


「黄金牛、残しておけば良かった」

 俺が本気で悔しがると、ミショウが笑った。

「三烏さん、発想が食べ物寄りですね」

「最近、周りの影響で」

 主に神様の影響である。

 それにしても、俺は少し気になっていた。


 メサージュは強かった。

 速かった。美しかった。あれだけの鬼火を相手に、かなりの時間粘った。

 だが、俺と以前戦った時より、明らかに本気だった気がする。

「……俺とやった時、メサージュは手加減してたんじゃないか?」

 ぽつりと呟く。


 イナリが杯を片手に、こちらを見た。

「そうじゃろうな」

「やっぱり?」

「おぬしを殺す気はなかったのじゃろう。吸血鬼の遊び方じゃ」

「遊ばれてたのか、俺」

「悪い事ではない。相手に興味を持たれたという事じゃ」

 慰めになっているような、なっていないような。


 カヤシマが苦笑した。

「それに、今の戦いを見て生きて帰れるだけでも、普通は貴重な経験だよ」

「それは確かに」

 あんな戦闘、普通なら巻き込まれただけで終わりである。

 俺たちはその夜、メサージュのドロップしたワインを少しだけ楽しみ、残りは大事に収納した。


 イナリはかなり満足そうだった。

「また来ぬかのう、あの吸血鬼」

「負けたのにですか?」

「死なぬのじゃろう?」

「まあ、たぶん」

「ならば、また戦える」


 神様、だいぶ物騒である。

 翌日、俺たちは無事に地下都市へ戻った。

 ドロップもそこそこ取れた。トロールも倒した。  メサージュのワインも手に入った。

 成果としては十分過ぎる。

 ギルドに報告すると、またオオヤシロとカミキが、見事なまでに知らないふりを発揮した。


「トロールのドロップですね。良い成果です」

「こちらは……ワイン樽ですか」

「はい。女吸血鬼が落としました」

「なるほど」

 なるほどで済ませるな。

 だが、このギルドでは済むのだ。

 政府に知られると大ごとになる話は、知らないふり。神様も吸血鬼も、単独ドラゴン討伐も、扱いはだいたい同じである。

 大人の組織は恐ろしい。


 その後、俺とイナリは、いつものように『はるか』へ向かった。

 迷宮帰りに、はるか。もう完全に習慣である。

「いらっしゃい」

 女将さんの声に迎えられ、俺たちは店に入った。

 そして、カウンターの端を見て、足を止めた。

 メサージュがいた。

 普通にいた。

 赤ワインを片手に、優雅に飲んでいた。


「お久しぶりですわ、三烏様。イナリ様」

「昨日ぶりでは?」

 俺が言うと、メサージュはくすりと笑った。

「迷宮の中と外では、また違うものですわ」

「そういうものか?」

「そういうものですわ」

 もう深く考えない事にした。


 イナリも、当たり前のように椅子に座る。

「昨日の酒は美味かったぞ」

「お口に合ったようで何よりですわ」

「また落とせ」

「それは、また勝ってからですわね」

「ふむ。楽しみじゃ」

 何だ、この会話。

 昨日、燃え尽きてワイン樽になった相手と、普通に次の戦闘の話をしている。


 迷宮の常識は、外の常識と違い過ぎる。

 いや、この店もだいぶ迷宮側に寄っている気がする。

 女将さんは、俺たちの様子を見ても、特に驚かない。

「今日は何にする?」

「お任せでお願いします。あと、これを少し使えますか」

 俺はメサージュのワインを少し出した。


 女将さんは香りを確かめ、にやりと笑った。

「良いわね。煮込みに使いましょう」

「贅沢ですね」

「こういう時に使わないと、もったいないわ」

 料理人は強い。

 しばらくして、料理が並んだ。


 ワインを使った肉の煮込み。香草焼き。温かいスープ。そして、イナリ用のいなり寿司。

 メサージュはワインを傾け、イナリはいなり寿司と煮込みを交互に食べ、俺はひたすら料理に舌鼓を打った。

 美味い。

 迷宮で疲れた身体に、女将さんの料理は染みる。


 ワイン煮込みは、肉がほろほろにほどけ、深い香りが広がる。昨日の戦闘で手に入れた酒が、今日の飯をさらに美味くしている。

 何というか、迷宮生活の醍醐味である。

「三烏様」

 メサージュが、ふと俺を見た。

「はい?」

「あなたも、また強くなりましたわね」

「そうですか?」

「ええ。以前より、気配が濃くなっています」


「年のせいで加齢臭が濃くなったとかではなく?」

「柔内くん」

 女将さんに睨まれた。

「すみません」

 メサージュは楽しそうに笑った。

「いずれ、もう一度お相手願いたいものですわ」

「俺よりイナリ様の方が良いんじゃないですか?」

「もちろん、イナリ様も。しかし、あなたにはあなたの面白さがあります」


「面白さ」

「奇妙な強さ、とでも申しましょうか」

 褒められているのか、よく分からない。

 イナリが横から言った。

「この男は、くたびれておるが、底が見えぬところはある」

「くたびれは余計です」

「事実じゃ」

 否定できない。

 メサージュは杯を掲げた。

「では、くたびれた底知れぬ男に」


「やめてください、その乾杯」

 イナリも杯を掲げる。

「くたびれた男に」

「乗らないでください」

 女将さんまで笑っている。

 俺はため息をつきながら、湯呑みを持ち上げた。

「はいはい。くたびれた男です」

 そう言って、俺も軽く乾杯した。


 イナリがいなり寿司を頬張り、メサージュがワインを飲み、女将さんが次の料理を出してくれる。

 俺は煮込みを一口食べて、思わず目を閉じた。

 美味い。

 とりあえず、深層を目指すかどうかは、また明日考えよう。

 

 これ以上、何を望むというのか。

 ……いや、欲を言えば。

 もう少しだけ、胃袋が若返ってくれると助かる。

 俺は腹をさすりながら、そんな事を思ったのだった。

読んでいただいて、ありがとうございます。

こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
チャッピーの黄金牛の歌素敵でした。やりますねえAI。作曲はGeminiじゃない別のならやってくれるんでしょうか?それはともかく、魅力的なキャラが連鎖してきて盛り上がって来ましたね。「くたびれた底知れぬ…
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