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アラカン派遣探索者は意外とヤれる  作者: あおおに


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32/48

ケンカは嫌い

「お前、最近あんまりあの子といないな?」

 カヤシマのオッサンにそう言われたのは、いつもの『はるか』のカウンター席。

「ん?ああ、最近は真桃ちゃんもちょっと奥まで行けて、忙しいみたいだし、俺も泊まり込みが増えたし……」

「いいのか、そんなんで。こないだ、若い男といるとこ見たぞ」

「え」

 盃を持つ手が止まる。


「……でも、それはしょうがないよ。あっちは二十代で、こっちはアラカンだぜ。仲良くしてくれてるだけで、ありがたく思わなきゃ」

「へー。物分かりが良いんだな。そこまで割り切れてるとは思わなかった」

「……」

 カヤシマのオッサンはけしかけたいんだろうが、実際のところ、もう何回もフラれてるしなぁ。

 その後は、当たり障りのない話をして、お茶を濁した。


 で、いつもより早めに『はるか』を切り上げて、夜の街を歩いていると───。

 なんか、若い男女が揉めていた。

 男が女の手を引っ張ろうとするが、拒否されている……そんな感じ。 

 わざわざ間に入る事もないかなと思っていると、女の方に呼び止められた。

「あ、オジサン!助けて」

 顔を見たら、シィマだった。


「おう、久しぶり。痴話喧嘩中?」

「こいつ、しつこくて……」

 本当にイヤそうな表情のシィマ。

「なんだよ、オッサン!関係ねぇだろ!!」

 男が凄んでくる。茶髪のイケメンだが、ちょっとコワモテのする感じだ。


「シィマ、この後、デートしないか?」

「する!」

「そういう訳で関係ありだ。その手を放してくれるか?」

 俺がしゃあしゃあと言ってやると、男はかなり頭に来た様だ。シィマの手を放すと、俺の眼前に顔を差し出して来た。距離だけなら、完全にキスの距離である。

「死にてぇのか!?」

「ガラが悪いなー」


「ああん!?」

「いちいちうるさい。まあ、いいや。この子は連れて行くから、悪いな」

「待てや、おい!」

 男が俺の胸ぐらを掴もうとし───スカッと、空振りした。【方違え(かたたがえ)】が自動で発動しちゃったのだ。

「オッサン!舐めやがって!!」

 お陰で、男が完全に怒ってしまった。


「───おい、どうした!?」

 そこにやって来る、男が二人。

 やはり、やんちゃな感じのイケメンたちだ。一人は、顎にだけ髭を生やしている。

「このオッサンが邪魔すんだよ!」

「わー、似た様なのが増えた……」

「オッサン、若者の恋路を邪魔しちゃいけねぇな」

 顎鬚が大物ぶって近づいて来る。


「うるせぇよ」

 俺は、シィマの細い腰を抱き寄せた。シィマも「アアン」とか言いながら、俺に身を寄せて来る。

「お、おい、シィマ……!」

 最初の男は、本気でびっくりしている。

 顎鬚は、怒り心頭だ。

「てめぇ!いい加減にしねぇと───」


「いい加減にしねぇと?」

 拳を固める顎鬚を、三人目の男が止めた。

「オッサン、探索者か?」

「ん?ああ……」

「じゃあ、付き合えや」

「どこに?」

「ギルドの修練場だよ」


「修練場?」

「そこなら、好きにやり合えるからよ。まさか、ここまで挑発しといて、逃げやしないよな?」 

 ほう、ギルドにそんな場所があったのか。

 しかし、ケンカかぁ。いいトシして、そういうのもなぁ。

「あいつ、真桃にしつこくしてる奴よ」

「分かった。行こう」

 そういう事になった。





 修練場は、テニスコートの半分ぐらいの広さだった。地面も土のままだ。

 こんな部屋がいくつかあり、探索者なら無料で借りられるらしい。

「じゃ、やろうか」

 三人目の言葉とともに、男たちが俺を取り囲んだ。

「ねぇ!三人同時って、卑怯じゃない!」

 シィマが抗議の声を上げるが、三人はせせら笑うだけ。

「どうせ一対一でも変わらねぇんだ。この方が、オッサンもカッコがつくだろ?」


「俺たちはトロールだって狩れるんだぜ。オッサンは、せいぜいゴブリンぐらいだろ。格が違うってんだ」

 顎鬚の男も、嬉しそうに言葉で嬲って来る。オッサン相手にᏚっ気を出すなよ、気持ち悪い。

「俺はドラゴンを倒した事あるよ?」

「ははは!面白ぇじゃねぇか!いつまで軽口が叩けるかなっ!?」

 シィマ狙いの男が、いきなり飛び膝蹴りをかまして来た。

 意表は突いているが───。


 またもや【方違え】が発動し、男は俺の横を素通りして行った。

「ああ!?」

 何か騒いでるのを無視し、【縮地】を発動。顎鬚の男の前に瞬間移動する。

「!!」

 驚きの表情を浮かべたところへ、渾身の腹パン。

 身体を二つに折って、地に沈む顎鬚。


 そして、また【縮地】。

 今は、連続で三回まで【縮地】が使えるようになっている。

 今度は、真桃ちゃんに付きまとっているという男に、瞬間移動飛び膝蹴りを喰らわせた。

 ぶっ飛ぶ男。飛び散る前歯。

 やりすぎたか?いや、知らん知らん!

 そして、最初のシィマに付きまとっていた男に向き直る。


「オッサン、何なんだよ!?あ?話が違───」

「もう、シィマに付きまとうなよ」

 三回目の【縮地】。

 顔面に拳を叩き込む。

 鼻が潰れた感触。

 男は、白目を剥いて、ぶっ倒れた。

 完勝だ。


 三人とも床に転がり、うめき声を上げている。さっきまでの威勢はどこへやら、見る影もない。

「……ぐ、ぅ……」

 顎鬚の男が腹を押さえながら身を丸める。飛び膝を喰らった奴は歯を押さえて涙目だし、最初に絡んできた男に至っては、まだ白目を剥いたままピクピクしていた。


「……加減はしたぞ」

 一応、言っておく。まあ、信じるかどうかは別だが。

「次からは、人を選べよ」

 それだけ言って、踵を返す。

「ま、待て……!」

 かすれた声が背中に飛んできた。振り向くと、最初の男がなんとか上体を起こしていた。

「……シィマに、近づくなって言ったよな……?」

 息も絶え絶えだが、まだ目だけはギラついている。


「言ったな」

「……あんた、マジで何者だよ……」

「ただのオッサンだよ」

 肩をすくめる。

「それと、もう一つだけ」

 少しだけ間を置く。

「嫌がってる女にしつこくすんな。……ダサいぞ」

 それだけ言い残して、今度こそ修練場を出た。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 後ろからシィマが慌てて追いかけてくる。

 廊下に出ると、彼女は俺の腕にしがみついた。

「もう!びっくりしたぁ……!」

「大したことないだろ」

「あるよ!三人相手だよ!?」

 ぷんすか怒りながらも、身体はぴったり寄せてくる。さっきまでの勢いとは違う、どこか甘えるような力加減だ。


「……ありがと」

「ん?」

「助けてくれて」

 素直な声だった。

「別に。ついでだ」

「ついでであれやる!?普通!」

 けらけらと笑うシィマ。

 さっきまでの緊張が嘘みたいに、空気が軽くなる。


「で、この後どうする?」

「え?……あ、飲み直す?」

「まだ飲むのかよ」

「いいじゃん。今日はそういう気分!」

 ぐいっと腕を引かれる。

 ……まったく。


「軽くだぞ」

「やった!」

 嬉しそうに笑って、さらに距離を詰めてくる。

 柔らかい感触と、ほのかな酒の匂い。

 ――いけない。

(……落ち着け、俺)

 内心でブレーキを踏む。


 はっちゃけたい気分はある。

 だが、はっちゃけたら色々終わる気もする。

 隣で無邪気に笑うシィマを見て、ため息を一つ。

「ほら、店どこだよ」

「こっち!」

 夜の街へ歩き出す。


 腕に絡みつく重みを感じながら、俺は自分の理性と静かに戦い続けるのだった。

 


読んでいただいて、ありがとうございます。

こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
枯れ専…なのか?シィマちゃんw
完結した扱いなのかな?
4人目が一番強敵だったw
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