救出作戦
───カヤシマのオッサンのパーティーが行方不明になっている。
そう聞いた俺は、矢も盾もたまらず迷宮の奥に向かいたかったが、さすがに自分の実力を鑑みて、それは思い止まった。
が、【仙人みかん】スキルの利便性を主張し、カヤシマパーティーの救出隊に潜り込む事に成功する。
救出隊は、俺を入れて十人。
ドラゴノイド戦の時のリーダーだったマナセのパーティー四人と、キトラという男のパーティー三人、それに治療役、調理役、輸送役が一人ずつ。俺は、輸送役だ。
カヤシマのオッサンのパーティーは、いつか一緒に行ったトロールのいるエリアより更にいくつか先のエリアに向かったらしい。狙いは、サラマンダー。炎を操る大型のトカゲで、なんと火魔法の魔道書をドロップするのだそうだ。
氷魔法を得意とするエグサの攻撃手段を増やす為に、魔道書を取りに行ったのだろう。
で、サラマンダーがそこまで難敵かと言うと、カヤシマパーティーであれば、そうでもないらしい。魔道書がドロップするかどうかは別として、倒すだけなら問題ないという話だった。
「つまり、何かアクシデントがあった訳だ。分かるのは、それだけだ」
先を急ぎながら、マナセが言う。
言い方はぶっきらぼうだが、マナセもカヤシマとは親交があるらしく、その表情は優れない。
片やキトラはヘラヘラしており、どこか他人事のノリだ。キトラのパーティーにいる魔法使いなんて、ついでにサラマンダーから魔道書が取れないか真剣にマナセに交渉していた程である。
治療役と調理役も、俺と同じで深部に向かえる実力ではないが、カヤシマのオッサンを助けたい気持ちで隊に志願したクチだ。キトラのパーティーだけが心配の種であった。
それでも、途中で出くわしたモンスターは、キトラのパーティーも率先して狩ってくれた。トロールあたりも速攻で片付けてくれて、実力が高いのはよく分かる。
が、モンスターを片付ける度に、俺たち三人の事を守ってやってるんだと恩着せがましく言うのは、鬱陶しかった。
こちらも、自分たちだけではサラマンダーのいる火山エリアまで行けない事は分かっているので、大人しくしているが、どうにもイライラがつのってしまう。
火山エリアには、二日目に辿り着いた。
実力の足りない三人は、もうヘロヘロである。
実力が足りないに加えてアラカンの俺は、ホントに息も絶え絶えだ。それを見て、またキトラたちが表情をしかめているのが、腹立たしい。早く強くならねば。
「おい、オッサン。ちゃんと心臓動いてるかよ?」
「ああ」
いいから放っといてくれよと思うが、キトラたちは絡んで来る。
俺はまだ良いが、治療役なんて二十代後半の女性なので、別の理由でも絡まれてプリプリしている。ウルシバラと名乗った彼女は、確かに魅力的な女性だったので絡みたい気分も分かるが、救出の為を思えばそういう気持ちは置いておいて欲しいものだ。
ウルシバラが肩で息をしながらも、きっぱりとキトラの手を払いのけた。
「触らないで下さい。今はそういう状況じゃありません」
ぴしゃりとした声音に、さすがのキトラも一瞬だけ眉をひそめる。が、すぐにヘラヘラとした笑みに戻った。
「はは、余裕ねえなぁ。そんなピリピリしてたら、いざって時に動けねえぞ?」
「今まさに“いざ”でしょう」
マナセが低く割り込む。空気が一気に冷えた気がした。
だが、キトラはその空気すら楽しんでいるようだった。
「だからよ、軽く肩慣らしでもしとこうって話だろ? なあ?」
そう言った直後だった。
――ギャアアアアアッ!!
岩場の向こうから、耳障りな咆哮が響いた。サラマンダーだ。しかも、近い。
「来るぞ、警戒!」
マナセの指示が飛ぶ。だが、それよりも早く――
「よっしゃ、来た来た!」
キトラが嬉々として前に飛び出した。
「ちょっ……待て!」
マナセの制止も聞かず、キトラは剣を振り上げてサラマンダーへ突っ込む。後衛の魔法使いも、慌てて詠唱を始めた。
結果として、戦闘は避けるどころか、真正面からぶつかる形になった。
俺は思わず舌打ちする。
(なんでこうなる……)
サラマンダーは炎を纏った巨大なトカゲだ。熱波が肌を焼き、息をするだけで喉がひりつく。
だが――強いのは確かだが、対処不能な相手ではない。
マナセたちが冷静に連携すれば、だ。
「氷槍、三連!」
マナセパーティーの魔法使い、アガツマの魔法が突き刺さり、動きを止める。そこにマナセが踏み込み、的確に関節を斬り裂いた。
キトラも、実力だけなら確かだった。炎をものともせず踏み込み、強引に首元へ刃を叩き込む。
数分後、サラマンダーは地に伏した。
「ふう……」
マナセが息を吐く。
「だから言っただろう、無駄な戦闘は避けろと」
その声音には、明確な苛立ちが含まれていた。
キトラは肩をすくめる。
「結果オーライじゃねえか。魔石も手に入ったしな」
「救出任務だ。狩りではない」
「硬いねえ。こういう時こそ、稼げるだけ稼ぐのが探索者ってもんだろ?」
その言葉に、マナセのパーティーの空気が一段と冷えた。
だが――
キトラは懲りない。
というより、理解する気がない。
「で、次はどっちだ?」
そう言いながら、倒れたサラマンダーのドロップアイテムに手を伸ばす。
「回収は最低限にしろ。時間がない」
「へいへい」
口ではそう言いながら、しっかりと回収を始めるキトラの仲間たち。手際はいいが、明らかに優先順位を間違えている。
その間にも、熱風は強くなっていく。
嫌な予感がした。
そして――それは当たる。
「……気配、多い」
アガツマが呟いた瞬間だった。
岩陰から、ぬるりと現れた影が一つ。
そして、もう一つ。
さらに、もう一つ。
「三体……!」
マナセが即座に構え直す。
だが、遅い。
キトラたちは、完全に回収に夢中だった。
「おい、来てるぞ!」
俺が叫ぶと、ようやく顔を上げる。
「は? マジかよ――」
その一瞬の遅れが、致命的だった。
サラマンダーの一体が、大きく口を開ける。
――轟ッ!!
炎のブレスが一直線に吐き出された。
「ぐあっ!?」
キトラの仲間の一人が、まともに巻き込まれて吹き飛ぶ。防御が間に合っていない。
「バカが!」
マナセが舌打ちしながら前に出る。
「陣形を組め!前衛は引きつけろ、後衛は距離を取れ!」
だが、キトラたちは統率が取れない。
「いや、三体はキツいだろ!?」
「一回引くか!?」
「今更引けるか!」
口々にバラバラなことを言い、動きもバラバラだ。
その間にも、二体目、三体目が迫る。
完全に包囲されていた。
「チッ……!」
マナセのパーティーが即座にフォローに回る。
本来なら、こんな無茶な状況は作らない。だが、今は違う。
放っておけば――死ぬ。
「ウルシバラ、後ろに下がれ!」
「分かってます!」
ウルシバラが必死に回復魔法を飛ばす。さっき吹き飛ばされた男の傷が、じわじわと塞がっていく。
だが、追いつかない。
「ぐっ……熱……!」
別の一人が、炎に焼かれて膝をつく。
「ちょ、ちょっと待て!援護しろよ!」
「誰が誰をだよ!」
完全に崩壊していた。
実力はある。だが、連携も判断も最悪だ。
そのしわ寄せが、全部マナセたちに来ている。
「――下がれ!」
マナセが怒鳴る。
「これ以上前に出るな!死ぬぞ!」
だが、キトラは歯を食いしばりながらも前に出ようとする。
「うるせえ!ここで引いたらドロップが――」
「命とどっちが大事だ!」
一瞬、言葉が詰まる。
だが、それでもキトラは完全には引かない。
その迷いが、さらに状況を悪化させる。
――結果。
数分後には、見るも無惨な状態になっていた。
キトラのパーティーは、三人とも満身創痍。立っているのがやっとだ。
マナセたちも無傷ではない。だが、なんとか踏みとどまっている。
そして――三体のサラマンダーは、未だ健在。
ジリジリと包囲を狭めてくる。
「……くそったれ」
マナセが吐き捨てる。
その視線の先には、キトラたち。
だが、責める時間すらない。
「総員、防御優先!時間を稼ぐ!」
撤退もままならない状況。
完全に、詰んでいた。
キトラは荒い息を吐きながら、ようやく現実を理解したようだった。
「……やべえな、これ」
「今更気付いたのか」
マナセの声は、冷え切っていた。
だが、それでも見捨てない。
歯を食いしばり、仲間を守るために剣を構える。
その背中を見て――
俺は、ため息をついた。
(……これは、助けに入らないと全滅コースだな)
ウルシバラと、調理役の顔を見る。
二人とも、同じ結論に達している顔だった。
――キトラたちは、ここで一度、徹底的に恥をかくべきだ。
だが、それで死なれても困る。
面倒くさい話だが――
俺たちが、尻拭いをするしかないらしい。
読んでいただいて、ありがとうございます。
こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。




