またもやのメサージュ姉さん
泊まりがけでのオーガ戦以降は、俺はまた日帰り主体の活動に戻っていた。
基本的に週二日の出勤。最近の狩り場は、鉄骨エリア。ドールの落とすインゴットが良いお金になるのだ。普通なら、インゴットの重さのせいで持ち帰れる量が制限されるところだが、俺の場合は【仙人みかん】のお陰で大量に持ち帰れるのもありがたかった。
で、ダンジョンに潜った日は、大体『はるか』に寄る訳だが……。
ある日、一人で『はるか』に行くと、吸血鬼が飲んだくれていた。
カヤシマのオッサンが絡まれているのを見て、そのままUターンしようとする。
「待ちなさいよ」
あっさり、見つかった。
【縮地】で逃げようかと思った時には、血のムチが俺の首に巻きついている。
「ぐえっ」
仕方なく、メサージュの隣───カヤシマのオッサンの反対側に腰を下ろした。
しかし、今【方違え】が発動しなかったな。敵意の無いアクションには反応しないのか?これは、あまりアテにし過ぎると足元をすくわれるかもな。気を付けよう。
「で、どうしたんですか、そんなに酔っ払って……」
実際、メサージュは吸血鬼のイメージにそぐわない程に酔っていた。
「いいじゃない、吸血鬼が酔っ払ったって」
「そりゃ、構いませんけどね。何かあったのかって心配じゃないですか」
「あら、心配してくれるのね。カヤシマと違って、ミツガラスは優しいわねぇ」
それを聞いたカヤシマのオッサンが、顔をしかめる。
「おいおい、散々グチを聞いてやったのに、それはないだろ」
「あーん、ごめんなさい。カヤシマも優しいわぁ」
なんか、情緒不安定になってないか、この吸血鬼。
話を聞いてみると、吸血鬼の世界側でもドラゴノイドの侵攻があったと言う。
でも、戦闘大好きな吸血鬼たちだが、ドラゴノイドとの戦いはあまり楽しくないのだそうで、ストレスばかりが溜まっていたらしい。
で、一応ドラゴノイドを撃退出来たとの事で、わざわざこちらまで飲みに来たんだそうな。
そこまで人間の世界を気に入ってもらってるのは嬉しいけど、ご苦労様な事だ。
「オオヤシロさんでも呼ぶ?」
「もっと若いのが良い」
俺は若い男には知り合いがいないので、カヤシマのオッサンがあちこち連絡を取り始めた。誰か知らないが、押し付ける気満々だな。
「そう言えば、こっちのドラゴノイドは温水の湿地エリアに巣食っていたけど、モンスターの湧かない温泉エリアとか無いのかなぁ?」
「そんな場所があったら、住み着く奴が出そうだな」
「あら、あるわよ。でも、こちらからだとずいぶん遠いかな」
「あるのかよ……」
「うーん、あなたたちでも、まだ無理かな。無理かもね」
割と真剣に考えてくれるメサージュ。
なぜか、メサージュと混浴している情景が頭に浮かぶ。むふふ。
「ミツガラスはヤラシイ事考えてたわね。あなたは若い子と温泉に入りたいんでしょ!」
「ヤラシイな、ジジィのクセに」
「いや、誤解、誤解だって。あの子らとは、そんなんじゃないし」
「じゃあ、あの子でも行けそうなトコで、モンスターの湧かない常夏の湖畔エリアがあるけど、教えなくて良いわね?」
「教えて下さい」
俺は素直に頭を下げた。
で、気が付けば、常夏湖畔エリアへの遠征当日。
参加者は、俺、カヤシマのオッサン、クラタ、エグサ、ミショウ、そして真桃ちゃん、シィマ、マユリ、ユサ、キョウコ。そしてあの日、最終的にメサージュを押し付けられたコウガとイフクベ。
コウガとイフクベは二十代後半のイケメンだが、すでにメサージュに完惚れしており、マユリとキョウコの欲求不満は解消されそうにない。
今回は丸一日かけて常夏湖畔エリアを目指し、現地で二泊ぐらいする予定である。
夜には、メサージュも顔を出す予定らしい。
途中はそれなりに高難度のエリアもあり、真桃ちゃんたちだけでなく俺も良い経験値稼ぎになった。
コウガとイフクベも、カヤシマのオッサンと付き合いがあるだけの実力の持ち主で、俺が苦戦する相手を簡単に倒していた。若いわ、強いわ、メサージュに籠絡されてなかったら、敵認定してたところだ。
ちなみに、コウガはスピードを活かした双剣使いで、イフクベは火魔法を得意とする魔法使いである。基本的に、二人だけで活動しているらしい。
やがて、いくつものエリアを抜けて、俺たちは目的地へと辿り着いた。
常夏湖畔エリア―――その名の通り、そこはダンジョンの中とは思えないほど穏やかで、暖かな風が吹き抜ける場所だった。
「おお……こりゃすげぇな」 思わず声が漏れる。
夕暮れの光を受けて、湖面が黄金色に輝いている。水は透き通り、底の白砂まで見えるほどだ。周囲には背の低い南国風の木々が並び、どこか現実離れしたリゾートのような光景が広がっていた。
「ほんとにモンスター出ないんですか、ここ……」 ミショウが半信半疑で辺りを見回す。
「少なくとも湖畔は安全だ。奥に行けば分からんがな」 カヤシマのオッサンが肩をすくめる。
「じゃあ、さっさと拠点作るぞ。暗くなる前にな」 クラタの一声で、全員が動き出した。
テントの設営は手慣れたものだ。人数が多い分、あっという間に簡易キャンプが出来上がる。焚き火の準備も整い、あとは―――
「よし、飯だな」
俺は【仙人みかん】から食材を取り出す。迷宮牛、各種野菜、そして酒。クラタがそれらを手際よくさばいていく。
ジュウ、と肉の焼ける音が響く。
香ばしい匂いが広がり、空腹を刺激する。
「くぅ〜、たまらんな」
エグサが涎を拭う。
「はいはい、焦るな。順番だ」
クラタは鉄板を操りながら、次々と料理を仕上げていく。
気が付けば、宴会は自然と始まっていた。
「かんぱーい!」
誰ともなく声が上がり、杯が打ち鳴らされる。
肉は柔らかく、脂が甘い。酒も進む。湖から吹く風が心地よく、疲れた身体を優しく癒してくれる。
そして―――
「呼んだかしら?」
いつの間にか、そこにメサージュがいた。
「うおっ、びっくりした!」
「相変わらず気配ないな、この人……」
コウガとイフクベが苦笑する。
メサージュは当然のように席に座り、俺の酒を奪って飲み始めた。
「ん、悪くないわね」
「それ、俺の……」
「細かい事言わないの」
こうして、一晩目の宴はさらに賑やかさを増した。
メサージュは上機嫌で、コウガとイフクベを左右に侍らせつつ、時折こちらにも絡んでくる。真桃ちゃんたちは少し引き気味だが、それでも楽しそうに笑っていた。
満天の星空の下、笑い声がいつまでも響いていた。
翌日。
「きゃーっ!冷たくて気持ちいい!」
湖から上がる歓声で目が覚めた。
目をこすりながら外に出ると―――
「……おお」
そこには、水着姿の女性陣がいた。
真桃ちゃんはシンプルな白の水着。シィマはスポーティなタイプで、マユリとユサは少し大胆め。キョウコに至っては、ほぼ布面積が仕事を放棄している。
ミショウは恥ずかしそうにしながらも、水辺で足を浸していた。
「……いいな」
「ジジィ、顔に出てるぞ」
エグサに肘で突かれる。
「うるせぇ、健康的な鑑賞だ」
女性陣は泳いだり、日焼けしたりと自由に楽しんでいる。笑顔が眩しい。
一方、俺たち男組は―――
「釣りだな」
「だな」
現実的な選択をしていた。
湖には魚影が多く、釣果は上々だ。そこそこ大きな魚も釣れ、食材には困らない。
「これ、結構うまそうだな」
「脂乗ってそうだ」
イフクベが嬉しそうに眺める。
こうして、それぞれが思い思いに時間を過ごした。
二日目の夜。
焚き火の前には、焼き魚の香ばしい匂いが漂っていた。
「これは……当たりだな」
一口食べて、思わず唸る。
外はパリッと、中はふっくら。脂がじゅわっと広がり、塩加減も絶妙だ。
「美味しーい!」
真桃ちゃんが満面の笑みを浮かべる。
「釣り組、やるじゃない」
マユリが感心したように言う。
「だろ?」
俺はちょっと得意げになる。
酒も進み、会話も弾む。
ふと視線を上げると、水着のままくつろぐ女性陣の姿が目に入る。焚き火の明かりに照らされ、どこか幻想的ですらある。
危険なダンジョンの中で、こんな穏やかな時間があるとは思わなかった。
美味い飯と酒。
気のいい仲間。
そして、目の保養。
「満足かしら?」
隣でメサージュが笑う。夜にしか現れないメサージュも、なぜか水着姿だ。しかも、超ビキニ。
「まあな。あんたのおかげだ」
「ふふ、素直でよろしい」
その夜、俺は久しぶりに、心から満たされた気分で眠りについたのだった。
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