やっぱり食に走るのか
カヤシマのオッサンから、宴会の誘いが入った。
律儀に、ワインのお返しをしてくれるらしい。
場所は、カヤシマのオッサンの自宅。
人数が多くても良いとの事なので、真桃ちゃんを通じてシィマたちにも声をかけた。
しかし、誘われるだけでは心苦しいのて、俺も食材を持参する事にする。迷宮牛はこないだ食べたから、後はタイタン・クラブしか思いつかない訳だが。
そんなこんなで、宴会の前日に磯辺エリアに直行。
以前は、その甲羅の堅さに苦戦したタイタン・クラブだが、今回はちょっと話が違うのだ。ドールがドロップしたミスリル・インゴットで新しいメイスを作ってもらったのである。
ミスリル製の武器は、魔力の通りが段違いに良くなる。となると、その破壊力には期待大なのだ。
ちなみに、ドラゴノイドに傷つけられたボディースーツは、買い替える根性がなかったので、補修用の素材をパチワーク状に嵌め込んで、使い続けている。だって、一千万円もしたんだぞ!
磯辺エリアに着くと、いたいた、いました。タイタン・クラブちゃん。
俺は新メイスを片手に、甲羅だけで三メートルを超える巨体に躍りかかった。
まずは、振り下ろされるハサミを無造作に払い除ける。それだけで、巨大なハサミがへし折れた。
俺自身も強くなっているのだろうが、新メイスの性能も凄い。喜々としてハサミや脚を叩きまくると、タイタン・クラブが自立出来なくなって、ゴロンと転がった。そこを狙って一撃を入れると、甲羅をベキリと粉砕してしまった。
何、これ。前回と違い過ぎる。
そこからは、調子に乗ってタイタン・クラブを狩りまくった。
お陰で、食材が大量に手に入った。前にも言ったが、タイタン・クラブは脚まで入れると五メートルってデカさなのに、なぜかドロップするのは通常サイズのカニだ。もしかしたらタイタン・クラブの子ガニなのかも知れないけど、食べる分にはこれがありがたい。ホント、迷宮の神様ありがとう。
でも、あまり取り過ぎても仕方ない。
そろそろ引き上げる事にしよう。
そう思った時───。
何かがシュルリと俺の足に絡み付いた。
「!!」
何かイボイボ───いや、吸盤のいっぱい付いた細長い物が、海から伸びて来て───。
って、タコだ、タコ!タコの足だ!!
慌ててメイスで叩きまくるが、強靭な筋肉に跳ね返される感覚。
ヤバい。
グイッと、引かれる。
海の中は、あかん!!
俺は【仙人みかん】を開いて大剣を引っぱり出すと、タコの足に突き立てた。
が、通らない。刃先がわずかに食い込んだだけだ。
そこへ、波間を割って更に数本の足が、俺の足に腕に、そして首に───。
俺は真横にデカい【仙人みかん】を開くと、その中に飛び込み、すぐに入り口を閉じた。
「げはっ!」
首に巻き付かれたのは一瞬だったが、その一瞬で気管が押し潰されかかったらしい。俺は激しく嘔吐きながら、なんとかポーションを飲み干した。なんとか、息が楽になる。
足元を見ると、ぶっといタコの足が五本も落ちていた。つか、まだニュルニュル動いている。
「ひどい目に合った……」
さすがに、海の中にいるモンスターにリベンジを挑む気にはなれない。メイスも大剣も効かなかったし。
あんなの倒すには、電撃系の魔法でもないと無理だろう。
俺は【仙人みかん】の中に腰を下ろすと、しばらく時間稼ぎをする事にした。
その間に、あのタコがどこかに行ってくれる事を願うばかりである。
この二十メートルの【仙人みかん】は、ドラゴンを倒した時みたいに使う事を考えて、あまり中に物を置いていない。
が、俺自身が中で休むケースはあるので、寝袋とカセットコンロや水、保存食は用意していた。
カセットコンロでお湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れる。
ホッと一息。優雅な時間。
その間にタコの足は自壊し、サイズの小さなタコの足になった(笑)
翌日、俺は真桃ちゃんと一緒にカヤシマ邸を訪れた。
そこは、まさに「邸」という表現が似合う立派なお屋敷だった。
「カヤシマのオッサン、スゴいな」
「オジサンも、これぐらい買えるんじゃない?」
「いやいや、無理無理」
門をくぐると、まず庭の広さに度肝を抜かれた。手入れの行き届いた芝と、ところどころに配置された灯籠。小さな池まである。京都のどこぞの料亭かと思うレベルだ。
「いや、これ完全に勝ち組の家だろ……」
「さっきも言ってたじゃない」
真桃ちゃんが呆れたように笑う。
玄関まで歩いて行くと、既に数人の来客が出入りしているのが見えた。ドアは開け放たれていて、中からは賑やかな声と、食欲を刺激する香りが溢れ出している。
「お、来たかジュウナイ!」
声を張り上げたのは、カヤシマ本人だ。今日はやたら機嫌がいい。
「お邪魔します」
「おうおう、待ってたぞ。お、手土産か?」
俺は担いできたカニの箱と、袋に詰めたタコの足を差し出す。
「タイタン・クラブと、あとタコの足です」
「タコ!? お前また無茶したな……まあいい、これはすぐ厨房に回す!」
カヤシマは後ろに控えていた料理人の一人に指示を飛ばした。料理人は無言で頷き、手際よく食材を運んでいく。白衣に帽子、どう見てもプロだ。しかも一人じゃない。ざっと見ただけでも五人はいる。
「気合い入れ過ぎじゃないか?」
「せっかくだからな。今日はギルドの連中も呼んでるし」
その言葉通り、奥の広間に通されると、見知った顔がずらりと並んでいた。
ギルドマスターのオオヤシロが、既に酒を片手に談笑している。その隣には副ギルドマスターのカミキ。そして、見慣れた着物姿の『はるか』の女将までいた。
「あら、柔内くん。いらっしゃい」
「どうも。女将さんも来てたんですね」
「ええ。こんな面白そうな席、逃す手はないでしょう?」
にこやかに微笑む女将。その背後には、見たことのない顔も多い。おそらく有力な探索者や関係者たちだろう。軽く会釈をしながら席に着くと、すぐに酒が回ってきた。
「まずは一杯だ」 「どうも」
グラスを受け取り、軽く口をつける。香り高い白ワインだ。
ほどなくして、料理が運ばれてきた。
最初に出てきたのは、コカトリスの前菜。薄くスライスされた肉に、柑橘系のソースがかかっている。
「おお……」
一口食べて、思わず唸る。
鶏肉に近いが、もっと旨味が濃い。噛むほどにじわっと広がるコク。それでいて臭みは一切ない。
「深部産のコカトリスは格が違うだろ?」
「これは……すごいですね」
隣のオオヤシロも頷きながら頬張っている。
「これを安定供給できれば、街の格が一段上がるな」
「そのためにも、お前らには頑張ってもらわんと」
カヤシマがニヤリと笑う。いや、あんたが頑張れ。
続いて、焼き物、煮込み、揚げ物と、コカトリス尽くしの料理が次々に並ぶ。どれもこれもレベルが高い。さすがプロの料理人を揃えただけはある。
そして途中で、俺が持ち込んだカニも登場した。
「お、これジュウナイのやつか」
「はい」
蒸し上げられたカニは、湯気と共に甘い香りを放っている。殻を割ると、ぎっしり詰まった身が現れた。
「うわ、これもいいな!」
「タイタン・クラブってやつか?」
周囲がざわつく。
「そうです。ちょっと苦労しましたけど」
「ちょっと、で済ませるなよ……」
カミキが呆れ顔で言う。
さらに、タコの足も天ぷらや酢の物として提供された。
「この弾力……ただのタコじゃないな」
「海のモンスターですよ」
女将が興味深そうに箸を伸ばし、すぐに目を細めた。
「……いいわね、これ。店で出したいくらい」
「勘弁してくださいよ」
そんなやり取りに、周囲から笑いが起きる。
酒も進み、場の空気はどんどん柔らいでいった。普段は厳つい連中も、この時ばかりはただの酔っ払いだ。大声で笑い、武勇伝を語り、時には失敗談で盛り上がる。
「ジュウナイ、お前も何か話せ!」
「いや、俺は……」
「この前ドラゴノイドにやられた話とかどうだ?」 「やめてくれ!」
カヤシマの一言で、場が爆笑に包まれる。
真桃ちゃんも隣でくすくす笑っている。
「でも、ちゃんと生きてるんだからすごいよね」 「笑い事じゃないんだけどな……」
そう言いながらも、悪い気はしない。
こうして笑い合える仲間がいる。美味い飯と酒がある。命懸けの仕事の合間に、こういう時間があるからこそ、また潜ろうと思えるのだ。
ふと見ると、カヤシマが満足そうに皆を眺めていた。
「いい宴だな」
「だろ?」
俺の言葉に、カヤシマは大きく頷いた。
「こういうのがあるから、この街は強くなるんだよ」
その言葉に、誰もが無言で同意していた。
宴はまだまだ続く。料理も酒も尽きる気配はない。
今夜は、長くなりそうだった。
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