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アラカン派遣探索者は意外とヤれる  作者: あおおに


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19/48

美女は殴りにくい

 俺は、完全に吸血鬼の、姿を見失っていた。

 それでも、瞬間的に腰を落とし、周囲に意識を飛ばす。

 が。

「残念」

 奴は、正面にいた。


 美しい笑みを浮かべ。

 かわし様のないタイミングで。

 真っ直ぐにそろえた右手の指を俺の心臓に突き立て───。

「え?」

 そう洩らしたのは、俺だったか吸血鬼だったか。

 吸血鬼の貫手は、なぜか俺の身体の横を素通りして行った。


 思わず、反射的にメイスを振り抜く。

 その美しい顔を横殴りに。

 確かな手応えとともに、吹っ飛ぶ女吸血鬼。

 が、湿気た地面の上を転がり、泥だらけとなるも、奴はユラリと立ち上がる。

「今のは、何?」

 吸血鬼は、顔が半分潰れたままで平然と問いかけて来た。

 グロい。

 とても、グロい。


 俺の頭の中には、【方違え(かたたがえ)】というスキル名が浮かんでいた。

 いつの間にか生えていたスキルらしい。そりゃ、ドラゴンやら何やら、結構相手をしたもんな。新しいスキルも生えるよ。

 これは、簡単に言えば敵からの初撃が当たらないという能力らしい。「かわす」じゃなくて「当たらない」。また変なスキルだが、おかげで命拾いした。

 本来、方違えと言えば陰陽道で、方角の悪い所に行く時に、一度違う方角に向かってから、目的地に向かう行為だったと思う。そうすれば、悪い方角に直接向かわずに済むので、災厄を避けられるというものだ。


「お前の感覚は、俺が狂わせた!!」

 とっさにデタラメを言いながら、俺はアギト357マグナムを抜き放った。久々の出番だ。

 問答無用で引き金を引く。引く。引く。

 サイレンサー一体型のくぐもった銃声が連続する。

 狙いは、適当。つか、狙った所に当てられるウデがない。どこにでも、当たれば良い。

 こんな事なら、銀の銃弾を用意しといたのに!


 か細い身体に次々とマグナム弾が突き刺さる。

 泥に塗れ、血に汚れ、よろける女吸血鬼。

 が、倒れない。

 崩れない。

 俺に向けた目は、怒りの為か爛々と輝いている。

 六発撃ち尽くした。

 やはり、倒れない。


 銃を、そっとホルスターに戻す。

「それで終わりなの?」

 いつの間にか、吸血鬼の顔は、元の美しさを取り戻していた。

 マグナム弾を撃ち込んだ所も、もう出血してる様子はない。

 化け物じみた回復力だ。いや、化け物だったな。


「あと一つだけ試したい事があるんだけど、良いかな?」

「構わないわよ。どうぞ」

「では、ありがたく」

 俺は目礼すると、背後に【仙人みかん】を開こうとする。ドラゴンがドロップした大剣なら、もしかしてと思ったのだ。正直、勝算はほとんどなかった。


 こんな事なら、恥を忍んで真桃ちゃんに一回お願いしとくんだった。

 シィマにキスされた時、もっと堪能しとくんだった。

 もっと美味い酒飲んで、もっと美味い肉を食っとくんだった。

「なあ、ちょっと関係ない話して良いか?」

「時間稼ぎは見苦しいわよ」

「いや、単純に聞いてみたい事があって」


「言うだけ言ってみたら?」

「迷宮牛やタイタン・クラブの他に、食べると美味しいモンスターって、いない?」

「……」

 女吸血鬼は、呆れた表情で俺を見た。

「それを知って、どうするの?」

「いや、どうしようもないけど、ただ、心残りで」


「相変わらず、人間て非合理的な生き物だわねぇ」

「面目ない」

「まあ、良いわ。教えてあげましょう。この迷宮で一番美味いのは、神の血の葡萄から作ったワインよ」

「ワインとはまた吸血鬼らしいな。でも、名前からして、かなり奥に行かないと生えてなさそうな葡萄だな」

「そうね。ここから、まだ人の足で三日はかかるかしら」


「えー、無理じゃん、それ。取って来てくれない?」

「私に勝てるなら、取って来てあげても良いわよ」

 吸血鬼は艶然と微笑むと、その右手を振った。と、手のひらから血がほとばしり、次の瞬間、血の色の歪な形の剣へと変じた。

「今度は、さっきの様にはいかないわよ。この剣なら、どこが触れようとあなたの血を吸い上げてくれるから」

 いや、よけられるのは初撃だけなんで……。


 俺は腹を決めると、背後に【仙人みかん】を開いた。

 右手のメイスをそこに放り込み、替わりにドラゴンの大剣を取り出す。

 と、そこで気がついた。

 吸血鬼が俺から顔を背け、苦しがっている。

「ん?」

 気のせいか、その身体のあちこちから、青白い小さな炎が上がっている様な……。


「あれ?どうした?」

「あ、あなた、そんな隠し玉があったのね……」

「え?」

「吸血鬼が太陽の光に弱いと知っていて……」

 俺は後ろを振り向いた。

 俺の背後では、【仙人みかん】の口が開いて、中の光を外に漏れさせている。


「え、この光?」

「そうよ。そんな技を持っているから、呑気に食べ物の話なんかして来たのね」

「あー、いや、その、何て言うか……」

「でも、負けないわ!」

 吸血鬼が剣を振ると、刃が鞭の様に伸びて来た。

 慌てて大剣で防御しようとするも、大剣に当たった所から刃が折れ曲がり、俺の身体を打ち据えた。


「ぎっ!」

 変な声が出た。

 ボディースーツのお陰で傷は追わずに済んだが、スーツの横っ腹がばっくりと裂けてしまった。

 まずい。こんなの、何発も受けられない。

 続けてまた刃が飛んで来たところを、俺は大剣で刃を力いっぱい叩いてから、一気に前に出た。

 目の前には、剣を弾かれて無防備になった女吸血鬼。


 チャンスだ!

 俺は大剣で女吸血鬼の細い首を跳ね───。

 いや、大剣はその首の手前で止まっていた。

 女吸血鬼が、その細い左手一本で大剣を受け止めたのだ。

「───!?」

 大剣は、ピクリとも動かなかった。

 押しても、引いてもダメだ。見かけに反する、驚異的な膂力だ。


「これで、終わりね」

 相変わらず小さな炎たちに灼かれながら、女吸血鬼が右手の剣を振り上げる。

「そう、終わりだ」

 俺は、女吸血鬼の背後に、直径二十メートルの【仙人みかん】の口を開いた。

 先程とは比べ物にはならない量の光を浴びて、女吸血鬼の身体が一瞬で燃え上がる。

「え───?」


 呆然とした表情のまま、か細い肢体が燃える。

 振り上げた血の剣は霧散し、俺の大剣を押さえた左手は力を失い、そしてその身体は灰となって地面に崩れ落ちた。

 辺りに満ちる静寂。

 その中に、俺の荒い息だけが響き渡る。


 勝ったのか?

 実感がなかった。

 死んだのか?

 確信が持てなかった。

 俺は数分間、そうやって立ち尽くしていた。






 いつまで経っても何も起こらないので、俺はトンズラする事にした。

 もう、ややこしい目には合いたくない。

 灰の中には、数枚の金貨が落ちていただけだった。

 吸血鬼はそうなのか、魔石は落ちていなかった。

 もう墓場エリアには来たくない。スケルトン・ナイト狩りも、もう終わりだ。

 次は迷宮牛を狩りに行って、また真桃ちゃんのチームと宴会やって、しばらく探索は休みでも良いかな。うん、それが良いかもね。


 俺は足早に墓場エリアを抜けると、ひたすらに出口を目指した。





 数時間後、俺はダンジョンの外に出ていた。

 意外な事に何も起こらなかった。

 パターン的に、もう一波乱あると思っていたのに。

 俺は派遣事務所に寄ると、依頼の魔力血をいつものお姉さんに手渡した。

 中級のポーションと魔力ポーションは、今回は数が少なかった事もあって、自分の分に置いておく事にする。また、強敵に出会うかも知れないし。


 吸血鬼の落とした金貨は、鑑定だけしてもらうと、時々ダンジョンで拾える魔力を持ったコインで、一枚百万円程度で売れると言われた。でも、なんだか売る気にはなれない。お守り替わりに持っておく事にしよう。

「じゃあ、これで」と帰ろうとすると、お姉さんに引き止められた。

「さっき、綺麗な女の人かやって来て、三烏さんにって置いて行きましたよ?」

 お姉さんが指差したのは、部屋の入り口付近に置いてある大きな木の樽だった。


 こんなの、どうやって女の人が持って来た?

 その前に、誰だ、それ?

 俺はおそるおそる樽の蓋に手をかけた。

 あろう事か、蓋はちゃんとハマっていなくて、樽の上に乗せられているだけだった。

 本当にどうやって運んで来た?

 そして、中身は?


 蓋を開けて、俺は凍りついた。

 全く動けなくなった。

「あれ、見事な葡萄ですね!」

 お姉さんの無邪気なセリフが、俺の心臓を鷲掴みにする。

 

 

読んでいただいて、ありがとうございます。

こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
完成品じやなくて、原料くれたんだ…飲めるのはいつに?w
仙人みかんて光が漏れるほど明るかったんだ 毎度眩しそうね
律儀な吸血鬼さん?
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