表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と呼ばれた令嬢  作者: 梨花むす
第二章
35/77

35 それぞれの思い

イーリン・マクスウェル:主人公、公爵令嬢

ヘンリー・マクスウェル:イーリンの父、公爵

ソフィア・マクスウェル:イーリンの母、公爵夫人

マリア・マクスウェル(クリークス):イーリンの姉、隣国の貴族ヴィルターと結婚

クリス・マクスウェル:イーリンの兄、マクスウェル家跡取り

ピーター:マクスウェル家の庭師兼斥候

ヴィルター・クリークス:隣国ハーフェンの公爵、マリアの夫

ファン:イーリンの兄クリスの従者、隣国の公爵ヴィルターの紹介でギーベル王国へ

アーサー・ギーベル:王太子、イーリンの元婚約者

キャサリン・パー(リーデン):王太子の現婚約者、元男爵令嬢、現在はリーデン伯爵の養女

リーデン伯爵:キャサリンの後見

エリザ・リーデン:リーデン伯爵夫人

マーガレット・リーデン:伯爵令嬢

 マクスウェル公爵夫妻は、隣国ハーフェンにて、イーリンが王家に拉致されたとの知らせを受け取った。長女マリアと、ハーフェンの侯爵であるヴィルター・クリークスとの結婚式を無事終えた、数日後のことだった。

 おまけに、王家はイーリンを魔女として処刑する予定であると、領地にいるクリスからの手紙には書かれていた。


 ヘンリー・マクスウェル公爵は歯噛みし、王太子アーサーへの怒りを募らせた。


(どこまで、愚かなのだ。あの王太子は。)


 アーサーがキャサリンと一緒になれないのは、イーリンのせいではない。アーサー自身の人望のなさと、キャサリンの王妃としての適性のなさのためだ。

 それも分からず、イーリンを逆恨みするとは。


 常識の通じる相手ではなかったのだ。

 王太子はどこまでも愚かで、相手の娘はどこまでも邪悪であった。2人ともに共通するのは、他人のことなどどうでもいい、ということだった。


「なんですって……!」


 父親から話を聞いたマリアは、卒倒しそうになった。

 皆で守ってきた、王都にひとり残さざるをえなかった可愛い妹。その命が、今、無残にも散らされようとしている。


「そういうことだ。すまないが、私たちはすぐに領地に戻る。マリア……。」

「分かっていますわ。早く、お戻りくださいませ。ヴィルターとは、私が後のことを相談いたします。」


 以前にもらったアンナからの報告により、公爵夫妻は、いつでもハーフェンを発てるよう準備をしていた。

 馬車に乗り込みながら、公爵夫人ソフィアもまた、怒りを抑えきれない様子だった。


「イーリンに何かあったら、王太子もあの娘も、八つ裂きにしても飽き足りないわ。あなた、さあ、行きますわよ。ごめんなさいね、マリア。あなたともゆっくり過ごしたかったけど……。」

「いいえ、事が終われば、会う機会はいくらでも作れますわ。今はイーリンをお願いいたします。」


 マリアはきっぱりと言い、両親の出立を見送った。

 揺れる馬車の中で、公爵夫妻は今後のことを話し合った。


「クリスのことだ、できるだけのことはやっていると思うが……。」

「ファンを向かわせてくれたらしいわね。いい判断だわ。彼なら、領地を出ても見とがめられないもの。」

「むむ。」


 ヘンリーは、ファンの話題が出ると、少し複雑な顔をした。


「彼なら、きっとイーリンを守ってくれるわよ。腕も立つらしいし、イーリンの方も、悪くは思っていないみたいじゃない。……クリスやアンナから聞いているんでしょう?」

「むむむ。」

「まあ、あなたったら……。どちらにしても、まずはイーリンが助かってからの話よ。」

「……そうだな。それが一番だ。」


 ここまでされたのならば、マクスウェル家としては、王家にこのまま恭順するつもりはない。イーリンの生死に関わらず、今の王家を滅ぼす覚悟である。


 特に、王太子とあの娘は許せない。

 一人に非道なことができる者は、他の者にも同様のことができる。犠牲者はどんどん増えていくだろう。


 ついこの前、この胸で泣いて助けを求めた子が、今は生命の危険にさらされている。

 自分は愚かだ。

 どうして置いてきてしまったのだろう。

 こんなことになるのなら、最初から王都になど行かせなければよかった。

 噂など、どうでもよかったではないか。イーリンが生きてさえいるのなら。


「あなた。」


 黙り込んだヘンリーに、ソフィアが声をかける。ソフィアは、隣に座っているヘンリーの左腕を、しっかりと両手で抱いた。


「……きっと、大丈夫よ。あの子たちを信じましょう。」

「……うむ。」


 公爵夫妻を乗せた馬車は一路、マクスウェル領を目指して走り続けた。




 クリスは、一人悶々としていた。


 イーリンが拉致されたとの報告を聞き、すぐにファンとピーターを出発させた。そして、ハーフェンにいる両親へ使いを出した。


(何とか、間に合ってくれ。)


 可能なら、兵を動かして、自分がイーリンを救出に行きたい。王城にいるのが分かっているのなら、王城を破壊してでも救い出したい。

 鍛えられたマクスウェルの兵なら、戦から離れた近衛兵など、簡単に蹴散らすだろう。

 しかし、そのさなかに、イーリンの命が奪われてしまったら? 今はまだ、人質にとられた状態だ。

 だから、ファンたちに賭けるしかなかった。


(しかし、戦の準備をしておくことは悪くない。)


 遅かれ早かれ、マクスウェル家には何らかのお達しが届く。領地を蹂躙されるわけにはいかない。


 マクスウェル領は、マクスウェル城を中心とし、三重の広い城壁に囲まれた城塞都市と、その周辺の広大な農地で成り立っていた。北は山地、東は隣国ハーフェンと接し、南には森林地帯が広がる。西には北の山地に水源をもつ川が流れ、領地の境目となっていた。


 マクスウェル家は、その川に沿って、石積み塀と跳ね橋を備えた門を設置していた。


「門を閉ざせ。しばらく、国内の商売は中止だ。」


 クリスは籠城の準備を進めた。とはいえ、領内に食糧はふんだんにある。ハーフェンの協力が得られれば、国内の商売に頼らずとも、マクスウェル領は生きていける。

 つまり、困るのは、マクスウェル領の物資に頼っていた王都なのだ。


 公爵家の処分を伝えるため、王家の使者がマクスウェル領の門に到着したとき、門は閉ざされ、橋は上がってしまっていた。使者は何とか門番の兵たちに要件を伝えたが、彼らの怒気に押され、逃げ帰った。


 王家の兵は今も、川の対岸から、石塀をにらんでいるだけなのだ。




 王都にあるリーデン伯爵の館は、伯爵夫人であるエリザが突然亡くなってから、喪に服していることもあり、重苦しい雰囲気に包まれていた。


「お父様、お父様。お願い、話を聞いて。」


 伯爵令嬢マーガレットは、父親である、リーデン伯爵の部屋の扉を叩き続けていた。

 マーガレットはまだ喪服のままである。伯爵は部屋の中にいるのだが、マーガレットの声が聞こえていながら、あえて返事をしていないようであった。


「お父様、イーリン様は、そんなひどい方ではないわ。とても優しかったの。」

「……。」

「お母様とも、本当に(なご)やかにお別れになったわ。お母様は、また、お会いしましょうと、イーリン様たちにおっしゃっていたの。」

「……。」

「……イーリン様があの日持ってこられたのは、可愛らしいお菓子だったわ。」


 ──ねえ、お父様。どうして嘘をつくの。お母様は、お父様が勧めたワインを飲んで、亡くなられたのに。


「……うるさい! エリザは、あの女の持ってきたワインで死んだんだ! あの女に殺されたんだ!」


 部屋から嫌な匂いがする。それがどんどん濃くなっていくような気がする。


 お父様は、どうしてしまったの。

 最近は怒りっぽかったけれど、お母様が亡くなってから、すごくおかしい。

 侍女たちは、奥様を亡くされたショックでしょうと言うけれど……。


 それに、最近はキャサリン様が怖い。

 お父様は、キャサリン様しか部屋に入れようとしない。

 キャサリン様が来ると、お父様はしばらく静かになる。

 でも、その後は狂ったように怒り出す。

 それがやっと治まったころ、またキャサリン様がやってくるのだ。


「あなたは、私の妹ですものね。」と、前と同じように、笑いかけてくださるけれど……。


 怖い。怖い。

 優しかったイーリン様は、お母様や王都の人を殺し、王家を呪った魔女として処刑されてしまったという。

 その後に、キャサリン様が、王太子殿下の婚約者に……。


 お友達もみんな、領地に帰ってしまった。

 お兄様は、帰っておいでと手紙をくれたけど、お父様がこんな状態で、準備をしてもらえない。

 使用人たちが、街のお店の物が少なくなっていると言っていた。

 門の外には、変な人たちがうろうろとしている。


 お母様は、キャサリン様を嫌っていた。家に入れようとはしなかった。

 今なら分かる。あの方は、怖い。


 お母様、助けて。

お読みいただいてありがとうございます。次回は、ボンベルグ領に場面が戻ります。次もお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ