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魔女と呼ばれた令嬢  作者: 梨花むす
第二章
30/77

30 バクスター家

イーリン・マクスウェル:主人公、公爵令嬢

アンナ:イーリン付きの侍女兼マクスウェル家の斥候

ピーター:マクスウェル家の庭師兼斥候

ファン:イーリンの兄クリスの従者、隣国の公爵ヴィルターの紹介でギーベル王国へ

マデライン・ギーベル:王妃、アーサー達の母

ブラム・バクスター:侯爵、マデラインの兄

ルイーゼ・ボンベルグ:イーリンの友人、辺境伯令嬢、実はイーリンの従妹

アルバート・ボンベルグ:ルイーゼの父、辺境伯

ノーマン:ボンベルグ領の軍医

「バクスター家が……?」


 アルバートは驚いている。

 そこに、ファンが黙っていた口を開き、アルバートに質問した。


「申し訳ありません、私は、バクスター家のことをあまり詳しく知らないので、教えていただけますか?」


 バクスター家は、現王妃マデラインを出した家である。建国当時からある歴史の古い家で、ギーベル王国の名家の一つであった。


「バクスター家は……、ストラスタ家と同じ、侯爵家です。今の御当主は、王妃陛下の御兄君のブラム・バクスター侯爵です。」


 ただ、バクスター侯爵はあまり人前に出ることはなく、館にこもっていることが多いという。王妃マデラインも病弱で表に出てこないことから、社交界の中で、バクスター侯爵家は影が薄かった。


 王都でずっと過ごしていたイーリンですら、王妃もバクスター侯爵も、ほとんど見たことがなかった。

 ファンは、この話になると、積極的に質問をするようになった。


「20年ほど前、というと、前の侯爵の代でウェナムを作ろうとされたのですか。」

「そうですな。ちょうど、マデライン様が王家にお輿入れされたころです。」


 血が濃くなりすぎないよう、また、一つの家とつながりが強くなりすぎないよう、王家は複数の家や他国から王妃を選んでいた。

 当時、条件に合うのがマデラインだけであったため、当時は王太子であった、現在の国王フィリップとマデラインの婚姻は、早めに進められた。


「まだ、マデライン様が12歳を少し過ぎたころだったかと思います。」

「まあ……。」


 まだ、跡継ぎを作るにも若すぎる年齢だ。ましてや、マデラインは病弱だ。生家から離され、王家にひとり入ることは、いかに心細いことであったか。

 イーリンも、少し状況が違えば、すでにアーサーの妻となっていてもおかしくなかった。そうなれば、婚約の状態とは違い、簡単に離れることはできない。 


 イーリンは、ちらりとファンの顔を見た。


「バクスター家は、元々学者肌の家でして、その領地には、色々な人間が集まっておりました。」


 王国の中心近くに領地を構えるバクスター家には、複数の街道がつながっており、様々な人材が集まりやすかった。先代のバクスター侯爵は研究に理解のある人物で、能力のある者には、積極的に支援を行っていた。

 また、そういった人材のもとで学びたいという者も多く集まっていた。その中に、医者であるノーマンがいた。


「先生は、当時バクスター領におられたのですか。」

「はい。私も、あの頃もうすでにいい歳でしたが、バクスター領に師匠がおられましてな。もう少し、学びたかったのです。」


 ノーマンの師匠もまた医者で、バクスター侯爵に招かれて滞在していた。医療を行うとともに、侯爵の庇護のもと、いくつかの研究も行っていたそうである。


「私がいたころ、マデライン様が将来の王妃になられるとのことで、バクスター領はにぎわっていました。」


 ノーマンは、懐かしそうな顔をする。


「王家の後ろ盾が得られるとのことで、侯爵も気が大きくなっておられたんでしょう。我々医者にも、色々と期待され、かなり手厚く支援をしていただきました。」


 その中で命じられたのが、ウェナムの製造だったという。


「侯爵に設備を整えていただきましたし、ウェナムに詳しい私の師匠や、十分な数の職人もおりました。私たちは、国内の生産拠点を自分たちが作るのだ、と誇りをもってこの仕事に向かっていました。しかし……。」


 ウェナムの製造はうまくいかなかった。

 原料となる植物と、バクスター領の土地が合わなかったのか、何か製造の過程で間違いがあったのか。


「効果がなかったのですか。」

「いえ、そうではありません。効果は、従来のものとほぼ同じでした。」

「臭すぎるとか。」と、ピーターが口をはさむ。

「いえ、そうでもありません。」

「と、すると……。」


 ノーマンは、息をひとつ吐いた。


「『癖』のなりやすさが、あまりにも強すぎたのです。」

「……!」


 実際に患者に使用する前に、動物などで、試作品のウェナムの効果を確かめた。

 鎮痛や鎮静の効果は、従来のものと同等だったが、切れたときの症状がすさまじい。猫は毛を逆立てて叫び、従順だった犬も、試作品を求めて狂ったように噛みついてきた。


 結果に納得できない医者が数名、自分たちで試作品を試した。通常のウェナムは、ごく少量ではそこまで『癖』にはならない。しかし、試作品はそれでも『癖』になり、試した医者たちは理性を失った。


 師匠は、『残念だが、ウェナムの製造は失敗に終わった』と、侯爵に報告した。今後の利益を見込んで、多額の投資をしていた侯爵は絶望した。


 侯爵もまた学者肌の人間であり、商売が上手なわけではなかった。ウェナムの製造について楽観的に考えすぎたため、バクスター家の財産は、借金を払うとほとんど残らなくなった。


「……そして、侯爵は亡くなられました。」


 おそらく、今後を悲観しての自死だったのではないか、と言われている。続いて、侯爵夫人も病死した。

 そのため、残された若き息子ブラムが、急遽跡を継ぐことになった。それが、今のバクスター侯爵である。


「そういえばその頃、まだお若いのに大変だ、と思った覚えがあるな。」


 アルバートは、ブラムやマデラインと年齢が近い。10代で両親を亡くし、侯爵家を継がざるを得なかったブラムに同情はしたが、あまり交流のある家でもないため、さほどまで記憶に残らなかったようだった。


 侯爵が亡くなったことで、にぎわっていたバクスター領は活気を失った。ノーマンの師匠も、責任を感じてバクスター領を去った。

 そして、ノーマン自身は他国に渡り、別の師匠から、ウェナムの正しい使い方を学んだのである。


「しかし、残った試作品は、どうなったのですか。」


 ファンが眉をひそめ、ノーマンに尋ねる。


「わかりません。数回にわたって、それなりの量が作られてはいましたが、最後はどうなったのか……。費用がかかっていますし、簡単に破棄できるものでもありませんでしたので、我々の一存では処分はできませんでした。」


 つまり、試作品はまだどこかにあるかもしれない、ということだ。もちろん試作品もまた、瓶に入れられ、砂糖水に溶かされていたという。保存がよければ、20年前のものでも使用できる可能性があるそうだ。


「研究をされていた場所に、そのまま置いてあるのでしょうか。」

「いえ、すみません、20年も前のことなので……。いや、確か、最後は師匠がまとめて箱に入れ、侯爵家にお渡ししていたような……。」


 混乱の中で研究が終わり、ノーマンも当時の記憶が曖昧であるようだ。ファンは、眉間に皺を寄せたまま、また黙り込んでしまった。


 アルバートは少しの間考えている様子だったが、やがてノーマンに言った。


「バクスター領なら、ここから1日で着くな……。ノーマン、悪いが人をつけるから、今そこがどうなっているか、見に行ってくれないか。」

「それが必要そうですな。かしこまりました。」


 どうやって、キャサリンがバクスター家と接点をもったのか、という疑問は残るが、国外からウェナムを購入するのがきわめて難しい以上、その試作品を何らかの形で手に入れ、利用している可能性はある。


 早急に確かめるべき話であった。


お読みいただいてありがとうございます。今回初めて王妃の名前を出しました。今後はストーリーにからんできます。次の話もお楽しみいただけると嬉しいです。

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