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魔女と呼ばれた令嬢  作者: 梨花むす
第二章
26/77

26 信頼

イーリン・マクスウェル:主人公、公爵令嬢

ソフィア・マクスウェル:イーリンの母、公爵夫人

マリア・マクスウェル(クリークス):イーリンの姉、隣国の貴族ヴィルターと結婚

アンナ:イーリン付きの侍女兼マクスウェル家の斥候

ピーター:マクスウェル家の庭師兼斥候

ファン:イーリンの兄クリスの従者、隣国の公爵ヴィルターの紹介でギーベル王国へ

アーサー・ギーベル:王太子、イーリンの元婚約者

ルイス・ギーベル:第二王子、リリーの婚約者

キャサリン・パー(リーデン):王太子の現婚約者、元男爵令嬢、現在はリーデン伯爵の養女

リーデン伯爵:キャサリンの後見

エリザ・リーデン:リーデン伯爵夫人

マーガレット・リーデン:伯爵令嬢

リリー・ストラスタ:イーリンの友人、侯爵令嬢、第二王子ルイスの婚約者

ストラスタ侯爵:リリーの父、マクスウェル公爵と同様の穏健派

ルイーゼ・ボンベルグ:イーリンの友人、辺境伯令嬢、実はイーリンの従妹

アルバート・ボンベルグ:ルイーゼの父、辺境伯

セリーナ・ボンベルグ:ルイーゼの母、辺境伯夫人

「え? 扇子? 片手?」


 ルイーゼの母、セリーナが扇子を片手で握りつぶしたという話を聞き、ピーターが思わず口をはさむ。しかし、ルイーゼは構わずに話を続けた。


「その後も、大事なお話を伺ったのですわ。」


 ストラスタ家に集まった貴族たちが帰ったあと、セリーナとルイーゼは、ストラスタ侯爵にこっそりと別室に呼ばれた。そして、「これは、まだ内密の話なのですが。」とストラスタ侯爵は話し出した。


 その場には第二王子の婚約者である、ストラスタ家の娘リリーもいた。リリーもまた、イーリンの友人であった。リリーもルイーゼと同様、イーリンに対するむごい仕打ちにショックを受けていた。


 昨夜の晩餐会の後、リリーは急いで、婚約者である第二王子ルイスのところへ話に行ったのだという。ルイスも今回の断罪劇は全く聞かされておらず、ただ困惑していた。そして、「国王陛下の様子がおかしい。」と教えてくれた。


「いつもの父上ではない。兄上が『体調が優れない』と言っていたから、病気なのかと思ったが……。そうではなさそうだ。」


 ルイスが何を言っても、「王太子にまかせる。」と同じことを繰り返して言うばかりだ。まるで、怪しい術でもかけられたかのように。

 館に戻ったあと、リリーは、ルイスから聞いた話を、父親のストラスタ侯爵に報告した。



 セリーナは思案し、ストラスタ侯爵にたずねる。


「あの、小娘の仕業でしょうか。」

「ううむ……。昨晩、殿下はしきりに陛下へワインを勧めていましたな。」


 今までにも、機嫌のよくなった国王が飲みすぎて酔ったことはある。しかし、あのような姿は見たことがない。


 どういった手を使ったのかは分からないが、とにかく今は、陛下には期待できないということだ。王家の権力は、今は王太子アーサーとキャサリンのもとにある。


「私にできたのは、執行人たちに働きかけたくらいだ。」


 侯爵は、処刑を止められなかったことに、強く責任を感じていた。そして、一か八かの賭けとして、執行人に金を握らせ、できるだけイーリンに手心を加えてくれるよう頼んだとのことだった。

 しかしそれも、執行人たちの気分しだいだ。イーリンに同情的な様子はあったが、王家に逆らうようなことまでをしてくれるかどうか。



「ルイーゼ殿、本当に申し訳ないが、よろしくお願いする。」


 ストラスタ侯爵は、セリーナとルイーゼに頭を下げた。

 リリーも、ルイーゼの手を握って頼んだ。第二王子の婚約者であるリリーは、王都からは動けない。


「ルイーゼ様、何とぞお願いいたします。きっと、イーリン様は見つかりますわ。だから……。」


 期待と懇願が混じりあった言い方であった。リリーの目からあふれる涙は、はらはらと頬を伝っていた。


「わかりましたわ。私、きっとお役目を果たしてまいります。」



 ボンベルグの館に戻り、セリーナとルイーゼは出発の準備を始めた。


 ルイーゼは、何かあったときのために、ボンベルグ領の精鋭たちを数名連れていくことにした。彼らは事情を聞くと、喜んで従ってくれた。イーリンは、彼が忠誠を誓う大事な主君の、優しく美しい姪御(めいご)様なのだから。


 イーリンが衰弱しているか、怪我を負っていることを想定し、寝台をしつらえた馬車も用意した。誰かに聞かれたら、ルイーゼは「私が寝るためですわ!」と答えるつもりだった。


 ただ、王太子たちに必要以上に怪しまれないため、ルイーゼの出発は処刑の翌日にせざるを得なかった。貴族たちが、『公爵令嬢であるイーリンが、実際に処刑された』という状況に慌てたふりをするためである。

 そして、次々と王都を出る令嬢たちに紛れ、ルイーゼも出発した。


 セリーナは、状況を伝える早馬をボンベルグ領にいち早く走らせた。そして、王都に残り、ストラスタ侯爵たちと協力して、王家と対峙していくこととなった。



「できるだけ急いだのですが、途中で戻ってくる馬車を見かけまして……。」


 ルイーゼたちが昏き森に近づいたころ、王都の方へと戻る処刑の馬車とすれ違ったのだという。そこで、すでに処刑が終わってしまったことが分かった。


「私たち、慌てて昏き森の周辺を調べたのですわ。」


 周囲に漂う血の臭い、イーリンが着ていたと思われる処刑服の切れ端を見つけ、いったんは絶望した。

 しかし、イーリンらしき死体は見当たらない。捜索すると、最近埋められたと思われる男たちの死体が見つかった。


 ルイーゼたちは首をひねり、一応切れ端や死体を元に戻しておいた。イーリンが男たちを返り討ちにしたとは考えられない。誰か、助けたものがいるのではないか?という期待をもった。

 そして、周辺の村で、「最近やってきた、困っていそうな人はいないか。」と聞きまわっていたのだ。


 そうして、やっとあの小屋にたどり着いたのだった。


「よくやったね、ルイーゼ。あきらめずに、イーリンを探し出してくれてありがとう。」

「いいえ、もう……。運が良かったとしかいいようがありませんわ。アンナやピーター……、ファン様が間に合ってなければ、どうなっていたことか。」

「確かにそうだ。ファン殿、ピーター、改めてお礼を言うよ。」

「当たり前のことをしただけです。」


 ファンとピーターは、声を揃えて言った。それを聞き、アルバートがちょっと驚いた顔をする。

 ピーターは、少しうかがってもいいですか、とルイーゼに尋ねた。


「こういってはなんですが、セリーナ様は、すぐにイーリン様を信じて動いてくださったのですね。公爵家の使用人が、イーリン様を魔女だと証言したのに。」

「ああ……、それは。お母様は、リーデン伯爵夫人のエリザ様と仲が良かったのです。」

「エリザ様ですか……。」


 領主の妻は、領地から動かない者がほとんどである。マクスウェル公爵夫人ソフィアも、忙しい夫の代理として、領地にいることが多かった。

 しかし、エリザやセリーナは、家の事情からたびたび王都に出てくることがあり、数少ない仲間として、以前から親交があった。


 エリザは、晩餐会の2日前に突然亡くなったという。晩餐会でリーデン伯爵は、イーリンの持ってきたワインが原因だと叫んでいた。


「エリザ様は、生前お母様におっしゃったそうです。」


『賭けでしたけれど、イーリン様はマリア様と一緒に、私のお茶会に来てくださいましたのよ。()()()()()()()も持ってきてくださったわ。何より、マーガレットにお二人ともお優しくてね。マーガレットは、すぐにお二人のことが大好きになってしまったの。』


 エリザは、嬉しそうに笑って言ったという。


『夫は、あの方にひどいことをしているのに、あの方は、私のことをお疑いにならないの。綺麗な目で、私をじっと見つめられてね。あんな清らかなイーリン様が、魔女なわけないわ。私、とても失礼なことをしたわと思って。セリーナ様にはご報告しておきますわね。』


 ワインをイーリンが持ってきた、という話は出てこなかった。それは、イーリンの訴えとも一致する。

 それに、セリーナの知っている限り、イーリンにリーデン家を害する理由はなかった。イーリンは、ただただアーサーとの婚約解消を望んでいただけなのだから。


 セリーナはまた、エリザの「見る目」を信用していた。エリザは、キャサリンに騙されず、夫から彼女を養女にするように執拗に言われても、頑としてはねつけてきた女性である。

 ここまでくると、公爵家の使用人がどう言おうと、イーリンを疑う理由はなかった。


 イーリンは、陥れられたのだ。そして、エリザは殺された。

 おそらく、王太子たちによって。


「私、その話を聞いた後、お母様の扇子が粉々になっていくのを見ましたわ。」

「……なるほど。」


 ピーターは、扇子の件については、もう何も言うつもりはないようだった。


 セリーナの判断をアルバートが信じたからこそ、今イーリンたちは、ここで保護を受けることができている。ルイーゼの話を聞き、ファンとピーターは、ボンベルグ家の判断に心から感謝した。



 一通り話し終わると、ルイーゼは少女らしい笑顔を浮かべ、ファンの方を見た。


「でも、よかったですわ。イーリン様も、何とかお助けすることができましたし……。イーリン様も、いつの間にか素敵な方に出会えたみたいで、私、本当に嬉しいのですわ。あんな身も心も腐った王太子より、ファン様の方がずっと立派ですわね。」


「え。」

「な、なんですか、急に。」


 アルバートは目を丸くして、ファンの方を見る。ファンは、ルイーゼの突然の言葉に焦っているようだ。

 どういうことか、とファンはピーターの方を向く。しかし、ピーターは、「ごめん。」と言って、ファンから目をそらした。


 アルバートが興味を示し、「疲れているのは分かっているんだけど、あとちょっとだけ、話を聞いてもいいかな?」とファンに言っている。ルイーゼも乗り気で、「私の知っていることは……。」などと話し始めていた。


「いや、別に何かがあるわけでは……。あの、ピーター? 私がいないうちに、どういう話を……。」


 と、ファンが言っているのが聞こえたが、ピーターは、「お先に休ませていただきます。」と言って、部屋から早々に退出した。


 後でアンナと一緒に謝ろう、と心に決めて。

お読みいただいてありがとうございます。主人公が弱っていてなかなか出てきませんが、次回くらいからまた出てくる予定です。

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