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「鎧の翼竜……!?」
特定の鉱山に棲みついて滅多に人前に姿を現すことがない、全身を鎧で包んだ空飛ぶ竜。
彼らの主食はもちろん人間の魔力だ。食事が空く期間が恐ろしく長いだけで、ちゃんと腹を空かせる魔物。鋼でできた鎧を纏っているせいで一筋縄では倒せず、大魔法使いでも苦戦を強いられることで有名な強敵だ。
エルヴノール領に鎧の翼竜が棲みつくような鉱山はなかったはずなのに、どこからやってきたというのだろうか。
「ああ……どうしよう……」
さすがに魔法が使えなければ倒せそうにないだろう相手が現れて、回れ右をしたくなる気持ちを必死に押さえつける。戻ったらだめだ。人命がかかっている。
全身が恐怖で震える。せめて、せめてこの持て余している魔力を扱えれば……!
翼竜の爪が突き刺すようにして地面に降り立った。衝撃波が木々をなぎ倒していく。飛ばされないように剣を地面に突き刺してなんとかやり過ごしたが、目を瞑っていた数秒の間に距離を詰められていた。
鎧の奥で光る眼がまっすぐ私を見ている。私を一口で飲み込もうと大口を開けて突っ込んでくる。身体が硬直して動かない。逃げなければいけないのに、足が動かない。せめて剣を口の中に放り込むとか、そういうことが頭の中に次々と思い浮かぶのに、行動に移せない。
――死ぬんだ、私、ここでさよならなんだ。
全身に影が落ちる。ぎゅっと目を瞑った瞬間、怒声が聞こえた。
「目を瞑るんじゃない!!」
はっとして目を開く。
途端にふわりと宙に浮く身体。ロングソードの柄を握る両手に力を込めて、身を守るための唯一の武器を手放さないように踏ん張った。
背中が誰かの身体にぶつかってようやく浮遊が止まった。遠くの方で翼竜の口が勢いよく閉じられる、ガチッという鋭い音が聞こえて身震いした。あと数秒でもそこに佇んでいれば今頃は身体を真っ二つにされていただろう。
その瞬間を思い浮かべてしまって、あえぐように空気を肺に送り込んだ。
「いったい何をやっているんだ!」
頭上で責めるような叫び声が耳をつんざく。
大きく肩を震わせて慌てて振り向いた先にいたのは、最小限の装備を付けた甲冑姿のフェリノスだった。息を切らせて、私の身体を支えてくれている。
なぜここに? と問うのは野暮というものだろう。
彼が統治する領地内で、魔物の襲撃を誘導する強大な魔力量を放出しながら逃げまどっている物体がいるのだ。役人など放って追いかけてくるのは普通の対応と言える。
フェリノスの後ろから次々とエルヴノールの騎士たちが現れて、翼竜を倒そうと攻撃を繰り返している。
変なものを呼び寄せてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ご、ごめんなさい」
「まったく……部屋にいろと言ったのに」
呆れたように溜息を吐いたフェリノスは、何やら言葉では言い表せられないような複雑な表情を見せた。
てっきり怒っているのかと思ったのに、表情はどこか嬉しそうなのだ。言葉と態度がちぐはぐに見えて、私は首を傾げた。フェリノスの心境が読めない。
彼が自身の腕にひっかけていた深緑色のローブを肩からばさりとかけられる。ぎゅっと全身を包み込むように引っ張られた。勢いでフェリノスの身体に顔面から突撃してしまったが、彼は気にする様子もなく胸元の紐をきつく結ぶ。
垂れ流し状態だった魔力がぴたりと放出するのをやめ、思わず全身を見下ろした。
「それは魔力を制御するローブだ。今の君に必要な物だろうから持ってきた。あの竜は我々に任せて君はそこで待っているといい」
そう言って剣を構えて翼竜に突っ込んでいこうとするフェリノスのマントを鷲掴み、引き留めた。
足を止められたフェリノスがつんのめって膝をつく。
「…………なんだ」
「魔法の使い方を教えてほしいの」
「今すぐには無理だ。そういうのは普通、子供の頃から修行をすることで扱えるもので」
「コツとか、なんでもいいから説明して。イメージだけじゃ言うことを聞いてくれない」
フェリノスの言葉を遮って、掴んだマントを自分の方へ引き寄せる。




