3-4
「自分の身を守るためなの。……お願い」
「…………」
〝自分の身を守るため〟
その言葉の意味がどれだけ広いのかを察したのか、フェリノスは暫く黙ったのち「わかった」と言って立ち上がり、私の目の前に立った。
「空想だけじゃ魔法は使えない。攻撃するにしても守るにしても、出したい魔法の材質をどのように組みわせるかが重要だ。固いのか、柔らかいのか、しなるのか、鋭いのか。――その剣を選んだ君なら、魔法の原理が理解できるはずだ」
フェリノスの左手が、ロングソードを握った右手を包み込むようにして握り締められる。コバルトブルーの目が私の能力を見透かすように覗き込んだ。
一音一音を刻むように大きな音を立てて心臓が跳ねる。全身に回っている血が沸騰しそうなほど熱くなる。促されるようにして、右手に握ったロングソードに意識を向けた。
――剣の素材、密度、質量、形……
頭が理解するよりも先に身体が魔法の構築を始める。ローブの中から左手を出して空中にかざす。手のひらから徐々に、右手に持っているものと同じ剣を空中に浮かび上がらせた。
しっかりと握りこんだロングソードの素材が右手のそれと同じであることを、ようやく頭が理解した。
「ありがとう、フェリノス!」
「あ、ああ」
面食らった顔をしたフェリノスを一瞥して、翼竜のところへ駆け込む。私が呼びよせてしまった魔物は、私が始末しなければならない。今はローブのおかげで魔力の放出は止まったから、これ以上同じ個体が増えることはないだろうけれど、このまま翼竜を放置するわけにはいかない。
幸いにして、今この場には最強クラスの大魔法使いがいる。私がへまをしてもきっとフェリノスが代わりに竜を倒してくれるだろうがーー他力本願は私の性分じゃない。
地面を蹴り上げて跳躍したタイミングで足の裏に風を集めて身体を浮かせ、翼竜の頭上で一回転したあと翼の間の背中部分に着地した。二本のロングソードを首の根元に向かって勢いよく突き立てたが、やはり鋼の鎧は強くびくともしない。嫌がるように身体を揺らす竜から振り落とされないように鎧にしがみついた。
その一瞬で、鋼の構成を読み取る。
基本的に鋼を砕くにはダイヤモンドほどの硬さが必要になってくるが、あいにくダイヤモンドに触れた経験が無いため構築方法がわからない。
それ以外の素材が何かあったはずだ。何か――
記憶の片隅に現れた、ヴィレオン家の騎士団が使用する盾。
「超硬合金だ……!」
あれなら何度か触ったことがある。必死に手触りを思い出す。
竜が動きを止めた。フェリノスの氷魔法が竜の動きを封じているようだ。
騎士団が苦戦する叫び声が聞こえる。フェリノスの怒号に近い声が「肉の柔いところを切り刻め」と指示を出している。柔いところというが、翼竜の皮膚はステンレスと同等の硬さがある。彼らの剣が負けるのが早いか、体力を使いつくすのが早いのかの消耗戦だ。
――死にたくない! 私のせいで誰かを死なせるわけにはいかない……!
両手に持つロングソードを強化するように超硬合金の素材を構築する。もう一度その場で跳躍し、足裏を空に向けて、両手は剣先が真下を向くように一直線に伸ばす。その状態から竜の脳天に剣を突き刺す形で地面に向かって勢いよく降下した。
手ごたえが両手を伝って全身に突き抜けていく。竜の身体を貫いて地面が見えた時にはすでに両手の剣はこなごなに砕けて跡形もなくなっていた。
超硬合金は鋼の数倍は固いが衝撃に弱い特徴を持っているらしい。騎士団のみんなはさらに盾を強化するんだそうだが、そのやり方までは私は知らないし、教えてももらえなかった。
私には魔力がないから聞いても意味がないんだと。
その時はそれで納得したが、いろいろと聞いておけばよかったと思うのは後の祭りである。
地面に着くギリギリで上体を起こして五点着地で受け身を取ったものの、勢いを消すことができなくて、土煙をあげながら前傾姿勢のまま地面を滑ってやっと止まることができた。
竜の魔物は殺せただろうか。
慌てて竜の方を見上げた数秒後、大人を跳ねさせるほど地面を揺らしながら、それは力なく頭から倒れ込んだ。




