イケメンすぎる冒険者、教鞭を執る③
それから1ヶ月ほどが経過した。
「先生、見て!」
弾んだ声と共に、満面の笑顔を向けてくるのはメリィだった。
彼女は友人のディニエルと共にプレ講義を受け、そのまま本講義を専攻している。
ふたりとも最初は回復魔法の術式を理解するのに時間がかかっていたが、属性魔法との違いを理解すると目を見張るほどのスピードで成長を遂げた。
魔法の術式というのは、数術でいう公式のようなものだ。
ただ、数術の公式はテンプレートとしてのものを丸暗記して、条件に合ったものに当てはめていけばいいが魔法は少し異なる。
魔法の術式にはそれぞれを理解し、状態や環境に応じたアレンジを加えていく必要があった。
たとえば、患部がデリケートな位置なら関係のない組織や器官に余計な負荷を及ぼさないように、効果を調整しなければならない。
また、症状に応じたレベルの術式を使用しなければ、回復とは別の効果を生む結果にもなりかねないのだ。
そういったことを含めて適切な術式の選択、発動効果の調整、魔力の出力抑制ができなければ回復魔法は成功しない。
多くの者はその過程で心を折る。
属性魔法が得意な者ほど、回復魔法との違いを表面的には理解できても深層心理では切り替えができなくて挫折してしまうのだ。
「おお、すごいな。」
メリィが両手をかざした果物の表面が、徐々に瑞々しいものへと変化している。
患部を治療するための術式調整がうまくいってる証拠だ。
実習で使用している果物は、人の患部と同等の強度や質感を備えている。これを回復対象に見据えて術式展開していたのだ。
果物は成分として糖質を多く含んでいるため、人を施術するよりも微調整が難しい。効力が強すぎると黒く変色してしまうため、練習用に重宝するのである。
因みに、この果物を用いた実習は、俺の師匠にあたる人が独自の知識で行っていたものを流用させてもらっていた。これがオリジナルなのか、回復魔法の定番的な実習なのかはわからない。ただ、その効果がわかりやすいため、受講生には評判が良かった。
メリィは前回の講義で実習の終盤に果物を変色させてしまっていたのだが、今回は一定の時間が経過してもうまく調整することができている。
友人のディニエルが先に修得していたので、コツを教えてもらったのかもしれない。
回復魔法は属性魔法以上に座学での理解と、実習による発動を繰り返す必要がある。
それを早期にクリアできるのは、彼女たちの柔軟な思考と努力によるものが大きいといえるだろう。




