イケメンすぎる冒険者、教鞭を執る①
予想外だった。
プレ講義は大講義室で行われると聞いてはいたが、まさか座席が足りずに立ち見まで出るとは思いもよらなかったのである。
それほど治癒回復術に関心がある表れなのだろうが、講師初心者の俺としては勘弁して欲しいところだった。
座席の中段あたりに見知った顔がいる。
メルロスとその友人たちだ。
さらに最前列の方にはアリエルをはじめとした、いかにも講師陣といった者たちが数名いる。
ああ、やりずらい。
初めてこの学園の教壇に立つ俺を見に来たのか、はたまた彼らも治癒回復術を修得したいのかはわからなかった。
ただ、ここまでの目線に囲まれるなら、吹っ切れてやるべき事をやるしかない。
「静粛に。」
片手をあげてそう告げる。
わずかな喧騒がおさまり、真剣な眼差しが俺に集中するのがわかった。
「まず、栄えあるこの学園に招いていただいたことを嬉しく思う。私はマックス。現役の冒険者だ。」
冒険者を名乗ったことでざわめきが起きた。
冒険者風情が教壇に立つのかというような視線が俺を射る。
「冒険者には教壇にのぼる資格がないと思っているのかもしれない。しかし、私は理事長や副理事長の試験をクリアしてここに立つことになった。まずはそのおふた方の慧眼を信じて、講義に参加してもらえれば幸いだ。その後の評価で専攻するかどうかは個人の自由だと思っている。」
そう話すと、ざわめきは消えていった。
さすがに理事長や副理事長に対して不満を漏らすわけにもいかないのだろう。
「では、まずこれを見てもらおう。」
俺は袖のボタンをはずして腕をまくった。
小さなナイフを手に取り、二の腕を軽く切りつける。
無詠唱による回復魔法で瞬時に傷口をふさいだ。
「外傷は今のように回復魔法が最も効果的だろう。しかし、私が得意とするのはそれだけではない。オーラによるマインドフルネス─いわゆるボディスキャン、そして同じ作用による体内からの治療も可能だ。」
ナイフに代わって、教壇にあらかじめ置いてあった棍棒を握り、二の腕を打つ。
赤く晴れた内出血をオーラで治療した。
通常、内出血は赤から青や紫に変色し、緑、茶色、黄色という順に様相を変える。これは内出血の溜まる位置や血液の酸化によるものだが、オーラによって迅速に治療することでその過程をとばせるのだ。
「まずは病気の症状を詳しく知るためのボディスキャンと、回復魔法についての講義を進めていくつもりだ。オーラについてはそれなりの修練が必要なため、一朝一夕には難しいというのが理由と言っておく。しかし、エルフには卓越した薬術がある。ボディスキャンを会得することで病状を把握し、薬による治療を行うことでかなりの有効策となるだろう。また、回復魔法に関してだが、なぜエルフが苦手としているかについての推論も準備した。それについては後ほど説明させてもらおう。」
そこまでで一呼吸置き、講義を聞いている者たちの表情を観察した。
疑心暗鬼で見ている者は少なく、興味深げな表情や目を輝かせている者の方が多いようだ。
これが失望の色に変わるかどうかは、俺次第といったところか。
教壇に用意されていた水を口に含んだ。
ハーブの爽やかな香りと味が、緊張を解かす働きをしてくれる。
「では、引き続き回復魔法のメカニズムについて話をしよう。」
なぜ回復魔法はエルフにとって難易度が高いのかについての推論を話し始めた。




