イケメンすぎる冒険者、コワモテとして振る舞う⑦
ツンとする臭い。
すぐに鼻の奥を突く、不快な刺激として襲いかかってくる。
自分でもわかるほど、パッチリと目をあけて意識を取り戻した。
「あ、目が覚めた。」
俺を覗き込むようにして、ふたりの女性がこちらを見ている。
「気付け薬?」
「へぇ~、人間にしては物知りじゃない。気付け薬なんてほとんど使わないって聞いているのに。」
ショートヘアの方がそう言った。
ふたりとも、あの5人組にいた若いエルフである。
「街ではそれなりに需要はある。冒険者なんかは魔法で代用することがほとんどだけどね。」
起きあがろうとすると、ふたりは邪魔にならないように身をずらしてくれた。
上半身だけ持ち上げて、周囲に目線をやる。
それほど広くはない部屋で、壁際にあるソファに寝かされていたようだ。
「ここは?」
「お店のスタッフ用の休憩室をお借りしました。」
もうひとりのエルフがそう答えた。
店内で目が合った娘だ。
「迷惑をかけたみたいで申し訳ない。」
「そんな、こちらこそ友人が失礼しました。」
「それについてはお互い様ということで、お終いにしてもらいたい。他意はなかったけど、こちらにも無作法はあった。」
痛みのある頭部に手をやると、またタンコブができていた。
「それでかまわないのなら願ったりです。本当に申し訳ありませんでした。」
「こちらこそ。」
そう言って、患部を触診しようと指でなぞる。
「いちおう、薬を塗ってあるけど。あまり触らない方がいいわ。」
ショートヘアの方がそう言う。
指先に軟膏よりも少しサラッとした手触りがあった。
指を見るとやや緑色をしている。
「治療薬?」
「ええ、日持ちするものを持ち歩いているから。」
薬草を煎じて作った物だろう。
「ありがとう。」
そう言って微笑んでから、念の為にボディスキャンを行う。自分で倒れて作ったタンコブだが、頭部は早めに診察しておいた方がいい。
結果として、大したケガではなかった。
因みに、タンコブくらいと軽視されがちだが、骨折や内部の損傷の可能性もなくはないため注意が必要だ。頭を打ち、ほったらかしにして数時間、数日後に死に至る者も実際にいる。
頭蓋骨の中で出血してそれが脳を圧迫したり、手足の麻痺や言葉の障害につながることもあるのだ。
「回復魔法!?」
外傷だけだったため、回復魔法で治療を施した。
それを見ていたふたりは目を丸くしている。
「回復魔法はやはり珍しい?」
「それはそうよ。私たちには使えないし、エルフは苦手としているわ。」
「その代わりに人間よりも魔力が多いし、魔法に長けている者も多い。お互いに羨ましいと思うところはあるってことじゃないのかな。」
「確かにそうですね。」
まあ、ここであまり深入りしても仕方がないことだ。それに、男性陣がこの部屋にいないことが少し気になった。
「ところで、君たちのお連れさんたちは?」
「ああ、ひとりは用事があって帰りました。他はその・・・店内で暴力沙汰を起こしたから、店主さんに説教されてます。」
「ああ、そうなんだ。」
それで済むならまだ良い方だろう。なぜか、もうひとりも巻き添えを食っているようだが。
官憲のような奴らを呼ばれて逮捕拘束でもされたら、こちらもいろいろと厄介だ。
「マックスだ。これでお別れかもしれないが、いろいろとありがとう。」
そろそろ失礼した方がいいだろう。
また激情型エルフくんと出くわして、トラブル再燃とかは嫌だからな。
「回復魔法のことをもっと聞きたい所だけど、いつまでもこうしてるわけにはいかないわよね。まあ、この街にしばらくいるようなら、目立つだろうからまた声をかけるわ。」
「そうね。せっかくの食事を台無しにしてしまったし、次は何かご馳走させてくださいね。」
ふたりはメルロスとディニエルと名乗った。
また会えるかはわからないが、性格の良さそうなエルフたちである。
こういった出会いは大事にしておきたいものだった。




