イケメンすぎる冒険者、コワモテとして振る舞う④
今日は朝からひとりでブランチを食べに来た。
昨夜の激辛料理は完食してからも俺の胃に負担をかけたため、宿屋での朝食をパスしたのだ。
依頼の打ち合わせのためと食事に誘われたのに、目的がまったく果たされなかったのは俺のせいじゃない。
それに、あのふたりとまた食事に行くとなると憂鬱さしか感じなかった。
上には上がいるかもしれないが、俺にとっては『世界最恐の甘党』と『世界最狂の辛党』である。
これ以上、食事に関しては御一緒したくないと思うのも、無理はないことだと思わないか?
ん?
あのスイーツマウンテンに埋もれてみたい?
エルフと一緒なら、激辛で燃え尽きてもかまわない?
好きにしてくれ。
俺は美味いものが食べたいんだ。
というわけで、出向いた先は宿屋の近くで調達したグルメガイドに掲載されている人気店だった。
ここはエルフの街だが、イメージとは異なり、俺がよく知る人間の街に近い雰囲気を持っている。
学園を中心に栄えているからか、閉鎖的なエルフ社会とは一線を画した街ではないだろうか。
グローパリゼーションとでもいうべきかもしれない。多くの種族の中で最も数が多い人間の街でも、エルフが違和感なく暮らしていくためのトレーニング空間に思えた。
これまでのエルフのイメージを大きく覆すような感覚をおぼえる。
しかし、治癒回復術の講師に人間を招くということ事態が、革新的な決断に違いない。
理事を務めるあのハイエルフの双子が、若いなりに新たな風を入れようと努力しているのかもしれなかった。
「・・・ご注文は?」
少し並んだ後に、店内に通された。
やはりここでは人間がめずらしいのだろう。他の客やウェイトレスが、俺の耳を見た後に顔に視線をやり、さらに耳の形を二度見するといったことが繰り返された。
どうやら、俺の容姿がエルフに通ずるものがあるのは間違いないらしい。
とはいっても、耳の形は普通の人間のものだから、ハーフエルフと勘違いされているのかもしれない。
ハーフエルフは、人間の街でもほとんど見かけない。
エルフと人間の間に子を宿すことは可能だと聞いたことがあるが、長命種のエルフは繁殖力があまり高くないそうだ。
結果として、エルフと人間が結婚しても、人間の寿命の範囲内で子供ができないことも多々あるらしい。
そもそも、一般的にエルフの方が人間との結婚を望まないそうだ。
プライドが高いといわれているエルフは、公言こそしないものの人間を同列と考えていない節がある。また、長命種のエルフにとって、自身よりも短命な人間を愛することは、後に辛い思いをするだけだと嫌遠しているという説もあった。
どちらにせよ、エルフと人間のカップルというのはかなりレアケースだといえよう。
また、エルフにも個別の考えが当然あるのだろうが、俺が以前に交友のあったエルフは、時間の捉え方がまったく異なっていた。
簡単にいえば、人間にとっての10年がエルフにとっては2~3年に感じるらしい。ある意味で気が長い種族という印象だが、そのためか物事に没頭するとなかなか日常生活に戻らなくなるのである。
時間軸がブレまくったエルフとのつきあいは、なかなか難しいものだった。時間の貴重さがまったく異なる者同士では、そうなっても仕方がないのかもしれない。
「おすすめの料理は?」
「そうね、バードックのサラダとオートミールのワイルドヤムがけ。あとはソイミルクスープよ。」
バードックはゴボウ、ワイルドヤムは自然薯のトロロ、ソイミルクは豆乳のことである。
豆乳はともかく、ゴボウや自然薯などの木の根は食物と考えない人間も多かった。東方では好んで食べられるともいうが、少なくとも俺が活動する街では見かけない。
これは、俺がエルフに縁のある者かを試されているのかもしれなかった。
「じゃあ、それで。」
俺は微笑みながらそう返答した。
何となくウェイトレスの表情が緩んだ気がする。
木の根を食事として出されるとバカにされたと怒る人間も多いと、かつてのエルフの知り合いに聞いたことがあった。
ただ、ゴボウや自然薯などは調理方法しだいでは美味しく、体に良いことも知っていたため、個人的には大歓迎の食事なのである。




