イケメンすぎる冒険者、コワモテとして振る舞う③
目、鼻、喉、そして胃が痛かった。
宿屋に戻ってからも痛みは続き、耐えかねてオーラで治すことにする。
筋金入りの変人ふたりに翻弄された、ほろ苦い一日だった。
アリエルの辛いもの好きは意味不明である。
おすすめという店は、辛さを客の好みのレベルに応じて変更できるらしく、希望すれば最大20辛まで対応してくれた。
もちろん俺は一般的といわれる3辛で注文したのだが、それでも口の中の皮が荒れ狂うという状態に陥ってしまう。
え、何これ?
1辛が普通じゃね?って感じなのだが。
で、アリエルの場合はどうかというと、かなりの常連らしく、店主らしき男から「ヘルモードの極悪チャレンジで良かったかい?」などと言われていた。
ヘルモード?
しかも極悪チャレンジって・・・
3辛で口の中がヤバいことになった俺は、アリエルに「ヘルモードは辛さレベルにするとどれくらいなのか」と聞いてみた。
「ん?300くらいかな。」
バカじゃね?
口から火、いや血吐くわ。
悪い冗談だと思って苦笑いしていたのだが、料理が届いて驚かされた。
「なあ、確かスープパスタを頼んでなかったか?」
「ええ、そうよ。」
目の前にあるのは、赤黒いマグマのような液体がグツグツと沸騰する何かだった。
顔を近づけると湯気だけで目が痛い。
いや、呼吸する際に鼻や口からヘルモードの真髄がダイレクトに伝わってくる。
「ぐふぉっ!?」
喉や鼻の粘膜が、ほんのわずかだが焼かれてしまった。
これは・・・どうやら、半径二十センチメートル以内に接近すると、地獄を見る仕様のようである。
辛党とはいうが、こんな物を人間─エルフが食えるのだろうか?
アリエルの様子を見守ることにする。
辛党とはいえ、『スーブパスタ ヘルモード 極悪チャレンジ』を目の前にしたアリエルは、食べる前から熱気のようなものに煽られて顔中から玉汗が吹き出していた。
マジで食うのか?
いや、常連だからオーダーが通ったんだよな?
店内の貼り紙には、オーダーについてのルールが記載されていた。
20辛をクリアした方は次のレベル─Bランクへ昇格→21~40辛までチャレンジ可能
40辛をクリアした方は次のレベル─Aランクへ昇格→41~60辛までチャレンジ可能
60辛をクリアした方は次のレベル─Sランクへ昇格→61~100辛までチャレンジ可能
100辛をクリアした方は次のレベル─SSランクへ昇格→101~200辛までチャレンジ可能
200辛をクリアした方は次のレベル─SSSランクへ昇格→201~300辛までチャレンジ可能
300辛をクリアした方→ヘルモードへご招待!
よく死人が出ないものだな。
鉄板で何かを炒める音がして、すぐに目が痛くなる何かが辺りを包んだ。
調理をするマスターを見る。
涙で揺れる視界の中に、カラスを模したようなフルフェイスマスクを着用したマスターがいた。
人の命を奪いたくてやっているんじゃないだろうな?
そのマスク、怖すぎだろう。
俺は今すぐ店から出ていきたくなった。
「いただきます!」
意を決したのか、アリエルがフォークとスプーンを手にスープパスタへと挑んだ。
仕方がない。
彼女のチャレンジが終わるまではつきあってやろうか。
そう思い、アリエルの一挙手一投足を見守った。
しばらくして、顔と目を真っ赤に充血させて、小刻みに震える彼女を見ることになった。
なんだろう。
彼女をここまで突き動かす辛さの魅力とは。
あ、鼻から血が─いや、スープか?
ええ!?
次は赤い涙が流れ出したぞ。
全身をプルブルと震わせ、赤い涙と鼻血を出す彼女は痛々しかった。
「そろそろ止めた方が良い・・・」
マジでヤバそうだと、隣にいるマイク・バルカンを振り返った。
そこには真っ赤なソフトクリームを頬張って、悶絶する大男しかいない。
テーブルに置かれているオーダー表を見ると、激辛ソフトクリーム120個チャレンジと書かれている。
おまえもか。
どうやら、スイーツなら何でも手を出す奴らしい。
俺はバカらしくなって、自分の食べた分の代金だけを支払って店を後にした。




