イケメンすぎる冒険者、コワモテとして振る舞う①
知らない部屋で目が覚めた。
頭の下に枕が敷かれているのがわかる。
ただ、動かすと後頭部が痛かった。
くそ、あの双子め。無闇に人の頭を殴るんじゃないよ。
ゆっくりと体を起こすと、やはり後頭部に鈍痛がある。手で触れて確認すると、出血はなかったがたんこぶができていた。
陥没じゃなくて良かったと思いつつ、部屋の様子を確認する。
よくある宿屋の一室のようで、特に気になる点はなかった。
ドアに鍵がかかっているのを確認する。
ここがどこかはわからないが、まずは殴られた頭の治療をすることにしたのだ。
念入りにボディスキャンを行う。
幸いにも、内部で出血や損傷はみられなかった。
あの双子、まさかこれも合否判定の一環だとはいわないだろうな。
そんなふうに思いながらも、治療を施していく。
内部ならオーラを使用する方が効果的だが、外傷なら回復魔法の方が即効性があった。
すぐに痛みが消え、触れることで腫れがひいてるのを確認する。
実は回復魔法はかなりデリケートで、加減が非常に難しい。
薬で副作用が出たり、過剰摂取で死に至るのと似たようなものなのだ。
だからこそ使い手が少なく重宝されるのだが、冒険者ランクのように明確かつ客観的な指標がない。神威術に関しては教会の認定があるが、そこに属していることが必須となる。脱会した者はモグリとなるため、似たような立場とされていた。
そのため、治癒回復ができると偽って性犯罪に走る者や、高ランクの冒険者パーティやクランに潜り込もうとする者も少なくはなかった。
一部では、治癒回復術士を名乗る奴は「詐欺師」や「歩く生殖器」といわれる始末である。
ある意味、不遇職ともいえるこの技能は、総じて戦闘力も弱かった。
治癒回復の技能はそれなりに高度で、一般的にはなかなか修得できるものではない。そのため、剣術などの武芸を身につける時間も割かれてしまうことが多かった。
ここまでいうと、冒険者として大成するのは難しいと感じるだろう。
確かに、治癒回復術士の大半は、ソロでは高ランクに昇格することは難しいだろう。
本当に実力があるのであれば、街で治療院でも開いた方がはるかに稼げるし安全だ。まあ、そういった者が少ないのは、治療費という対価に見合う技能がないからである。
ほんの少しでも治癒回復術が使えるのであれば、冒険者パーティの役に立つこともあるだろう。しかし、自分の身すら守れないのであれば、間違いなく見捨てられる。状況によっては囮に使われてひとりで死んでいくことになるはずだ。
ノックの音が鳴った。
ドアの材質のせいか、それとも薄さゆえか妙に甲高い音がする。
「マックス、起きているか?」
既に聞き慣れた声がかけられた。
ドアまで行って鍵を開ける。
俺よりも三回りくらい大きな男が、猫背気味にこちらへ顔を向けていた。
「具合はどうだ?」
「ケガは大したことはない。当身で意識を奪われて何の説明もなく訳のわからん奴らに会わされ、去り際にさらに後頭部を殴られて外傷を負うという理不尽の方がよっぽどこたえたかな。」
嫌味のひとつでも言ってやらないと気がすまなかった。
大人気ないと思う気持ちと、黙ってヘラヘラ笑っているのもどうかという気持ちの板挟みにあったが、コワモテなら凄んでなんぼだろうという思いの方が強かった気もする。
「悪かったわ。」
巨体で見えなかったが、マイク・バルカンの後ろにはアリエルがいた。
表情だけでいえば、かなり申し訳なさそうではある。
「ハイエルフと邂逅するとは、貴重な体験をさせてもらったよ。」
少し皮肉をこめてそう言っておく。
何事もなかったかのように振る舞うのは、ただの優形だ。俺はその反対のコワモテになりたい。
「彼女たちも貴重な体験だったと、紅潮した表情で言ってたわ。あなた、いったい何をしたの?」
やぶ蛇だった。




