イケメンすぎる冒険者、襲撃される②
このまま逃走するのに、背中の傷はどれくらい影響するかはわからなかった。
ジンジンとした痛みは感じているが、大きな動きをしなければ今以上に傷口が開かない気もする。
しかし、相手は相当な手練だ。
手負いで無事に逃げ切れるとは思わない方がいい。
すぐに回復魔法をかけた。
普段は詠唱を必ず行うが、そんな暇はない。追っ手がすぐ後ろに迫り、また攻撃されたら傷口がさらに開いてしまうかもしれないのだ。
鈍い痛みが瞬時に消えた。
もしかすると、結構深い傷だったのかもしれない。あくまで経験則による痛みの感覚でだがそう感じた。
回復魔法を自身に使う際、その回復過程である程度の傷の度合いが計れたりする。
まあ、あくまで自らの感覚に過ぎないため、他人を回復する時のような客観的視点とは異なってしまう。
それよりも、あれだけ強かった殺気が消えた。
なぜだかわからないが、後方にあった気配までもが消失している。
罠かもしれないと思いつつ、通りの角を曲がり際に後ろに目線を送った。
・・・誰もいねぇし。
あれだけ強烈な敵意を寄せていた奴が、なぜ忽然と消えた?
意味がわからん。
俺は足を緩め、呼吸を整えた。
周囲を確認し、敵がいないことを確認すると指輪への魔力を遮断する。
壁に背を預け、しばらく様子をうかがったが特に何も起きなかった。
やはり意味不明だ。
相手が何者なのか、そしてそいつの真意がまったく読めなかった。
俺の行動が誰かの虎の尾を踏んだのか、それとも単なる人違いか。
前者はこれまでもよくあったが、今の結末は解せない。後者なら単純に勘弁して欲しかった。
背中に不快感を感じて、壁から離れ視線をやる。
壁が赤くなっていた。
ああ、やはりそれなりの出血をしていたようだ。
ハンカチを取り出して壁を拭う。こんな所に血痕を残しておくと、最悪の場合は翌日になって殺傷事件として官憲が動く可能性があった。
目立たなくなるように拭いておく。暗いから拭き残しがあるかもしれないが、乾いたら血痕には見えないだろう。たぶん。
服を一枚ダメにしたなと思いつつ、宿に戻ることにした。
夜だがそれほど遅い時間帯ではない。
繁華な場所から出れば人通りはまばらになるが、背中部分の服の損傷や血の汚れはあまり見られたくなかった。
必然的に路地に入り、宿まで遠回りをする。
せっかくひとりで飲みに出かけたというのに、酔いもできず最悪な展開となった。
明日はマイク・バルカンが他のパートナーと顔合わせをする予定だと言っていたのを思い出す。
依頼を共に受ける者を紹介してくれるのはいいが、それよりも先に仕事内容を教えてもらいたいものだ。
そんなことを考えながら歩いていると、人通りのない路地でひとりの女性が壁に背を預けているのが見えた。
暗がりだが目を引く。
顔はよく見えないが、うっすらと見える頭部のシルエットが気になった。
プライドが高く、人間を見下すような態度をとるといわれている種族。
この街は宿場町といった側面もあるため、珍しいとは思わなかったがなぜこんな所にいるのかは不思議だった。
この種族はあまり夜に出歩かない。この時間帯の喧騒が嫌いだという者が多いからだと聞いたことがある。
人間と比べて耳が長く、男性も女性も皆が優れた容姿を備えた長命族─エルフだ。
皆が皆、噂通りの性格なのかはわからないが、俺個人としてはとっつきにくいイメージしかなかった。
その美貌が目を引き、多くの人間は視線を釘付けにするといわれている。彼ら彼女らはそういった視線に対して、冷めた目で見返すか完全無視を決め込むかの二通りというのが定石だ。
俺はあまり関わらないよう、目線を外してその女性の前を歩み去ろうとした。
「おい。」
通り過ぎようとしたタイミングで声をかけられた。
自分を呼び止めているとは思わずに無視をする。
魔道具で耳の形を変えられるものがあれば、エルフと偽って過ごせるだろうか?彼らは誇り高い種族だから、バレたらフルボッコにされるかもしれんなどと考えていたため、次に呼び止められた時もガン無視してしまった。




