イケメンすぎる冒険者、襲撃される①
「よう、兄ちゃん。うちのツレを殴っといて、そのまま帰れると思ってないだろうな?」
「殴った?知らないな。酔いつぶれて寝ただけだろう。」
お約束のような展開だった。
二対一で逃げ場はない。
負ければ金目の物を奪われるだろう。
だが、そんなことを想定せずに袋小路に入るほどマヌケではなかった。
「とぼけるのも大概にしろよ。」
「なあ、あんたら俺を何だと思ってる?」
「はあ?」
俺はこっそりと集めていた魔力を、両手の中指にそれぞれはめた指輪に流し込む。
「!?」
そう、マイク・バルカンからもらったあの指輪だ。
「お、おまえ・・・」
「冒険者なら、この姿でわかるだろう?」
眉を肌の色に、瞳孔を白へと変化させる。
「きゅ、きゅ、きゅ、吸血鬼!?」
後じさるふたりを見て、なかなか効果的だなと内心ほくそ笑んだ。
ただ、何かの拍子に冷静になられて真偽を疑われる可能性はあった。
「キエエェェェー!」
「「ぎゃああああーっ!」」
前回に効果のあった奇声を発すると、ふたりの男は悲鳴をあげて一目散に逃げ去った。
おお、これぞコワモテの効力だと自然と笑みが出る。
いい。
実にいい。
顔が怖いと殴り合いや命のやりとりなしで、争いごとも平穏無事に済む。
これが常時発動できればこれまでのようなトラブルからは回避できるのに、さすがに吸血鬼騒動を引き起こしてしまうことを考えると多用はできない。
残念。
非常に残念である。
ふぅとため息を吐き、指輪への魔力を遮断しようとすると背後に嫌な気配を感じた。
咄嗟に前へと跳ぶ。
背中に違和感を感じたが、今の瞬間で明らかになった殺気に警戒レベルを瞬時に引き上げた。
後方を見ることなく、前転しながら距離を置く。
背後で風を斬る音が往復し、咄嗟の判断で回避しななければ致命傷を受けていたかもしれないと冷汗をかいた。
襲ってきたのが何者かはわからないが、ここはとにかく逃げることにする。
不意打ちとはいえ、今の攻撃を考えるとかなり腕の立つ相手だと思えた。先ほどの冒険者たちとは異なる次元の実力を持つ得体の知れない相手。目的も素性もわからないが、まともに相手するには分が悪すぎる。
達人級の剣の腕前を持つ相手に、ほろ酔いで武器なしの俺がたちうちできるわけがない。
脇目もふらず、真っ直ぐに路地の出口へと走り抜ける。
すぐそばに相手が迫って来ているのは気配で感じていたが、応戦したり振り返るのはリスクが高過ぎた。
ゆえに俺がとった行動はシンプルである。
「キエエェェェー!」
渾身の奇声を発した。
気配で相手がビクッと反応したのがわかり、全速力で駆け抜ける。
こういった時に武器を持っているか否かは速度差を生む。
案の定、路地を出た時には相手との距離が開いており、このまま走り続ければ撒くことも可能だと思えた。
振り返ってどんな奴か確認したい衝動にかられたが、そんな余裕があるわけもなく、一心不乱に足を動かすことにする。
距離は開いても、鋭利な殺気が首筋を刺激してきた。
これは・・・ヤバい!
本能的に身をかがめる。
つい先ほどまで肩甲骨があった辺りを、何かが一直線に飛んで行った。
月の光を鈍く反射したのは、おそらく投擲用のナイフだろう。
というか、そこまでする?
命を狙われるのはこれが初めてという訳ではない。しかし、攻撃の仕方が徹底しているように思う。
必殺というか、対人相手に命のやり取りをこなすプロの所業に感じるのだ。
と、身をかがめたことにより背中に激痛が走った。
今しがた攻撃をくらったのではない。おそらく初撃で浅く斬りつけられていたと推測する。
磨き抜かれた剣筋は、相手に斬られたと思わせることなく身体を両断するという。
浅く皮一枚を断たれた程度かもしれないが、ちょっとした動きでその傷口が開いて痛みを生じさせるのはよくあることである。
いや、それよりも想定以上の達人に襲撃されたみたいだ。
誰か助けてくれないものだろうか。




