イケメンすぎる冒険者、出立する②
「よう兄ちゃん、イケメンだな。」
とある街でひとりで飲んでいた。
この街の甘味処は早い時間帯に閉店するようだ。営業時間内に馬車が到着せず、夜の糖分補給ができなかったマイク・バルカンは不貞腐れて自分の宿にこもってしまった。
たぶん、持参している菓子やドライフルーツでも頬張っているのだろう。
しかし、あれだけの糖分を摂取して、よく病気にならないものだといつも思う。それとも、あの筋肉は糖分で形成されているのだろうか。
いや、違うな。
糖分でガチムチムッキーになるなら、世の中の甘党女子はみんなガチムチムッキーじゃないか。
それはそれで恐ろしいが、実際にはそんなことはないのだから糖分で筋肉質になるという考察は間違いなのだろう。
「何か?」
声をかけてきたのは、いかにも冒険者といった三十路の男だった。断りもなしに隣の席に座ってくる。
酔っているわけでもないのは、目の動きや表情である程度わかった。
いかにも人の懐具合を探ろうとするチンピラ冒険者特有の雰囲気で、一癖も二癖もありそうな男だ。
こういった男には気をつけなくてはならない。
「あんた冒険者だろ?いい話があるんだが、ひと口かまないか。」
そらきた。
こんな時にマイク・バルカンがいれば、怖くて近寄りすらしないのだろうなと思いながらも返答する。
「興味ないな。」
「詳しい話も聞かないうちにそれはないだろう。今聞いとかなきゃ、絶対に後悔するぜ。」
「詳しい話を聞かなかったら、後悔のしようもないだろう。あまり適当なことを言うな。」
こちらの物言いにイラッとしたのか、男のこめかみには血管が浮いていた。
「そもそも、儲かるなら自分たちだけで稼げばいい。他人に誘いをかけるのは、そいつらをカモにした儲け話があるからだろう。違うか?」
自分でも良くない対応だと思う。
それらしい理由をつけて、男が諦めるように仕向ければ良かった。
それなのに、これではわざわざケンカを売っているようなものだ。
ああ、そうか。
俺はやはりコワモテを目指しているのだ。
これくらいの啖呵を切るくらいは初歩中の初歩に違いない。
理想はひと睨みで相手を退ける領域だ。
「いい度胸だ。表出ろやゴラァ。」
ああ、やはりまだまだその域にはたどり着けそうになかった。
うーん、これはどうしたものか。
土下座でもして許しをこう。
いやいや、それはさすがにない。
では、金でも包んで機嫌をとるか?
はっはっは、それも絶対にやらん。
というわけで、俺は座ったまま相手の顔面を殴りつけた。
腰の入らない腕だけのパンチだが、顎にまともに入ったため、簡単に意識を飛ばすことに成功する。
椅子からずり落ちそうになった男の肩を押さえ、机に突っ伏すように寝かす。
視界の隅にこちらを見ながら立ち上がりかけた奴らが見えたため、片手をあげて制止するように伝える。
相手は困惑したような顔をしたが、ウェイトレスや周囲の客に怪訝な表情をされたため座り直した。
俺が目指すコワモテ像は、こういった際にも荒事に発展せずに覇気やオーラのようなもので相手を圧倒することだ。
顔の造作もそうだが、マイク・バルカンはそういったものを無意識にまとっていた。
まだまだ理想には程遠いと思いつつ、席を立って勘定を済ませる。
店を出ると、予想通り先ほどの奴らが追ってきた。
俺は足早に路地裏を抜けて人がいない場所を目指す。
相手は意識を奪った奴を除いてふたり。
争いになれば実力差によってはかなり不利になるだろう。
何度目かの角を折れるとちょっとした広場があり、そこから先は行き止まりとなっていた。
おそらく、商会の倉庫か何かの前だろう。
後方から足音が迫ってくる。
俺は軽くため息を吐き、わずかな魔力を両手に集めた。




