宝物。
前半がメルクーア視点で、後半がジークフリート視点となります。
ベルティーナが結婚をして早半年となった。
季節も春から初の終わりに近づいてきたようで、体調も崩しがちになってきている。
十分に休息をとってるはずなのに…急に眠気が襲ってきたり。
「…ごめん…ジーク、気持ち悪い…」
食卓について、食事を前にすると吐き気をもよおす。口を押さえておかないと、勢いで全てを吐き出してしまいそうになる。
「ベル、メルクーアを自室へ連れて行く。医者を呼んでくれ」
「は、はいっ。お嬢様…立てますか?」
「えぇ…立てるわ」
いまだに胸焼けがするのを抑えて、自室に向かおうとするが一歩が出ない。
今日…すごく体調が悪いわ。今までで一番。
「一人で行かないで。初めからこうしておけばよかった」
体がふわっと浮いて、耳元にジークフリートのいい声が耳に入る。
横抱きにされていると気づいた時には、ジークフリートはギルベルトと話した。
少しだけ…少しだけ…目を瞑らせて。
◇◆◇◆◇◆
「王妃様、少しよろしいでしょうか?」
それから程なくして、私はベッドの上で目が覚めた。
目の前には王宮お抱えの医師。彼は真剣な表情をしている。何を言われるのだろう。
「最後に月のものが来たのはいつですか?」
「すみません…覚えていないんです。バタバタしていて、遅れてるのかなって」
男性が多くいる中で、こんなことを聞かれるなんて…恥ずかしすぎる。
別に遅れたのが悪いわけじゃないんだけどな。
「そうなのですね。おめでとうございます。女王様、ご解任されております」
医師から出た言葉に、私以上にジークフリートが驚いて椅子から崩れ落ちる。
音の大きさでそちらを見ると、ギルベルトが焦っているようだ。
「えっと…ご懐妊?」
動けていない二人に代わって、聞き返すと医師は嬉しそうに微笑む。
なんだか…実感がわかない。まだ。真っ平らなお腹をしているし。
頭が働かない私に、医師は続々と注意をすることを説明していく。近くにあった紙とペンで説明された注意書きを記載していく。
「何かありましたら、先輩であるリーシュ夫人にお尋ねくださいね」
「は、はい」
頭がふわふわした状態のまま返事をする。
そう。そうだ…ニーナも半年前に妊娠していた。彼女は今、実家で準備をしているはずだから後で手紙でも送ろうか。
「……メルクーア」
「…ジーク、あなた泣いてるの?」
彼を見上げると、瞳から大粒の涙を流している。
感情がジェットコースターのように揺れ動いている。
「…泣いているのか?」
こちらが聞いているのにどうして質問で返すのよ。
「泣いてる。嬉しいよな。自分の子供って」
二人で感動しようとしていると、水を差すギルベルトにジークフリートの涙が引っ込む。
いい雰囲気をぶっ壊した彼に、私は近くにあった枕を投げつける。見事にクリーンヒットをしたため。ギルベルトは呻き声をあげた。
ざまぁよ。
「俺だって、喜んでいいじゃんかっ」
「ちょっとぐらい、空気を読んでくれてもいいじゃないっ」
「わかったよっ」
大声で正論をぶつけると、案外すんなり受け入れてくれる。
二人の言い争いを見ているジークフリートは楽しそうに笑っている。その笑顔を見るだけで幸せになれる。
「ギルベルトたちと僕たちの子供が仲良くなるといいね」
「…そうだな」
「だといいわね」
嬉しそうな彼に私たちの心は浄化される。
子供達で仲良くする姿が想像出来るな…。楽しみだわ。
◇◆◇◆◇◆
「ジーク、メルクーアがっ」
懐妊から数ヶ月後。
メルクーアの状態が悪くなり、医師たちが彼女の自室に入っていった。出産が長引いているのか、なかなかいい報告がこない。
そんな中、親友であるギルベルトが息を切らしながら入ってきた。
ノックをしないし、メルクーアのことを呼び捨てにするのは相当急を要するものだろう。
「…落ち着け」
自分より焦っている人がいると、より落ち着いてしまうようだ。
口ではそう言うも、握った手が震えている。
「どうした…無事か?」
「…とりあえず、メルクーア様の自室へ」
言い終える前に席から立ち上がり自室へと走る。使用人たちが驚いた表情をしているが、今は気にしている暇なんかない。
元騎士である僕に頑張って追いつこうとしているが、ギルベルトはすでに瀕死の状態だ。
「メルクーアっ」
今まで最大の力で彼女の自室の扉を開く。ベッドにもたれかかっている汗だくのメルクーアは驚いている。
そんな彼女の腕の中には、綺麗な布に巻かれた何かが抱かれていた。
「ジーク…見て、私たちの子供よ」
腕にある布は僕たちの子供らしい。
恐る恐る近づいてみると、真っ赤にした赤子が目を閉じている。
「あの音で起きないなんて…将来大物になるだろうね」
僕の後ろから見つめるギルベルトに、彼女が笑って同意する。
「…双子なの。こっちが男の子で、こっちが女の子」
「…可愛い。可愛すぎる」
二人とも小さな目を瞑って開けようとしない。それだけでも可愛いと思えるなんて、親バカなのだろうか。
ギルベルトが自分の息子を可愛いと言い過ぎているのが、今になってわかる気がする。
「可愛いでしょ?もう…この時点で愛らしいの」
二人を見る彼女の眼差しは、女性から一人の母親になっている。
「本当…ありがとう。頑張ってくれたんだよね…ありがとう…メルクーア」
僕は赤子とまとめて抱きしめる。
抱きしめた腕の中で、二人が同時に泣き出すものだから、さすが双子だねと笑ってしまった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ついに、次回で最後の更新になると思います。




