公爵家の息子と公爵家の娘②
「ニーナ、君最近ソワソワしてない?」
主人であるジークフリートの周りのお世話をしていたら、予想外の質問が投げつけられた。
自分ではソワソワしているつもりはなかったが、他人からはそう思われているのか。
だとすれば…主人にバレたのは最悪すぎる。
「そんなことありませんよ」
「声が上ずってるね」
面白いおもちゃを見つけたかのように、彼はこちらをからかう。
本当…彼が味方で良かったと心から思う。
「ギルベルトとパーティに行くの?」
「いっ…行きま…せんよ
今度こそ声が上ずる。だめだ…この人はどこまで知ってるんだろう…聞きたくない…怖い。
「でも、リーシュ家からドレスが届いたみたいだけど」
「本当に私宛ですか?」
表情を押し殺して質問で返す。ここは真顔が一番だ。
「ニーナ・ヴァイマルって書いたけど」
「……へぇ」
これ以上彼に気持ちを悟られたくなくて、手にしていたトレーで顔を隠す。この行為がより彼に確信を持たせるようなものだとしても、表情を見られたくない。
私はそのまま彼の部屋を出ると、廊下を走って自身の部屋に向かう。
机の上にあるのは、綺麗な包装紙に包まれた箱。確かに宛先は自分だ。でも何が入っているかは書いてない。
じゃあ…どうして彼は荷物の中を知っているのだ。開いている感じはなさそうだし…。
彼に不信感をいただきながら、金の刺繍がついたリボンを解く。
中に入っていたのは、黒のドレス。リボンと同じく金の刺繍が施されている。
背中がばっくりと開いたドレスは、不覚にも私の心を掴んだ。サイズを知っているのは、この際何も見てないフリをしよう。
こんな高価なもの…彼が自分のお金で買ったのかしら。
同じ公爵家でも天と地ほど差がある。それに少しだけ胸が痛んだ。
そしてドレスから自身の手に視線を動かす。水仕事をする私の手は、所々あかぎれがある。
貴族…いや女性の手とは程遠い。
ギルベルトに誘われたけど、やめとこうかな。いや…あんな熱の篭った目で見られて、今更行きませんなんて言えない。
自惚れたくないけど、ギルベルトは私のことを好きだろう。
この前廊下で出会ったとき、信じられないくらい顔を真っ赤にしていた。
百戦錬磨の彼なのに、こんな年上の相手をして楽しいのかな。
とりあえず、全てのことは忘れて手の手入れから始めよう。
ドレスをしまって、主人の元に向かって午後はお休みにさせてもらおう。それで、クリームを購入しようか。
扉を開けて外に出ると、淡い紫色の髪をした女性が立っていた。
「こんにちは、ニーナ」
「こ、こんにちは…ヨハンナ様」
立っていたのはアルベリヒの婚約者であるヨハンナ・ハルトマン伯爵令嬢。クラウスハール家の傍系出身で、元々北の守護の騎士出身だ。現在は引退して看護の仕事をしている。
つい最近アルベリヒと式を挙げたばかり。私にとっては、使える人物の一人だ。
「貴女を探していたの。これを渡そうと思って」
ヨハンナが渡したのはクリーム。ちょうど欲しいと思っていたものが、こうもすんなり手に入るなんて。
「こんな高価なもの…いただけませんっ」
クリームはココ周辺で一番いいお店のものだった。
「でも…メルクーア様がニーナにって」
主人の最愛の人であり、私にとっても大切な人からの贈り物。
だとしたら…ありがたい。けど、私の中の良心がだめだと警告している。
手を下ろすと、ヨハンナの後ろから長身の男性がやってくる。
「メルクーア様が絶対渡してねって言ってたぞ」
「ア、アルベリヒ様…こんにちは」
彼はヨハンナから離れようとしない。
”手を出して”と言われて自然と手が出る。そして、ヨハンナの手の上から自分の手を重ねて、私の手に無理やり渡してくる。
「ちょっ」
「メルクーア様が渡してって言ってたから」
「返されちゃうと私も困っちゃうわ。それに、メルクーア様も悲しんじゃう」
そんなことを言われると、受け取らざるを得ない。
「…ありがとうございます」
「メルクーア様に会ったらお礼を伝えてね」
ヨハンナは素敵な笑顔で、アルベリヒと共に去っていった。
彼女も手を酷使しているはずなのに綺麗だった。
毎日手入れをしているのだろうか。
私も…出来るだけ頑張ろう。




