公爵家の息子と公爵家の娘①
ジークフリートがニーベルンゲンの王子と発表した後の話です。
ニーベルンゲン王国に通い始めて早数ヶ月。
ジークフリートと共に向かう時もあれば、一人で向かう時もある。今日も彼と共に向かうために、クラウスハール家へとやって来た。
ここの警備はズブズブなのか、顔パスで入れるようになっている。俺が暗器を持っていたらどうするつもりなんだ。そんなことはもちろんないけど。もし持ってくるようなもんなら、常駐している北の守護に殺される。
「あら、こんにちはリーシュ様」
廊下を歩いていると。向かいから小麦色の髪を一つに結んでいるメイドが声をかけてきた。普段名前で呼ばれることが多いので、一瞬反応に困る。
「こんにちは、レディー」
「え?やめてください」
相手をレディーだと言えば、急に真顔で怒られる。
「女性は大抵こう言えば喜ぶんだけど。って考えてますよね」
彼女から図星のことを当てられ何も言えなくなる。
「私…貴方より五つも上だし。レディーって歳じゃないんですよ」
呆れた表情で言われてしまう。
年上なのはわかっていたが、五つも上だったのか。それは知らなかった。
ここまで自分が女性に振り回されるなんて。
「周りの子たちは結婚して、子供がいるのよ」
「結婚願望ないんですか?」
気になってしまったので質問すると、彼女は立ち止まる。振り返るとまた真顔になっていた。
だけど、その下には怒りを含んでいるようなそんな感じ。
「ないです。私、逃亡したときからしないって決めてるんです。生涯、メイドで過ごすのです」
はっきり言われると何も言えなくなる。
そう言えば彼女…ジークフリートと共に逃亡してきたんだった。
「でも…貴女も公爵の娘ですよね?」
「一度死んだね」
「それは…。仮死状態だったんですよね。今はちゃんと公爵家の娘でしょ?」
「家には弟がいるから当主はいらないの」
そういう意味で言ったんじゃないけど。結婚するときは相手もいるだろうに。
「それを言うなら、貴方も公爵家の息子でしょ。しかも長男」
「俺は長男だけど、二人も弟がいるんで。次男はノイエンドルフ王女の婚約者だし、三男は俺より頭がいいから」
だから俺がいなくなったところで困らない。
「あら、そう」
素っ気ない返事をされて呆気にとられる。
他の令嬢は三男が頭がいいと言えば、同情の目を向けてくれる。別に目を向けて欲しいわけじゃないけど…こんな反応されると、相手にされないようでムッとする。
まだ子供のようで、自分にも嫌気がする。
「私はリーシュ様の二番目の弟にお会いしたことがありませんのでわかりませんが…。リーシュ様はジークフリート様の補佐に相応しいと思いますよ」
黒曜石のような美しい瞳が俺を見つめる。
ドキドキとこちらの心臓が鳴る。マズい…これは非常にマズい。この胸の鳴り方を俺は知っている。
「これからもよろしくお願いしますね」
さっきまでの真顔は何処かへ消え去って、警戒心が解けた笑顔を向ける。
「ちょっと…待ってっ」
頭で考えるより先に体が動く。
いつの間にか細い手首を掴んでいた。目の前の彼女は目を見開いて驚いている。
「リ、リーシュ様?」
「ギルベルトです。ニーナ嬢」
今、自分の顔は信じられないほど赤くなっているだろう。
ジークフリートに見られたら、ずっとからかわれそうだ。
「はい、知ってますよ。ギルベルト・リーシュ様」
そうじゃない。いや、そうだけどそうじゃない。
天然なのか、彼女は。
伝わらなくてもどかしくなる。叫びたくなる気持ちを抑えて、もう一度彼女に訴えかける。
「ギルベルトです。リーシュ…じゃなくて…」
「えっと…はい。ギルベルト様、でいいんでしょうか」
名前をようやく呼んでもらえて、胸が少女のように高鳴る。
もう…ここまできたら自分の気持ちを抑えることが出来ない。
「ニーナ嬢、今度のパーティに一緒に行ってくださいませんか?」
「私ですか?」
「はい。俺と一緒にお願いします」
ニーナの手首を握る手に汗が溢れてくる。
頼む…了承してくれ。
「メイドですし…この国の人じゃないですし…」
「関係ないです。俺が貴女と共に行きたいんです」
訴えると彼女は数秒経って頷く。
「私で良ければ。ただ…あまり期待はしないでくださいね」
とりあえず了承が得られてよかった。




