日常。
ジークフリートに告白されたこと以外、いつも通りの生活を送っている。
以前ヒルデに注意されて以来、ジークフリートとは程よい距離が保たれていると思う。
彼女はどの立場からか、こちらを監視してくる。その視線は鬱陶しいことこの上ない。そんな視線を見ないフリして学生生活を続ける。
廊下を歩いている私とジークフリートに、ギルベルトから声がかかる。
「二人とも、なんか進展あった?」
なんて言うものだから、私とジークフリートは顔を合わせてしまう。そして彼は人目のつかない場所に行こうと言って、クラウスハール家の馬車に乗り込んだ。
「ギルベルト様…私はもう耐えられないです。なので、ジークについて行こうかなって思ってます」
なんて言えば、ギルベルトは驚きつつも、安心した表情を浮かべる。そして小さく”よかった…”と零した。
そこまで心配してくれてるとは思ってなかった。
「あぁ…そう言えば、僕が産まれたのはニーベルンゲン王国なんだ」
呼吸をするように、普通にポロっと出すジークフリート。
「知ってる?ルーンの前の国。賢王が納めていた国だよ」
「いや…知らない」
「そっか…暴君が箝口令を出してたから」
「その…産まれた国ってことは」
「僕今まで黙ってたけど、そのニーベルンゲン王国の王子なんだ」
ギルベルトは面白いくらいに目を動かしている。
そして、首を捻ったりとりあえず体を動かしている。そのまま私とジークフリートを比べてから、こちらに助けを求めた。
「そうみたい。私もつい最近知ったの」
「…本当?ちょっと、頭が追いつかない」
流石に急な展開過ぎただろうか。私も始めは付いていけなかった。
「この話は後で詳しく話すよ。ニーベルンゲン王国を再度建て直したいのは…僕が産まれた国だからだ」
目にこれ以上ない情熱を宿したジークフリートの圧に、ギルベルトは圧倒されている。
彼にとってギルベルトはどうしても手に入れたい人材なのだろう。リーシュ家の次期当主であり、王太子の友人で最側近。公爵家にいるからこそ顔が広いため、人脈作りに必要なのだ。
隠されて育ったジークフリートは騎士として社交界に精通していない。だからこそ…無いものを強請るように彼が欲しいのだ。
「君…すごい情熱だね。そこまでの情熱があるとは思わなかった。もちろん、君の考えを理解した上で、俺は協力するよ」
若干引いているような気がするも、ギルベルトのこの言葉はジークフリートにとって嬉しいものだろう。
「男に二言はないからね」
「それはよかったよ。正体を明かして断られたらどう処分しようか考えていたんだ」
キレイな顔から怖い言葉が出たのにはこちらも背中が凍える。前に座っているギルベルトも、顔色が悪くなっている。
「ははっ怖いこと言わないでくれよ」
彼の口から乾いた笑いが溢れる。
しばらくの沈黙が流れ、三人の呼吸音だけ流れる。
「ルートヴィヒを見捨てるのかい?」
ついに言葉を発したギルベルト、見捨てるなんて言葉は使って欲しくないけど。
「私が見捨てんですよ」
今度は私の方口から乾いた笑いが出る。
「この話はコレで終わりにしよう」
ジークフリートの一言で会話は終了となった。
クラウスハール家の馬車から降りると、金髪と桃色の髪が目に入った。
エスコートをしてくれているギルベルトの手が自然と力が入る。こちらより動揺しているみたいだ。
ヒルデとルートヴィヒはいつも通り、二人で行動してくれて…本当に想像通りだ。
「こんにちは、メルクーア様」
甘い甘い声で私の名前を呼ぶヒルデに胸焼けがしてしまう。
「こんにちは、ヒルデ様」
「もしかしてですけど…男性二人と仲良く密会していらしたんですか?」
含みのある笑顔に不快感のある発言。
私の失態を見て楽しそうに突いてくれているようだけど、そんなものは私に効かないのよ。
男性二人はヒルデの挑発に半分乗りかかるように反応してしまう。
「えぇ…仲良しの友人ですもの。私の心は殿下にしかないのに…それをお二人ともわかっておられます。だから…そんなことをおっしゃらないで?」
女優並みの演技力で目に涙を浮かべる。
ヒルデはこちらを見て怯んでいるようだ。
「ヒルデ様は…私が男性に色目を使うような女だとお思いですか?」
細い人差し指で自身の指を拭うと、眉を下げて微笑んんでみる。
「い、いえ…そんなお方だと思いません」
「よかったっ。私ヒルデ様と仲良くしたいと思っていたのです。だから…変な誤解をされたくなかったのです…」
ギルベルトの手を離してからヒルデに駆け寄ると、今度は彼女の手を握る。
警戒している場合じゃない。私は心の広い女性を演じるのよ。
自分が思っている以上に、強く握っていたようで、ヒルデの表情が歪む。
「私と…仲良く…?」
「えぇ。だって…ヒルデ様は、殿下の大切なご友人ですもの。ねぇ…ルートヴィヒ殿下?」
ヒルデの手を握りながら隣にいるルートヴィヒを睨むように詰める。
”ご友人”以上の関係になっているかもしれないけど、ここでは言えたものじゃないでしょ?
だって、貴方はまだ私と婚約関係にあるんですから。
「あぁ…僕も君とヒルデ嬢が仲良くしてくれたら嬉しいよ」
「ですよね。殿下もこう言っておられるようですので、ぜひ…仲良くしましょう、ヒルデ様」
より強く握って彼女の耳の口を近づける。
「私は別に殿下と仲良くしてようが、してまいがどうでも良いのです。仲良さげな二人を見て何も思いませんので。絶望した私の顔を見れなくて残念ですか?」
言いたかったことを全て伝えると、彼女の体から離れる。ヒルデは怒りからか、恐怖からか体が震えている。
それを見て思わず自然と笑ってしまう。
「本当…お二人が仲良くて…私…嫉妬で狂いそうになります」
なんて言えば、私の性格が変わって驚いているらしい。
いいわ、どんどん疑心暗鬼になっていきなさい。狂って信じられなくなれば良いのよ。
「狂ってしまうの?」
「えぇ。でも、本当に狂いはしませんわ。あ、そうだ…これで失礼致しますね」
頬に手を添えてしなやかに腰を折る。
少しだけ見えたのは、殿下がこちらに手を伸ばしているのと、そんな殿下に焦っているヒルデだった。
「メルクーア嬢っっ」
「ギルベルト様?」
「さっきの…どういうことですか?」
追いかけていたギルベルトの後ろから、ジークフリートも付いてきている。
私は周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから口を開く。
「あんなの嘘です。別にヒルデ様と仲良くしたいと微塵にも思っていません。でも、あぁ言っておけば、彼女は殿下を離したくなくなって躍起になるでしょう」
自分でも信じられないほど、悪い顔をしていると思う。普段使わない表情筋が働いているのがわかる。
「驚きました…。仲良くしたいなんて」
「本心では嫌ですよ。心底…反吐が出ます」
途中で吐きそうになるのを我慢して抑えたのだ。
「自分を犠牲にするのは、やめておいた方がいいよ」
「クラウスハール様に言われたくないわ」
「…わかった。もう言わない。でも…本当に今ので、ヤツが躍起になるのか?」
「なるわ。ああいう性格の女は他人にのものが欲しくなるの」
相場で決まってんのよ。悪役令嬢もののヒロインはね。
どうせこれからルートヴィヒに引っ付くヒルデが目に入るのよ。
いつも通りの日常に戻るだけ。どうぞお好きにしてくださいな。
「改めて聞くけど、本当にいいのか?」
「改めて言うけど、本当に良いのよ。別にどうでもいいから」
遠い目をしてそう答えると、彼らは何も言わなくなった。
そんな目で見ないでよ。
もう…いいのよ…呆れてるんだから。
ここまで読んでくださりありがとうございます(*´ ꒳ `*)
つい先日追加したお話にも、いいねや感想嬉しかったです♡
感想なんて久しぶりにいただけまして…、!見てくださってる方がいるんだなぁって思ってハッピーでした!




