告白。(1)
ジークフリートは、クラウスハール家で育った。
けど、正体は隣国にあったニーベルンゲン王国の王子だった。本人から聞かされたときは驚いたけど、王子だからといって彼が何か別のものになり変わることはない。
「メルクーア、大丈夫かい?」
ぼんやり考えていると、目の前から声がかかる。紫色の瞳が私を見つめる。
「すみません。少しぼんやりしていて。何かおっしゃりましたか?」
すごく久しぶりのルートヴィヒとのお茶会。彼から呼ばれて、王宮の庭園でやりたくもないお茶会をしているのだ。
ジークフリートのことを考えたから、ぼんやりとしていて、彼がしていた話がわからない。今までは聞いてなかったなんてことはなかったけど、今は集中ができなくなっている。
「今度の生誕祭についてのことだよ」
「あぁ…殿下の生誕祭ですね。それに関して…何のお話でしょうか?」
「こちらでドレスを用意しようと思っていたんだけど、どんなのが良いかなって」
ドレスと聞いて一瞬体が固まった。
彼のセンスはないに等しい。今思えば過去のドレスは、流行に沿っているものを贈ってくれていた。その流行は、我が母親が流したもの。
最近の流行は、何故だろうか…ヒルデになっている。そんな彼女がよく着ているのは、フリルがふんだんにあしらわれた可愛らしいドレスだ。
本当に自分には似合わない。
だから私は、母や義姉がよく通っている仕立て屋を伝える。
「わかった。じゃあ…一応聞くけど…何色にしようか」
ぼんやりとしたままルートヴィヒの声が耳に入る。
「…きみどり」
「ん?今、なんて言ったの?」
思い浮かんだのは、ジークフリートの瞳の色。
ボソリと呟いたため、彼の耳には届いてなかったようで聞き返される。
「碧色ですかね」
今度は自分の瞳の色を浮かべながら答える。
どうしても紫色なんて言いたくない。だって…それはルートヴィヒの瞳の色だから。
「そっか…碧色…そうだよね」
乾いた笑いで反芻した彼に、こちらは少しだけ口角を上げて微笑む。
「本日の要件はそれだけですか?」
「ん?今日は…そうだね…これだけだよ。この後は用事が?」
「えぇ…父と少しお話がありまして」
別に父と話なんてない。
ルートヴィヒとこれ以上過ごすのはごめんだ。用事が終了したが、一緒に過ごそうとしているのを感じてしまった。だから、申し訳ないが父を利用させてもらった。
「そっか。送っていくよ」
「ありがとうございます」
◇◆◇◆◇◆
ルートヴィヒに馬車まで送ってもらった後には、静かに揺られて自宅に戻る。馬車置き場には見慣れた馬車が一台あった。
クラウスハール家の馬車だ。
侯爵が父に会いにきたのだろうか?
そんなことを思い浮かべながら部屋に戻ると、目の前からベルが駆けて来る。
「お嬢様っ、ジークフリート様がいらっしゃってます」
「…ジーク?」
どうして彼が?
ルートヴィヒとの会話中に、ジークフリートのことを思い浮かべたから?
ベルに急いで行くわ、と声をかけ彼が待っているという、談話室へ向かう。
「どうしたの?ジークフリート様」
「別にどうってことないよ。それと…わざとなの?やめてよ」
「ごめん、冗談。理由があるから来たんでしょ?」
あえて、彼を様つけして呼ぶと不機嫌になってしまう。この冗談はやはり良くないみたいだ。
座っている彼の前に座ると、今日は何したの?と彼に訊ねる。
「言いたいことがあってきたんだ」
何か覚悟を決めたジークフリートに、何か胸がいやに鳴る。何か警告音のような。
聞くべきなんだろうけど、耳を塞ぎたくなってしまう。
「何?大丈夫なこと?」
内心ドキドキしながら聞き返す。
「うん。大切なこと。メルクーア…僕はさ…」
「ちょ、ちょっと待って」
真顔で見つめられて、我慢出来なくなった。
途中で止めてしまったからか、ジークフリートは口をポカーンとだらしなく開けている。
「止める?こんな大切な場面で。覚悟…決めてよ」
「わ、わかった」
「僕は君と出会って…それか出会う前から…気になってた。ずっと考えてたんだけど…僕、メルクーアのこと愛しているんだ」
ところどこと途切れながらも、彼は告白する。
ジークフリートは、私のことを愛している。
その言葉に、先ほどの警告音からときめきのような音が鳴っている。
薄々気がついていた。
ジークフリートが他の令嬢に全く興味がなく、私にだけ優しくしてくれていたこと、私に対する好意を隠さなくなったこと。
多分、ずっと伝えたかったんだろうけど、私が殿下の婚約者だったからずっと我慢していたのだろう。
だけどルートヴィヒが私を蔑ろにしたため、ついに覚悟を決めたのだろう。
そして…新しい国へ私を連れ出すために言ってくれたのだ。
「貴方が照れるなんて…珍しいわね。ふふっ耳が真っ赤だわ」
人生で初めての告白だったのだろうか…。
真っ赤になりながら愛の告白をしてくれる彼は愛らしい。
手を口に当てて笑っていると、視線を床に落として恥ずかしがっている。
「早く…何か言ってよ」
「嬉しいわ、ありがとう。私もね、ジークのこと好きで愛しているわ」
「それ、友情のもの?愛情から来るもの?」
ジークフリートの告白に返事をすると、彼は顔を上げて質問をする。
友情か愛情か。
「こんな状況で言うのは…憚れるんだけどね…愛情の方よ。ちゃんと素敵な男性として、愛しているわ」




