ややこしくなっています。
昨日の出来事を思い出すと頭痛がする。頭に血が上って冷静な判断が出来ていなかった。
あの場にルートヴィヒだけでよかった。いや、本当によく無いんだけど、あの場にいたヒルデがいればややこしくなっていただろう。
頭を押さえながら廊下を歩いていると、目の前から見慣れた人物がやって来る。
「あ…おはよう、メルクーア」
「おはよーございます、メルクーア様」
「おはようございます。本日は良いお日柄ですね」
語尾を伸ばすヒルデに、口角が上がりそうになるのを抑える。
最悪すぎる。どうして二対一のときに現れるのよ。
内心焦りながらも、二人の対応をしていく。
「どうかなさいましたか?」
挨拶を済ませたのなら、すぐにこの場を去ればいいのに。
朝から二人一緒に投稿するなんて…仲が大変よろしいことで。
「いや…別に」
「では、急いでおりますので失礼いたします」
「ねぇ…ルーイ聞いてください」
足を出して歩みを進めようとした瞬間、ヒルデの甘い声が私の耳に入ってくる。
彼女は今、ルートヴィヒのことを愛称で呼んだ。
顔に出てしまったのか、ヒルデはこちらにしか気づかないような表情を浮かべた。
「どうかした?」
貴方も貴方でその呼び名を受け入れないでよ。
「メルクーア様が、私をお茶会に誘ってくださらないんです」
目に涙を浮かべながら、彼の腕に自身の頭を預ける。
「メルクーアが?どうして…?」
彼は信じられないと言う表情でこちらを見る。
別に元々誘ってない。私が誘ったのはツェツィーリアであって、彼女では無い。
「酷いと思いませんか?私だって、メルクーア様と仲良くしたいのに」
ぐすんとわざとらしく声を出して泣くと、ルートヴィヒは彼女の頭を優しく撫でる。
ゲロ甘な雰囲気は私を忘れているかのようだ。
「メルクーア、ヒルデを誘ってあげたらどうかな?」
彼はこちらに優しく諭すように説得してくる。
なぜ、私が彼女を誘わなければならないのだ。
「失礼ですが、今度のお茶会はツェツィのためのものです。彼女が主役ですので、気を使っていただければと思っております」
ヒルデの方を睨みながらそう告げると、今度はルートヴィヒの後ろに隠れる。
直球でくるなと伝えたかったが、それはそれでめんどなことになるのは目に見えている。
「クラウスハール様もいらっしゃるんでしょ?」
……何故、それまで知ってるんだ。
教室での会話を聞かれている?だとしたら誰に聞かれていたのだろう。教室にヒルデの友人なんかいただろうか。
「ジ、クラウスハール様は、ツェツィと私の友人ですので、誘うのは当たり前です」
彼の名前を呼びそうになるのをすんでのところで止める。
ヒルデはどうしても私を悪者にしようとしてくる。
ツェツィーリアでもジークフリートでも誰でもいいから助けてほしい。一人じゃ対応しきれない。
「僕がいるのが納得できませんか?」
低音ボイスが私の耳に届く。
聴き慣れた声が聞こえたと同時に、私の隣にいつもの彼が立つ。
助けてと思った瞬間に来てくれるなんて…嬉しい。
「い、いえ…別に」
「聞き間違いだといいのですが…シュテルンベルガー嬢に無理を押し付けていませんか?」
ジークフリートの表情はわからないが、声で怒っているのがわかる。格好のいい人物が好みのヒルデが、怯えているのは珍しい。ジークフリートは、驚くほど顔が整っているのに。
「…お、押し付けていませんわ。ねぇ、ルーイ」
ヒルデは助けを求めるようにルートヴィヒを頼る。彼は小さく”大丈夫だよ”と呟いた。
「クラウスハール殿、ヒルデが怖がっている。怖い顔で睨まないであげて」
どこまでヒルデを庇うのだろうか。
私はその光景を、白けた表情でことの成り行きを見守る。
「殿下は婚約者が困っているのに関わらず、ポッとでの私生児を庇うのですね」
乾いた笑いはルートヴィヒの表情を崩すのには十分だった。
平等を謳う彼にとって、ジークフリートの”私生児”という単語は地雷なようだ。
「失礼だと思わないのか?」
珍しく怒気を含んでいる彼に、こちらは目を見開いて驚く。あんな怒り出来るんだ。
「思いませんよ。本当のことなので」
そんな怒りをもろともせず、煽りに煽る彼。止めるべきなのだろうが、なかなか手が出ない。
「君は怖いもの知らずなのかい?」
「えぇ。僕に怖いものはありませんよ。特に、全く知らない殿下は特に」
彼の発言に固まる。さすがにこれはダメだ。
「ちょっと、クラウスハール様。今のは…良くないわ」
「君がそう言うなら…謝罪するよ」
わざとらしく謝罪をして、ジークフリートは真顔に戻る。
「そういえば…シュテルンベルガー嬢は殿下のことを愛称で呼ばないの?」
「…え?あ…えっと…愛称ね」
彼の温度差に狼狽えてその後は笑いながら答える。
本当に…鋭いな…ジークフリートは。
「呼ぶこともあるわよ。ルーイってね」
「へぇ…もしかして、エーレンバーク嬢が呼んでいた呼び方かな?」
含みのあるジークフリートの笑みに、ルートヴィヒが反論する。
「確かに彼女は、僕のことを愛称で呼んでるけど…何かいけないことでもあるかな?」
ヒルデを後ろに控えて庇うように前に立つ。いけないことではないけど、控えて欲しい。こう人前で呼ぶのはやめていただきたい。
「まさか…メルクーア様が、何かおっしゃりましたか?」
か弱い霊場を演じつヒルでは何か言っている。別に私は何も言っていないけど。
「何も言ってませんが?」
「そうですね…だって、メルクーア様もクラウスハール様のこと愛称で呼んでますものね」
ヒルデの言葉に、私もジークフリートも固まってしまう。わずかな表情の変化を感じ取ったのか、彼女は嬉々として話始める。
「ジークって呼んでいましたものね」
彼女はたいそう楽しそうにケラケラと笑っている。
最悪…。教室での出来事はヒルデに筒抜けだ。あの時、注意深くしておけばこういうことにならなかったのに。
小さく息を吸って、彼女ときちんと向かい合う。
「そうですね…ヒルデ様のおっしゃる通り、ジークと呼んでおります」
ここで否定なんてすれば、より面倒なことになると思った。だから早めに肯定すべきだ。
「メルクーア様の婚約者はルーイなのに…関係のない彼のことを愛称で呼ぶなんて…」
私の失態を楽しそうに告げていく。隣にいるルートヴィヒの方を見ると、驚いているのか目を見開いている。
確かに彼の前で呼んだことはなかったな。
「関係ない…」
なくはないわけではないが、ここで反論するとややこしくなることこの上ない。
彼女は、シュテルンベルガー家とクラウスハール家の関係を知っていないのだろうか。
ちらりとジークフリートの方を見ると、私の方を見ていた。そんな彼は首を横にふる。気にするな、自分の好きなようにしろ。と目だけで訴えているようだ。
「殿下という婚約者がいながら、他の男性を愛称で呼ぶのは…確かによろしくありませんでしたね」
ここ最近で表情を作るのは上手くなっている。
眉を下げて困るように訴えれば彼女は狼狽える。
「人前で呼んでいないとはいえ、殿下の気持ちを考慮しておりませんでした」
小さく謝罪をして、隣にいるジークフリートにも謝る、
「これからは愛称で呼びませんので、ここで約束をさせていただきます」
そう断言し、付け加える。
「ですので、ヒルデ様もルートヴィヒ殿下のことをルーイと呼ぶのはおやめくださいね」
笑みで対応すると、ヒルデは体をワナワナと震わせて何も言い出せない。
残念、こちらの勝利だ。
「ね?殿下も…お聞きになりましたよね?」
「あ…あぁ。ヒルデも気をつけてね」
「殿下もですよ。呼び捨てはお気をつけてくださいね。彼女はツェツィと違うのですから」
彼にも釘を刺すのは忘れずに。
彼は気まずそうに顔を逸らして小さく”わかったよ”と呟いた。
仕掛けた彼女は、負けてしまったよう。私はジークフリートと共に、呆けている二人を置いてこの場を去る。
朝から最悪…気分が悪い。ストレスが溜まる。
ため息を吐くと、ジークフリートが心配そうに声をかけてくれる。
「本当に大丈夫よ…ありがとう」
大丈夫ではないけど、こう言わないと彼は納得しないだろう。
心配してくれるのはありがたい。でもそろそろ限界かもしれない。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
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これからも評価などしてくださると、小説の糧になります!よろしくお願いします❁¨̮




