邪魔な存在。
メルクーアを見送ったあと、後から例の人物が息を切らしながら走ってきた。
「ちょ…ちょっと…」
髪を乱しながらやってきたヒルデは、通り道を塞いでくる。両腕をいっぱい広げて、ついでに自分の可愛さも忘れずに。
後半はこちらの勝手な想像だけど。
「ジークフリート様っ」
瞳に涙を浮かべながら、名前を呼んでくる彼女に作っていた表情が崩れてしまう。
気付かれない内に真顔に戻し、無視して彼女の横を通り過ぎようとすると腕を掴まれた。
…最悪だ。気持ち悪い。どうしてコイツに名前を呼ばれないといけないんだ。
腕を軽く振り払い、ヒルデを置いていくもまたもや腕を掴まれる。
自分でも信じられなほど大きなため息をついた。
「ジークフリート様、お待ちください」
名前を呼んできて、嫌がられてるのを理解していないのか。
見下すように見ると、彼女はビクリと肩を動かす。
怖がるなら声をかけなければいいのに。何がしたいんだコイツは。
「何ですか?エーレンバーク嬢」
低めの声で威嚇すると、彼女は察知したのか腕を離した。
掴まれた腕を汚れたもののように払うと、ショックを受けている。
「どうして…メルクーアさんを庇うんですか?」
僕をわざわざ引き止めてまで言うことか?
それに今の発言に引っかかることがある。
「メルクーアさん?僕の耳がおかしくなったんでしょうか?シュテルンベルガー嬢は、伯爵位。対して貴女は男爵位。それに彼女はこの国の王太子の婚約者です。自分より爵位が上の者を”さん”なんて…不敬な呼び方をしていませんよね?」
彼女が口を出す隙を与えないように、捲し立てるように話す。
すると彼女は小さな声で謝罪する。
謝る相手を間違えてるから、後日謝罪させよう。
頭の中で色々と考えていると、ヒルデが声をかけてくる。
「クラウスハース様…何故メルクーア様を庇うのですか?」
今度は敬意を払う呼び方に…案外できるじゃないかと感心すてあげる。それに僕を呼ぶ呼び方も変わったようだ。
「僕と彼女は幼馴染みだからです」
ごく簡単に説明すると、ヒルデは納得していない様子だ。
「本当にそれだけですか?」
「本当にそれだけです。何を勘繰っているのですか?」
深く追求するなんて。
あと少しだけ期待するような目で見てくるのもやめて欲しい。気持ち悪いから。
「おかしい…こんなのバグでしかない」
目の前のヒルデから聞き慣れない単語が聞こえてくる。
バグ…。
それは一体どういう意味なんだろうか。考えようとすると、またもや彼女の口が開かれる。
「クラウスハール様は、メルクーア様のことが好きなのですか?」
不快な訊ね方に思わず表情に出てしまう。
好き。だなんてそんな単純な気持ちではない。
どうしてみんな、この二文字を使いたがるのか。
彼女が僕の表情を変に受け取ったのか、何かを見つけた子供のように楽しそうに笑っている。
「好きという簡単な言葉で表すことは出来ません。勘違いしないでください」
突き放すように告げると、固まった表情こちらを見る。
見るな鬱陶しい。
「それでは好きではないのですね」
さっきからそう言ってるだろう。
「好きではありません」
はっきりと伝えると、ヒルデは先程までの固まった表情を捨てて、にこやかに微笑む。
この女の笑みは人を不快にさせるな。
見ていられなくなり視線を落とす。すると、いつの間にか彼女が距離を縮めてきていた。
「可哀想なメルクーア様。ねぇ…ジークフリート様…もしよかったら…私と仲良くしませんか?」
そう言うと僕の制服の裾をちょっとだけ掴むと、目を潤ませ上目使いで訴える。
コイツ…馬鹿なのか?
この短時間でヒルデに対しての失礼な対応をしていたのを忘れたのか。
嫌なオーラを出していたのだが…どこかに忘れてきたのか?
力強く振り払うと低い声で離すように威嚇する。
「貴女とは仲良くすることは一生ありません。それと…僕の前でシュテルンベルガー嬢を侮辱しない方がいいですよ」
可哀想と言われるなんてありえない。
どちらかと言えば可哀想なのはお前だ。
自分が好かれるとでも思っているのだろう。
それについ先ほど警告したのを覚えていないのか。
「本当に剣を持っていなくて良かったですよ」
今までの言動から切り捨ててしまいそうだった。なんて付け加えて言うとヒルデは青ざめる。
「では、失礼します」
軽い挨拶を済ませて立ち去る、
ようやく馬鹿から解放されると思ったら深いため息が出た。
アイツは本当にダメだ。
メルクーアを不幸せにしてしまう。
何が男爵だ寵愛している高級娼婦の娘だ。男爵はすでに別の女性に心移りしているくせに。
周囲にいて欲しくない人間だ。
ギルベルトが警戒しているのもわかる気がする。
本当に邪魔な存在だな。
ここまで呼んでくださってありがとうございます(^^)
ようやく喧嘩腰バリバリのジークフリートをかけました!!
あと…今回の話でヒルデの存在がわかったかな〜と!!
評価してくださってりがとうございます。
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