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チョコレートよりも甘い時間。

初夏の訪れを感じる頃には、ヒルデは堂々と学園を生活するようになった。

ルートヴィヒとは程よい関係を保っているみたいなので、目を瞑ることにする。

何もない休日。これでもか…という程晴れているのに、出かけないなんてもったいない。

私は部屋着から簡易的なドレスへと着替えて馬車へと乗り込む。手土産も忘れないで。しばらく揺れてやって来たのは、久しぶりのクラウスハール家。使用人たちは心地よく出迎えてくれる。


「ジークフリートですか?アイツなら今は訓練場っすよ」


近くにいた騎士へ声をかけると、会いに来た人物が分かったのか、すぐさま場所を教えてくれる。彼にお礼を伝えると、迷うことなく訓練場へと向かった。


「お久しぶりですね、メルクーア嬢」

「お、お久しぶりです、クラウスハール侯」


柱の壁からこっそり眺めていると、後方から声がかかる。

ビクリと肩を揺らすと、侯爵は声を殺して笑った。


「驚かせてごめんね。もしかして、ジークフリートに会いにきたの?」

「いえ…大丈夫です。あ…えっと…そうですね。連絡をせず申し訳ございません」


深々とお辞儀をすると、”気にしなくてしいよ。我が家と君の家の仲じゃないか。”と優しい声が頭上から降ってくる。

顔を上げると、声と同様に優しい表情をした侯爵は”ゆっくりしてね”と告げるとこの場を去った。

柱から出て来た私は、真っ先にハーゲンに見つかってしまった。彼が楽しそうに手を振るものだから、こちらも手を振り返す。


ハーゲンと訓練をしていたのは、次男のアルベリヒ。

アルベリヒはこちらを見て、小さく首を動かした。

公爵に瓜二つのハーゲンとは異なり、夫人と見た目が瓜二つの彼。そんな彼は社交界に出る機会や、お話しする機会はないため、性格はわからない。

とにかく、人と接するのが得意では無いということはジークフリートから聞いている。

ハーゲンはこちらへ向かって来ており、アルベリヒはどこかへ向かう。二人の訓練を邪魔してしまったようだ。

…申し訳ない。


「お久しぶりです、メルクーア嬢」

「お久しぶりです、ハーゲン様。えっと…本日はエレオノーラ様はいらっしゃらないんでしょうか?」


見渡すが長身の女性は見当たらない。ここ最近、会う機会がないため少しでもいいから会いたい。


「残念ながら今日は休息日なんです。会いたいのは…エレオノーラだけじゃないですよね?」

「…残念です。えっと…そうですね、ジークに会いに来ました」


確かに私はクラウスハール家に来訪するのは、ジークフリートに会う時ぐらいだ。


「ハーゲン。ジークフリート連れて来た。お久しぶりです、メルクーア嬢」

「お、お久しぶりです…アルベリヒ様」


連れて来た…というか、担いで来たと言うか。同じような体格の彼を担ぐなんて、アルベリヒは意外と力持ちなのかもしれない。

日常茶飯事なのか、ジークフリートも大人しく受け入れている。

その光景に思わず声に出して笑うと、ふれくされたジークフリートがこちらを見る。アルベリヒがわざわざこちらに顔を向けてくれたようだ。


「アルベリヒ、早く降ろせ」

「連れて来てやったことに、まずは感謝しろ」


なんて口調で話しているが、アルベリヒは担がれている彼を丁寧に降ろす。

些細な言い争いが目の前で起こっているが、ハーゲンにとっては日常のようで、楽しそうに眺めている。

男兄弟だったらこんな感じなのだろうか。


微笑ましく見ていると、ジークフリートが日傘をとって腕をと差し出す。それを交互に見てから、彼の腕に手を添えた。

すると、私の歩幅に合わせて…それでいて彼らを撒くために早歩きで。

そんな彼が連れて来たのは、マイナスイオンがあふれる場所。ハンカチを引くと座らせるようエスコートする。


「今日はどうして来たの?」

「私がね、時間が余ってたの。だから…久しぶりにジークが剣を握っている姿を見たくて」


どうせルートヴィヒは私と会う時間なんて作ってくれないだろう。

期待なんてハナからしてない。

こっそり見に来たつもりだったのに、この家族はみんな目がいいのかすぐ見つけてくる。

だからこっそりすら出来なかった。


「そう。で?その小さなバスケットの中には何かプレゼントか何かが入ってるの?」


ジークフリートは私の傍にあるバスケットを目敏く見つける。

彼の前にソレを差し出すと、蓋を開けた。


「中にあるのはサンドイッチ。これなら手軽に食べられるでしょ?これはレモンジュースよ」


サンドイッチの中身は、卵とチーズとレタス。私が好きな具材だ。もう一つはレモンジュース。酸っぱいけれど、ビタミンが豊富なのだ。

ジークフリートに食べるよう促すと、彼は大きな口をいっぱいに開いて食べる。食べやすいようにカットしておいて良かったかも。


「美味しい。久しぶりにメルクーアの手作りを食べたかも」

「確かに久しぶりね。どう?栄養摂取出来た感じしない?」


なんて聞くと、彼は目を輝かせて”する”なんて答えるものだから可愛く見える。声に出して笑うと、彼は優しく微笑んだ。

あまりにも甘い表情過ぎて頬が赤くなる。

今までも優しい笑顔を見せてくれていたが、今日のは今まで以上だ。

不覚にもときめいてしまった。

気持ちを消し去るように、首を振ってからたわいのない会話をしてみる。


そんなこんなで話をしていると、ジークフリートが私の髪を一房手にとって眺める。その瞳には熱がこもっているようで直視できない。

心臓の音が彼に聞こえてしまっているのではないかと不安になる。


「この前みたいに僕たちと同じ髪にしないの?」

「どうして?」

「あの時みたいに、気にせず出かけられるからね」


髪をいじったまま答える彼に言葉が詰まる。

確かに四人でカフェに行った時は、お互いの関係を気にせず楽しめた。


「そうね…あれは楽しかったわ。また…行きたいわね」


声色を変えないように努めて、彼からの気配を感じないように話す。


「じゃあ…同じ髪にしてくれる?」


勢いよく彼の方を向いてしまう。

いじられている髪が引っ張られてしまい痛みが生じる。焦った声で彼が謝罪するので、”悪いのはこちらよ”と一言告げた。


「ジークは、私の髪色は好きじゃない?」


思っていないだろうけど聞いてみた。


「まさか。僕はメルクーアのその美しい銀色の髪が好きだよ。だけど…」


”好きだよ”なんて言うものだから、顔から火が出るかと思った。

今この場で顔を隠すのだけは避けよう。


「その髪色は、メルクーア・シュテルンベルガーのもの。そして、君は…殿下の婚約者だ」


寂しそうな表情で私と私の髪を見ないで。

胸が締め付けられて苦しいじゃないか。


「そうね。また、お父様に相談するわ」

「それは嬉しい。君と出かけたいから」


こんなにも素直な彼は私は知らない。

受け入れてはダメよ。と頭の中では警告しているが、体は受け入れようとしている。


「お茶をしたいの。素敵な場所があるみたいだから…一緒に行きましょ」

「あぁ楽しみだ」


ジークフリートは髪から私の手へとうつすと、甲にキスを落とす。

急な出来事に体が動く。声を出さなかったことを褒めてあげたい。

逃げようと手を引こうとすると、逃さないように強く握られる。

…逃げられない。

彼に触れられた手が熱を帯びていく。息が詰まっていくけど、特に嫌悪を感じない。


「また…連絡するわ。お休みの日教えてね」

「あぁ…ありがとう」


見つめ合いが数秒程。それが終わると彼が手を離す。

そのタイミングで立ち上がると、”訓練頑張ってね”と短く激励して馬車へと急いで乗り込んだ。


「…急に…どうしたのよ…ジーク」


キスを落とされた手の甲は熱を帯びたまま冷めることはなかった。

ここまで読んでくださりありがとうございます(^^)


サブタイトル:いけいけ押せ押せジークフリート

でしょうか?笑


評価等感謝しています!!

もし良ければ、これからも評価やいいねしてただけると、私がたくさん喜びます❤︎

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