心を許せる新しい人物。
ジークフリート視点です。
「ジークフリート。ちょっといい?」
謎メンバーでの昼食を終え、メルクーアと共に教室へ戻ろうとしていると、ギルベルトから声がかかる。
「なん…ですか?」
「本当に敬語はいいよ。放課後話したいことがあるんだけど、時間は大丈夫?」
「今日?訓練だけだし、大丈夫だよ」
そう返事をすると、ギルベルトは”後で迎えに行くよ”と声高らかに返事をして早足で戻って行った。
◇◆◇◆◇◆
メルクーアとツェツィーリアを先に見送った後、お昼の宣言通りギルベルトは僕を迎えにきた。
教室にほぼ人がいなくて良かった。特に令嬢がいたら騒がれていただろう。
「俺の馬車に行こうか」
何が楽しくて男二人で馬車に乗らないといけないんだ。
そんな本音を隠して、ギルベルトの家であるリーシュ公爵家の家紋が入った馬車に乗り込む。我が家とは比べ物にならない程豪華な内装に、財力の差を感じる。
いや…クラウスハール家もそこまでの財政難ではないんだけど、彼の家が桁違いなだけだ。
流石は公爵家というところか…。
「で?話したいことって?」
脚を組んで彼を見据えるように睨む。
「君が俺を警戒しているから、解いてもらおうと思って。どうしたら警戒心を解いてくれる?」
「そりゃ…殿下の幼馴染みなんで、警戒ぐらいはしますよ。むしろ、どう証明してくれるんすか?」
飄々とした彼に自然と喧嘩腰になってしまう。
それすらも気にしない様子にイライラがつのる。
「俺、不誠実な男嫌いなんだよ」
「それは…そうだけど、貴方が言う?」
「俺は婚約者がいないから、別に他の令嬢と何してもいいんじゃない?」
あぁ…そういう考えをお持ちのようで。
貴族の中にはこの国の公爵であるリーシュ家へ嫁を出そうと、必死になっている輩もいる。そういう奴らの娘を上手に避けて関係を持っているんだから、なんだかんだですごいんだろう。
「相手も色々あって婚約者がいない令嬢ばかりだしね。だから、相手がいるルートヴィヒには腹が立っているんだ」
メルクーア嬢のことを気にしていないのにも。と付け加える。
それに関しては同感だ。ルートヴィヒは、メルクーアのことを蔑ろにしている。
アナベルが起こした事件のときも面会に来なかった。それで、時間をかけてようやく話し合った…ぐらいだ。その時のメルクーアは、彼との仲を修復しようと、頑張っていたが…今回は諦めている様子に見える。
「公爵家に何か得はあるの?」
「いや?公爵家には何も得はない。俺は婚約者として彼女を紹介された時から…知ってる。その頃は二人とも楽しそうにしていたけど…今のメルクーア嬢は、終始思い詰めた表情をしているからね」
彼女と彼の関係性にヒビが入ったのは、去年の建国祭当たりからだ。それまでは二人ともいい関係だったはず。
ルートヴィヒとの楽しい話を聞かされていたからわかる。それがここ一年で急激に減った。
アナベルの事件が終了としたと思えば、ヒルデが登場してきて深く溝ができてしまっている。
「それに、好きで幼なじみをしているわけじゃないんだ。本来ならあんな優柔不断な王太子に仕えるなんて…ごめんなんだよ」
ここまで本音を言うか…?
ルートヴィヒを罵倒しているが、彼の演技だったらどうする?本音を突き止めるべきか。
「優しいだけが、いい王になれるとは限らないからな」
ギルベルトは小窓を覗く。
そこには、同じクラスであろう令嬢と歩くヒルデがいる。その姿を見る彼の瞳は冷え切っている。
「……ソレって…演技?」
思わず素直に訊ねてしまった。
僕の発言に面食らったのか、ギルベルトは目を見開いてこちらを見ている。
失敗した…。
なんて思っていると、ギルベルトはお腹を抱えて笑う。数秒程声を出して笑った後は、目に浮かんでいる涙を拭き取った。
「ははっ…。君は賢い人だと思ってたけど…思っている以上に天然かなにかなの?」
「てっ天然?そんなつもりはっ」
初めて言われる言葉に焦る。
そんなつもりは全くなかったけど。
「演技か…。確かに疑われても仕方ないのかな。どうしたら信用してくれる?」
ギルベルトはどうしてこう信用を得ようとしているのか。別に僕からの信用ではなく、メルクーアからの信用があれば十分じゃないか。
ふと考えて、信用を得ることができる回答がもらえる質問を思い浮かんだ。
「ギルベルト…は、新しい国が出来るとするとどうする?」
笑顔から一転。真面目な顔つきに戻る。
「それは…どういう国?それによって。話が変わってくるけど」
「ルーンの前の国。賢王が治めていたような国」
断言するとギルベルトは、顎に手を添えて考える。
「だとしたら…誰が治めるの?」
「例えばの話だ。賢王のような王が治める国が出来ると、ギルベルト…君は移り住むか?」
彼を凝視する。
その瞳は全くぶれることはない。
「そうだな。そっちの方が仕事のしがいはあるとは思う。そんな国が出来ればの話だけどね」
彼の意見を聞いて頷く。
「善処するよ」
「ん?何か言った?それより、今の回答で信用は得ることが出来たかい?」
「あぁ。ギルベルトを信用しようと思う」
彼は緊張の糸が溶けたのか、ホッと一息をついている。
こちらも肩の荷が降りた…そんな感じだ。
「じゃあ、今日から俺たちは本当の友人だね」
「そうなるのか。では、僕が出席できない会場には、メルクーアを君に頼むよ」
熱い握手を交わして、ようやく解散かと思われた瞬間。僕を逃さないようにか、ギルベルトが口を開く。
「ジークフリート、君は本当にメルクーア嬢のことが好きなんだね」
そんなことを言うものだから、握る手に力が入る。
目の前の彼は”痛い、痛い”と叫んでいる。
「何?図星か何か?」
「あのな…僕はメルクーアのこと…好きじゃない」
告げるとギルベルトはアホ面でこちらを見つめる。その表情にイラッときて、今度はわざと力を入れて握りしめる。
「ギルベルトにはわからないと思うよ。僕のメルクーアに関する感情は」
最後に思い切り力を入れると、”折れるよ、馬鹿力め”と涙目で訴えてくる。
折れないように手加減してるわ。
「君のメルクーア嬢に関する感情は、君しかわからないんだろうけど…よくそれを隠し通せるね」
「僕だから出来るんだ」
興味がなさそうに返事をすると、握られた手を大切そうに撫でている。
ギルベルトと話すと調子が狂う。
「流石としか言えないよ。そこは…尊敬する」
そりゃどうも。と素っ気なく返事をすると、ようやく解放されたようでギルベルトが馬車の扉を開ける。
「今日はとても有意義な時間を過ごせたよ。ありがとう、ジークフリート」
「こちらこそ有意義な時間だった。また明日、ギルベルト」
その後自分の馬車に乗り込み外を眺める。
ギルベルトは…欲しい切り札だ。
何としてでもこちらに完全に引き止めておきたい。
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