久しぶりのパーティーです。(2)
彼にエスコートされながら、王宮のテラスへ出る。
程よい風が頬を撫でた。
「言うのが遅れてしまいましたが…」
「ギルベルト様、遮ってしまって大変申し訳ないのですが…敬語は不要ですよ?同い年ですし…ギルベルト様の方が…ね?」
悪戯っ子のように微笑むと、彼は面食らった表情をしてすぐに笑う。
「わかった。だったら、メルクーア嬢も俺に敬語はいらないよ?」
そうは言うが、ギルベルトは公爵家の人間だ。
私と彼では身分差がある。
躊躇っていると、彼は再度念押ししててきた。
「では…お言葉に甘えるね。えっと…さっきは何を言おうとしていたの?」
敬語を使わないのに慣れないが、とりあえずなるようになれだ。
先ほど彼が言いかけた内容を聞いてみる。彼は思い出した反応をすると、口を開いた。
「そのドレス、よく似合っているよ。って言おうとしたんだ」
ルートヴィヒから貰えなかった言葉に何も出てこない。
彼に心配をかけまいと、笑顔を作ろうと努めるが、口の周りが情けなくヒクヒクと動くだけだった。
「そのドレス、前回の王女殿下の誕生日の時にアイツが贈った物の一つだよね?」
それすらも知っているのか。
以前、ルートヴィヒから贈り物の相談をされたと付け足す。
「王女殿下の誕生日の時に着ていたドレスと、このドレスを含めた数着のみ手元に置いたのです」
普段着にするには豪華で、着るに着れない。
いざ。という時に取っておいたのだが、まさか今日出番がくるとは思わなかった。
「残りは送り返したんだったよね。ルートヴィヒが悲しそうな顔をしていたよ」
そんなことを言われても、そうですか。としか言い返せない。
「でもそのドレスの出番があるってことは…今回はもしかして贈られなかった?」
今まで前を向いていたが、首をギルベルトの方へ向けて頷く。
「アイツ、最低だな」
「そうね、最低ね」
彼の言葉に苦笑いで返す。
ギルベルトは、眉間にシワを寄せている。怒っていても綺麗な顔は綺麗なままらしい。
ご令嬢が彼にご執心になるのがわかる気がする。思わず、魅入ってしまう。
「このままでいいの?」
「全く良くないわ。でも…ヒルデ様は私のことを目の敵にしているし」
ルートヴィヒは学園では目を合わそうとしない。
このままではいい訳ではないが、物理的に無理なのだ。
「エーレンバーク嬢に何かしたの?」
「いいえ、全く。何もしていないのよね」
ヒルデが編入してきてからを思い返してみる。
だけど、これといった出来事はない。なるべく近寄らないように努めてきたけど…強いていうなら、近寄るべきではないと釘を刺した時だろうか。
「あぁ…でも、注意だけはしたのよ」
「まさかソレで?近寄っていたのは、彼女が悪いんだろ?信じられないね」
「彼女の逆鱗に触れたのかも。それぐらいしか理由がないもの」
二人して沈黙してしまう。
数秒程静かな空間が流れた後、ギルベルトの形のいい唇が動く。
「俺がルートヴィヒにきつく言っておくよ」
「ギルベルト様には今まで良くしてもらっているわ」
ヒルデがルートヴィヒに近づきすぎないように、仲介役として一人で働いてもらっている。
これ以上動いてもらうのは申し訳ない。
「大丈夫だよ。俺がやりたくてやってるからね。これからも何かあれば頼ってほしい」
ジークフリート殿もいるんだし。と付け加える。
頼ってもいいのなら、あまりにも心強い味方だ。
今日みたいなことがあるだろうし、彼の好意に甘えてもいいのかもしれない。
「では、何かあれば…ギルベルト様を頼らせていただきますね」
◇◆◇◆◇◆
二人で話し終えた後は、ホールへと戻ってきた。
ダンスは終了していたようで、人がまばらに散っている。それもあってか、私たちの存在に気がついていないようだ。
「せっかくなら、メルクーア嬢と踊れば良かった」
「本当ね。一度も貴方と踊ったことないもの」
「確かにそうだね。じゃあ、次回を予約しておこうかな」
ウインクをするギルベルトに、手を当てて笑っていると目の前から金髪の男が現れた。
その隣には、桃色の髪をした女性が堂々と彼に寄り添っている。
ルートヴィヒは酷く悲しそうな表情をしており、ヒルデは醜聞を見つけたかのように、楽しそうに口角を上げている。
貴方がその表情をするのはおかしくない?
四人で各々黙っていると、ヒルデが真っ先に口を開いた。
「メルクーアさんって婚約者がいるのに…他の方と密会するんですね」
ニヤリと下卑た笑みを浮かべる彼女に、私は冷ややかな視線を送る。
すると、彼女はキャッと小さく悲鳴を上げて、ルートヴィヒの腕に自身の腕を絡ませる。
ギルベルトの方を見ると、汚物を見るような表情でヒルデを見下ろしている。
お前が言うな。と目で訴えているのが伝わってくる。
ギルベルトが前に出ようとするのを、手を上げて制止する。
「確かに…ルートヴィヒ殿下という婚約者がいるにも関わらず、ギルベルト様と二人きりになってしまったのは…軽率でした」
まさか素直になるとは思っていなかったのか、ヒルデは狼狽る。
「ルートヴィヒ様は…こんな私に失望してしまいましたか?」
少しだけ涙を浮かべて彼に問う。
思う存分狼狽えるといいわ。そして、貴方が犯した罪を反省すればいいのよ。
「いや、失望なんてしないよ」
「良かったです。では…殿下に一言だけ申し上げてもよろしいですか?」
なんだい?と優しく訊ねてくる。
「ルートヴィヒ様も…私という婚約者がいるにも関わらず、ご令嬢に腕を預け続けるのは…いかがなものかと」
先ほどよりも多めに涙を溜める。
「しかも…パーティーという大勢の貴族がいる中でです。私の立場を考えてくださらなかったのですか?」
約束したのに…と意味ありげに発言した後、一筋の涙が頬を伝う。
ナイスタイミング…私の涙。
最後が彼の心に響いたのか、腕に添えられているヒルデの腕を剥がす。彼女は剥がされるとは思っていなかったのか、くりくりとした愛らしい目を見開いている。
「こちらの方が軽率だったようだ。すまない」
「いえ、こちらこそ醜い嫉妬をしていたようで…失礼いたしました」
腰を折って謝罪すると、ルートヴィヒは一歩こちらに歩みを進めてくる。距離が縮まらないように、こちらは一歩後退する。
「本日は体調が優れないようですので、ここで失礼いたしますね」
自身の人差し指で涙を拭うと、陛下の元へ帰宅の旨を伝える。
遠目でルートヴィヒとギルベルトが見送ってくれるのが目に入った。
今日の言動は良くなかったかもしれない。
ルートヴィヒとの距離ができているだろう。だけど、私という婚約者がいるにも関わらず、ヒルデを気にかけている彼が悪いのだ。
私は別に悪くない。
自分を慰めるように呪文のように何度も何度も心の中で反芻した。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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創作の糧になっています(^_^*)
ヒルデをどうにかして悪者にしたいんですが、嫌な奴になっているか不安です笑。
私なりの嫌な奴にしていこうと思っています。
そろそろジークフリート出したい!!
これからも見ていただけると幸いです。




