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覚えがなさすぎる罪です。

エレオノーラ様とのお茶会を終えて、憂鬱な学園生活が始まる。

私は誰にも聞こえないように小さくため息をついた。

一日一日が長く感じる気がする。

教室の外に出るとヒルデと出会ってしまうかもしれない。そのため必要最低限外に出ることとし、ツェツィーリアやジークフリートと共に過ごす。

だけど、昼過ぎにはお手洗いに行きたくなり、二人に一言伝えて遠回りしてお手洗いに向かう。

終えてから外に出ると、タイミングよく教師に捕まった。

彼についていくと、そこには同じく捕まったであろうギルベルトがいた。

お互いに軽く挨拶を済ませると、教師から手伝いを頼まれた。二人して黙々と書類の整理を進めていると、ギルベルトが作業を続けながら声をかけてきた。


「最近はいかがですか?」

「えっと…もしかして、ルートヴィヒ様とのことでしょうか?」


こちらは作業をしている手を止める。

ここに二人だけで良かった。まぁ彼は教師がいなくなったタイミングで声をかけたんだろうけど。


「まぁ、そうです。今、あいつはエーレンバーク嬢としか過ごしていないので」

「あぁ…あはは。確かにそうですね。会う機会も話す機会も与えられません」


作業を再開する。

その言葉で会話が終了し、部屋に二人だけの呼吸音が響く。


「今度の夜会はどうなさるんですか?」

「どうするのでしょうか?その話が出来ていないので…何とも言えません」

「もし、彼がメルクーア嬢を蔑ろにするつもりなら、俺が手助けをさせて下さい」


そんなことを言いながらも、作業の手を止めることはないようだ。


「ギルベルト様は…紳士ですね」


ボソリと呟くと、彼は微笑んだ。


「そうでもないですよ?貴女はルートヴィヒの婚約者ですからね」


ルートヴィヒの婚約者か。

今彼の婚約者と名乗り出るのが煩わしいと思って来ている。

ここまで蔑ろにされたのは、あの日以来だ。


「でも、大丈夫ですよ。お気持ちだけありがたく頂戴させて下さい」


作業を終えたタイミングで、彼も終わったようで目が合う。


「何かありましたら、一言言って下さいね」

「はい、ありがとうございます」


話終えると、教師が戻ってくる。そして、そのまま解散させられた。

ギルベルトと別れてから、二人が待っているであろう教室へと戻ろうとする。すると、入り口で人が溢れているのが目に入った。

その場の中心にいる桃色の髪に、自然と顔が歪んだ。


「クラウスハール様。何かあったのですか?」


近くに寄って来たジークフリートに訊ねると、彼は口をつむぐ。何か言いにくい内容なのか。


「あの…な、実は」

「…私の…教科書が…破り捨てられたんです」


彼女の声が私の耳に入る。

だからなんだと言うのだ。別のクラスのヒルデが私の教室にいる理由にはならない。

大きなため息をつきたい気持ちを抑えて、待っているであろう彼女のそばに向かう。

さっきから嘘泣きをしながら、チラチラとこちらを見ているのだから。


「…どうかなさいましたか?エーレンバーク様」

「さっきの話…聞いてましたか?」


少し怒りを含んだ声でこちらを見上げてくる。

何がどうしてそうなった。

貴女が話をかけて欲しそうだったから、話しかけたのに…何て態度だ。

彼女の行動に唖然茫然だ。


「勿論、耳に入っております。それを含めた上で、どうなさったのか、訊ねているのです」


彼女が理解出来るように説明すると、ヒルデは少し頬を赤らめる。


「教科書が破られ、ゴミ箱に捨てられていたのです」


小さく拳を握りしめ訴えるが、それは知っている。


「誰に破られたのですか?」

「……何知らないフリをしているのですか?わかってるんですっっ。メルクーアさんが教科書を破ったんでしょ?」


私が何を?教科書を破った?

いつ、どのタイミングで私がそんなことができるのか。余計なことはしたくないので、必要最低限の動きしかしていない。お手洗いにもついさっき言ったばかり。だから、彼女の教科書を破ることなんて出来ない。


「私はそんなこといたしません」

「いえ、アナタは私と殿下が一緒にいることに嫉妬したんですよね?」


嫉妬だなんて…そんな気力も起きない。

そこに費やすなら別のことに費やしたい。

すぐ近くでは、珍しくジークフリートが静かに怒っている。

視線だけで人を殺せそうだ。


もう一度、していないことを伝えたいが、やってでしょ?と言われるに違いない。

何も言わないことを肯定と取ったのか、ヒルデは一瞬口角が上がる。それを見たのは、私とジークフリートだけなのか、そばにいる彼が小さく舌打ちするのが耳に入った。

私とヒルデの会話を聞いていた生徒達が、こそこそと話始める。


「まさか…メルクーア様が?」

「嫉妬でそんなことをするお方だと思いませんでした」

「酷いですね」

「ヒルデ様が可哀想です」


陰口は嫌でも耳に入ってくる。

まさか、私が悪になっているなんて。

この状況は非常にまずい。だけど…どうしようもない。

頭を抱えたくなる気持ちになっていると、騒ぎを聞きつけたのか、それともたまたま通りかかったのか…ギルベルトがやってくる。


「ジークフリート殿、何かありましたか?」


ヒルデはギルベルトがやって来たことで、分が悪いと感じたのか表情が曇る。その瞳は憎悪に溢れている。それをものともせず、彼は冷たい表情で彼女を睨む。

その間に、ジークフリートはギルベルトに説明をしている、全てを聞き終えた彼は、彼は頷いてから口を開いた。


「エーレンバーク嬢の教科書を…メルクーア嬢が破いてしまったと。それは合っていますか?エーレンバーク嬢」


細めた目で彼女に訊ねると、ヒルデは小さく頷く。


「本当ですか?嘘は…ついていないですか?」


ヒルデは何も言えなくなったようだ。


「そうですか。いつ?とは聞けそうにない雰囲気ではなさそうですね」


顎に手を添えて考えるのが様になっている。


「まぁ…メルクーア嬢は貴女の教科書を破ることなど不可能ですよ」

「ど、どうして不可能って言えるのですか?」

「どうしてって…彼女は先ほどまで私と共に仕事を任せられていたので。仕事を任せて来た教師を連れて来ましょうか?」


ギルベルトを見ると、薄ら微笑んでいる。その笑みからは恐怖を感じる。


「い、いえ…大丈夫です。もしかすると…私の勘違いだったのかもしれません」


ギルベルトに恐怖を感じたのか、ヒルデは顔をそらして後退する。

そのまま逃げるつもりなのだろうか。


「では、失礼します」


拙いお辞儀を行うと、私たちに背を向けて歩き出そうとする。すると、ギルベルトが低音な声で彼女を引き止める。


「勘違い…したのなら…謝罪すべきでは?常識的に考えて、失礼ですよ。貴女は男爵家の娘。対して、彼女は伯爵家の娘でこの国の王太子の婚約者です」


彼の言葉に、ヒルデはロボットのように体をギシギシと動かしながらこちらを振り向く。

その表情は口元がヒクヒクと動いている。


「先ほどは…失礼な態度を取ってしまい…すみませんでした」


彼女なりの精一杯の謝罪なのか、相手が私だからか…。これ以上は考えるのはめんどくさいので、ここで話を終えたい。


「いえ、勘違いで良かったです」


そう言い返すと、ヒルデはこちらを憎悪の目でこちらを睨んでいる。

それは…私と、ギルベルト、それにジークフリートしか見えておらず、男性二人は私の前に立ち構える。

私はそれに心の中でため息をつくと、彼らを宥める。

今回は、ギルベルトが助け舟を出してくれたから良かったものの…これからのことを考えると頭が痛い。

きっとこれからも彼女は私を目の敵にして何かと突っかかってくるだろう。


そういえば…ヒルデはこんな感じの性格だっただろうか。

今考えても無駄か。


「ギルベルト様、ありがとうございます」


深々と頭を下げると、彼は先程までの表情を消して笑顔で対応してくれる。


「これからも、何かあれば一言言ってくださいね」


特に何も言わず、自分の教室へと戻っていく。

これからも彼女からの嫌がらせに注意していかなければならない。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

また、誤字の報告も助かります!!

これからもお願いします。

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