お姉様方に囲まれて癒されましょう。(2)
「それで…どこからどうなって結婚するまでに至ったのですか?」
「声をかけられるのが嫌だったから、婚約しようという話になったの。お互い友情はあったんだけど、愛情はないと思っていた」
義姉はどこか遠くを見つめながら話を続ける。過去を懐かしんでいるような目だ。
「だけど…彼は婚約してから…それ以前から私をずっと丁寧に扱うの。卒業パーティーなんて…」
途中で止まった義姉の顔は真っ赤だった。
そして、そのまま黙ったかと思うと俯いてしまった。
「令息に声をかけられるフロレンスの腕を掴んで、そのまま抱き寄せたんです。そして、その後何をしたと思いますか?」
エレオノーラがこっそりと耳元で続きを教えてくれる。
「何をしたんですか?」
「そのまま頬にキスをしたんです」
続きを教えてくれたエレオノーラの頬もほんのりピンク色に染まっている。
身内のそんな話…聞きたくなかった。なんだか生々しい。
でも何事にも動じない兄が、堂々と皆の前でキスしたのなら…愛があったのだろう。
婚約者として、他の令息より自分が上の立場であっても、彼らに嫉妬するぐらいだから。
「メル、この話はここまでの秘密よ」
義姉の勢いにただ頷くしかない。
「後、今から言う言葉もよ」
「はい、わかりました」
「本当は…幼い頃からグラナートのことを慕っていたの。でも…幼い私には勇気が出なくて」
本当は声をかけられただけでも嬉しかったの。
そう小さく零す義姉は恋をしているただの少女のようだった。
彼女は…初恋が実ったらしい。だから、今も幸せなのだろう。
二人の関係性は誰もが羨むほどだ。
「そうだ、メル。貴女とジークフリートとはどうなの?」
ようやく一息ついた後、話がグルリと変わる。
その一言に固まってしまう。
ルートヴィヒの婚約者であるのに、どうしてジークフリートなのだ。
戸惑っているのを感じたのか、義姉は”誰も聞いていないから、大丈夫よ”と安心させる。大丈夫でもなんでもないけど。
「私もメルクーア様とジークフリートとのお話を聞きたいです」
あの子、学園でのお話してくれないから。そんなことを言われると、話すべきかと思ってしまうではないか。
「私とジークは、護り護られの関係なんです。ある事件をきっかけに、殿下が傍にいない時は、隣か一歩後ろから付き添ってくれるんです」
自分で言っておいてなんだけど、嫌なことを思い出してしまった。あの事件は黒歴史に入るだろう。
「あの安心感は…ジークだけなのではないかと思っています」
頭の中で彼を思い浮かべながら、一つ一つ口を開いていく。
「あと…この前、授業中に手紙のやり取りをしたんですよ?」
何個か思い浮かべていると、最近楽しかったことが思い出される。
授業中だったこともあり、彼は教師にバレないようにヒソヒソとしているのは可愛らしかった。あんな彼はそうそう見ることが出来ないだろう。
「ジークフリートがそんなことを?」
「あら、そんな可愛らしいことをしていたの?なんだか甘酸っぱいわね」
ようやく口を開いた二人が微笑ましそうにこちらを見てくる。
その視線に気がつくと、何故だか恥ずかしくなる。
……なんだこの小っ恥ずかしいのは。
雑念を振り払うように、頭をブンブンと振る。だが、全く振り払うことが出来ず、その後の続きを思い出してしまう。
エレオノーラ、ハーゲン、ジークフリート達と城下町を巡った時の話。彼と二人きりになった時、鍛え抜かれた胸板を思い出して…自然と顔が赤くなる。
流石は騎士だった。
振り払おうとすればする程頬が熱くなる。
アレは、何者かから私を助けてくれたのであって、深い意味はないのだ。邪な思いを浮かべているのは私じゃないか…。
「あらあら、もしかして…ジークフリートとさっき話している内容よりも、楽しそうなことがあったみたいね」
「ち、ちがっ。いや…違うことはないんですが…。楽しそうとはまた別の…何て言うんでしょうか」
今度は私が早口になってしまう。
本当に楽しそうとは違うのだ。何ていえば良いのだろうか。
「こらフロレンス…メルクーア様を揶揄ってはいけませんよ。別に無理に話す必要はありませんよ」
柔らかい笑みをこちらへ向けてくれるエレオノーラに、心の中で頭を下げる。
聖母?と思ってしまう。
「だって…こんなに愛らしいメルを見るのは滅多にないのよ?シュテルンベルガー兄妹は、隠したがるのが得意見たいんだもの」
やれやれといった様子で首を振る義姉。
兄とそんなところが似ているなんて思いもしなかった。
良いところなのか、悪いところなのか。
「ここでの話は…秘密にしていてください」
二人の顔を見ずに告げる。音だけで、一度頷いたのがわかる。覚悟を決めた私は重い口を開く。
「とあることがあって…ジークの胸板が頬に当たったのです。その時、鍛えられた胸板に驚いて思い出してしまって…」
言い終わってから反省する。
何を言ったんだろうか。顔を上げると、二人とも面食らった顔をしている。数回瞬きし、令嬢らしからぬ表情でこちらを見ている。
「そんなことがあったのね。それは…なんて言うのかしら、彼にってより筋肉にドキドキしたって感じじゃない?」
義姉からの言葉にハッと気づく。
確かにジークフリートではなく、胸筋にドキドキした気がする。頬が赤くなったのも理由がつく。
それと同時に、とあることを思う。
「はしたないと思いますか?」
扇を手元に置いていないので、両手で隠して隙間から目を覗かせる。
すると、エレオノーラと目が合う。
「いいえ、全く。私もたまに騎士達の肉体美にドキリとすることがあります」
「そ、そうですか…」
「ですので、メルクーア様は正常です。鍛え抜かれた筋肉は格好いいですよね」
瞳を輝かせながら力説するエレオノーラに、若干引いてしまうも、否定していないでくれたのはありがたい。
「それは…また違っていないかしら。貴女は…見放題でしょ?」
「見放題というわけではありません。勝手に着替え始めるので、こちらとしてはいい迷惑ですよ」
思い出したのか、プリプリと怒っている。
話が上手い具合に逸れてくれたようで安心だ。
良かった…。ルートヴィヒの筋肉…ではなく、ジークフリートの筋肉にドキリとしたことを咎められなくて。
この気持ちは、今日限りで蓋をしよう。
「貴女達…本当に…」
義姉は私を見ると言葉を詰まらせる。
「メルクーア様は、何があってもジークフリートのことを信じてくださいますか?なるべく傍に居続けてくださいますか?」
今度はエレオノーラが真面目な顔をして質問を投げかける。
どうしてそんな質問を。
だけど、真面目には真剣に答えなければならない。
「私はこの国の王太子のルートヴィヒ殿下の婚約者です。傍にいるには、限界があります…が、彼が今まで傍にいてくれた分、なるべく答えようと思います」
嘘偽りなく今の思いを伝える。すると、二人は納得したように数回頷く。
とりあえず、彼女らの納得のいく回答が出来たようで安心だ。
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