お姉様方に囲まれて癒されましょう。(1)
ヒルデに忠告してから数日。
彼女は噛み付いていたものの、大人しく呑み込んだのか令息達に近付くことが少なくなった。
そう少なくなったのだ。
少なくなったのは、婚約者のいる令息のみ。
私を敵対視しているからか、ルートヴィヒには変わらずベッタリとしている。彼女に忠告しても、結局は変わらないだろうとのことで諦めている。
そんなこんなで学園生活を送っていると、エレオノーラが遠征から帰宅したと連絡を受けた。私は急いで彼女にお茶会の招待状を送る。速達で送ったのもあり、エレオノーラからの返信も速かった。
待ちに待ったエレオノーラとのお茶会は、週末に開催されることとなった。
◇◆◇◆◇◆
学園生活を終えた週末。
お昼過ぎ頃、シュテルンベルガー邸に何故かクラウスハール家の紋章がついた馬車が到着した。
まさか…ハーゲンが彼女に着いてきてしまったのか?と不安になる。
ドキドキしながら馬車の扉が開くのを待っていると、中から騎士服ではなくドレスに身を包んだエレオノーラが出てきた。
流石に…ハーゲンは空気を読んで来なかったらしい。
「招待していただきありがとうございます」
柔らかい笑みを浮かべたエレオノーラは、驚く程美しく、目を奪われる。黄緑色の淡いドレスは、彼女をより美しく際立たせる。
「こちらこそ、いらしていただきありがとうございます」
お互い腰を折ってから、ガーデンへと私がエスコートする。
彼女の手元には以前私がプレゼントしたレースの傘が添えられている。大切にしてくれているのを見て微笑んでしまった。
私が趣味で育てた花が咲いているガーデンには、予めベルがティーセットを用意してくれていた。向かい合うように座ると、タイミングよくベルが来てくれて紅茶を淹れてくれる。
「……エレオノーラ様の髪型とドレス…お美しいです。あと…とてもお似合いです」
言葉に詰まりながら想いを伝えると、エレオノーラが頬を染める。
「クラウスハール家のメイド達が…色々と協力してくれたんです。この編み込みも、彼女達が素早く丁寧に編んでくれたのですよ」
自慢気に話す彼女は楽しそうだ。
それにしても、エレオノーラはクラウスハール家と仲が良過ぎではないだろうか。北の守護の隊長以前の問題な気がする。
あの家自体、ハーゲンとエレオノーラに協力的…と言うか、彼を応援しているのではないか。
外堀を埋められているな…。
「皆様、器用なのですね」
「すごいですよね。こんなに綺麗にしてくださって…ありがたいです」
可愛らしい笑顔で答えるエレオノーラの後から、とある人物が歩いてくる。
「エレオノーラじゃない。貴女がドレスを着ているなんて、珍しいわね」
こちらは淡い水色のレースの日傘を差して優雅に登場する。
聴き慣れた声だからか、エレオノーラは嬉しそうに振り向く。
「フロレンスっっ、久しぶりね。貴女のその…体のラインが出るドレス…似合っているわ」
エレオノーラが義姉と話すときの声は、凛々しい声とは異なり少し幼くなる。
「ありがとう、エレオノーラ。メル、お邪魔だったわね」
「いいえ。フロレンスお義姉様もぜひ、ご一緒にお茶をしませんか?」
「いいのかしら?では、お言葉に甘えて」
義姉がそう言ったタイミングでベルが椅子を運んでくる。
彼女にお礼を伝えた義姉はお茶会に参加することとなった。
「お義姉様と、エレオノーラ様の関係は…」
「学園の同級生よ」
「学園時代の同級生ですね」
あぁ…同級生。そういえばこの二人同い年だったな。
だから、口数の少ない義姉が友人を前にすると口調が変わったのか。あまり見ない義姉の姿になぜかこちらがワクワクしてしまう。
「それにしても…貴女…それ、新しいドレス?既製品を購入したの?」
フロレンスの質問に、エレオノーラは急に動きが止まる。
そして、まるでロボットのように義姉から目を逸らす。
「まさか…ハーゲン様が贈ったの?エレオノーラのサイズをあの人が知ってるわけ?」
義姉の発言に、エレオノーラのドレスを改めて観察する。
黄緑色のドレスは彼女の瞳の色かと思ったけど…違うのか。ハーゲンの瞳の色と言われれば、そう見えなくもない。
「違うのっっ。今回のお茶会で着ていくドレスが数回袖を通したものばかりで…。せっかくだからと新しいドレスを着て行きたいな…って思っていたら、ハーゲン様が」
驚くほど早口で告げる。
成程、エレオノーラのドレスはハーゲンがサイズを理解した上で贈ったのか。
やはりこの二人の関係は私には分からない。
何の壁が二人の邪魔をしているのだろう。
「サイズは…以前メイド達が採寸してくれたんです」
その言葉を聞いて義姉は小さく声を漏らす。
呆れているが、この声はエレオノーラにではなく…ハーゲンにだろう。
「貴女…外堀を埋められていない?」
義姉と同じ感想を抱いた私は正しそうだ。
「やっぱりそう思う?私もね…思っていたの」
エレオノーラは顔を赤くしたり青くしたりと忙しそうだ。
外堀を埋められているのは、彼女も理解していたよう。それでいて頷かないのは彼女にしか分からない理由があるのだろう。
「そういえば、お義姉様達はどこまで仲が良いのですか?」
「グラナートと私の関係は言うまでもないでしょ?それに、シュテルンベルガー家と、クラウスハール家の関係も」
グラナートは私の兄の名前で、フロレンスの夫だ。ここの二人は在学中に諸々あり、婚約し卒業後に結婚している。
そして、我が家とクラウスハール家は親同士が仲が良いことがあり、兄とハーゲンは幼なじみの関係だ。
「その二人と仲が良い私たちが必然的に、友達になったというところかしら」
四人の関係性の後、知りたくなるのはより詳しい内容。
「お義姉様達の学園のお話…聞きたいです」
目をキラキラと輝かせた私に反して、二人はあまり気乗りしなさそうな表情だ。それを見て項垂れてしまう。
こんな機会そうそうないのに…。
「……どんな話が聞きたいの?」
「そうですね…。お兄様は…本当に学園でも令嬢からたくさん声をかけられていたのですか?」
真っ先に思い浮かんだのがこれだ。
兄は母に似て、見目麗しい絶世の美男子だ。本当にこの世のものとは思えない程に。
フロレンスお義姉様と結婚して尚、社交界で兄を狙う女性が大勢いる。そんな兄は口数が少なく、学園での生活を教えてくれることはなかった。
「グラナートの昔の婚約者はどんな人物か覚えている?」
それは勿論知っている。
侯爵家の愛娘でワガママを突き通している。が、兄の前では猫被りをしているクズな令嬢。しかも、それが本人にはバレていないと思っている間抜け。
幼い頃に高位貴族だった元婚約者は、権力を傘に兄を人質にとった。シュテルンベルガー家は、我が家より高位のため断ることが出来なかった。
私が知っていることを伝えると、義姉は頷く。
「私の婚約者も割と性格が残念でね。学園で顔を合わす機会が増えて、意気投合したの」
兄は遂に貴族の力を失った相手と無事に別れることが出来た。
「その後は…そうね。信じられないくらい声をかけられていたわ」
「グラナート様…学園で一番に声をかけられていたわね。毎日違う令嬢が、目をキラキラと輝かせていたから」
そういえば家にプレゼントが山ほど送られていた。
「でも、グラナート様…絶世の美男子でしょ?彼の隣に立てる令嬢は限られてくるのよ。で、学園の中で一番麗しいのがフロレンスだったの。私は、その二人が並んでいる時が一番お似合いだと思っていた」
「グラナートは計算して私に近づいたのかもね」
そう言いながらも、義姉は楽しそうに笑っている。
計算…なんて言葉、あまり良い気分しないはずなのに。
「私も顔がいい彼が近づいてきて嬉しかったわ」
「あぁ…貴女も令息からよく声をかけられていたものね」
流石は麗しい義姉。
お互い利害の一致ということだったのだろう。それから、情が湧いたということなのか。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
前回まではヒルデの話ばかりだったので、ここからは少し癒しの恋バナ会にしていこうと思いました(^ ^)
少しだけ続いて行きますので、引き続きお待ちください。
また、2/14に投稿したエレオノーラのバレンタインのお話は、活動報告の方へ移させていただきました。




