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親友の大切な人。

蒸し蒸しと鬱陶しい夏を終えて、肌寒くなる秋を乗り越えると冬がやってくる。

制服の上に羽織るものが多くなり、モコモコとした動物のようになる。

女の子は体を冷やすものではないよ。と両親から言われ、私は羊のようにモコモコとする。それを見て楽しそうに微笑むルートヴィヒを見つめる私は、寒いはずなのに心がホカホカと暖かく。


「そういえば、ツェツィーリアが婚約をしたそうだね」


ふと我に返ったルートヴィヒが思い出したかのように私に告げる。それにやや不機嫌になっていると、またもや微笑まれてしまった。ひんやりと冷えた彼の指が、膨らんでいる私の頬に触れた。


「エルヴィン様…とですよね。喜んでいいものか…すごく複雑です」


女性との関係を持ち続けていた彼が、あの出来事をきっかけか…全て断ち切るなんて。

それくらいツェツィーリアのことを想っているのだろう。

夏季休暇から時間が経ってないのに、お互い即決すぎる。


「どうして複雑なの?」

「ルーイは、エルヴィン様の女性…関係はご存知でしょう?」


私が彼を見上げると苦笑している。

つまりはご存知なのでしょう。


「数多の女性と関係を持っているのですっ」


思わず興奮してしまう。

そんな私を彼は落ち着かせるように背中を撫でてくれる。

深呼吸を行い、気持ちを落ち着かせてもう一度口を開いた。


「私の大切な親友なんです。だから…大切にしてもらいたいんです」

「ツェツィーリアのことが大好きなんだね。でも…わかるな…その気持ち」


何が同じなんだろうか。

私は顔に出ていたのだろう…ルートヴィヒが笑っている。


「ツェツィーリアは僕にとっても大切な人だからね。僕のお婆様のお気に入りなんだ」


そういえば、ルートヴィヒとツェツィーリアは親戚だった。

彼が言った通り、彼女は大切な人なのだろう。


「メルっっ」


ルートヴィヒと仲良く談笑していると、後から私の名前を叫ぶ声が聞こえる。

声がした方を振り向くと、同じようにモコモコと包まれているツェツィーリアが手を振っている。彼女はこちらに走ってくると、ギュッと私を抱きしめた。

彼女の冷えた肌が、私の肌に触れてひんやりと凍える。


「ツェツィ、おめでとう」

「ありがとう。メルがお祝いしてくれて嬉しいわ」


彼女は私を大切に抱きしめると、人が一人入る程度の距離をあける。ツェツィーリアの背後からは、マフラーのみを装備したエルヴィンが優雅にやってきた。


「おはよう、メルクーア嬢に…ルートヴィヒ殿下」


私に目線を向けた後は、ルートヴィヒの方へ目線を向ける。私がその目線を追いかけると、仮面のような笑顔を貼り付けたルートヴィヒがいた。それに背筋が冷えてしまったので、自然と視線を逸らしてしまう。

二人の間には見えない火花がバチバチと散っている。なぜ関係ない私がこんなに気まずい思いをしなければいけないのか。


「やぁエルヴィン殿。ツェツィーリアとの婚約おめでとう」


公の場での声色で対応するルートヴィヒの表情は、怖いくらいに”無”だった。


「ありがとうございます。殿下から直々にお祝いしていただけるなんて、私は幸せ者ですね」


こちらも同じように無表情で対応する。

氷点下のような温度に呼吸困難になった気分になる。

この二人って…思っている以上に仲が悪いのか。

二人の反応を見かねたのか、ツェツィーリアがようやく口を開いた。


「エルヴィン様、綺麗なお顔が台無しですよ」


朗らかに笑った彼女は、エルヴィンの頬をツンツンと人差し指で突く。それに毒気を抜かれた彼は、眉間に寄せられていたシワを解く。


一体何を見せられているんだ…私たちは。


ルートヴィヒの方を向くと、信じられないという表情をしている。それは私も信じられない。

あのツェツィーリアだ。

相手にデレるような人じゃないと思っていたのに…。

わからない…わからない。

頭を抱えようと彼女を見ると、可愛らしくウインクをする。それに不思議に首を傾げていると、口パクで”大丈夫よ”と伝える。何が大丈夫なのか理解に苦しむが、もう考えるのは止めようと思う。


「エルヴィン様…本当にツェツィの心を射止めたのですね」

「ツェツィーリアの心を射止めたよりは、俺が射止められたというか」


頬を桃色に染めたエルヴィンに引いてしまう。

隣にいるルートヴィヒも同様に引いているのが横目に映った。

人の惚気ほどどうでもいいものはない。

わざとらしく咳払いをしたルートヴィヒが口を開いた。


「今まで数多の女性との関係を持ったエルヴィン殿だけど、これからはツェツィーリアだけに捧げてくれるんだろうね?」


笑顔でエルヴィンに圧をかける。対する彼も笑顔だが、先程までとは違い明らかに焦っている様子に見える。


「それは勿論ですよ」

「約束してくれるかい?」

「約束しますけど…。殿下とツェツィーリアはただの親戚ですよね?どうしてそこまで気にかけるんですか?」


バチバチと男同士の戦いが再戦してしまった。

第二ラウンドというところか。


「そうよ、ルートヴィヒ。貴方とは私のお爺様の姉の孫というだけの関係よ。そこまで近しい関係ではないでしょ?」


はっきりと物事を告げるツェツィーリアにルートヴィヒはショックを受けているようだ。

彼と彼女では家族の関係性に相違があるみたい。


「遠くもないよ」


しょんぼりしたルートヴィヒがなんだか可哀想に思えてきた。

体だけじゃなく、声までしょんぼりしている。


「それに、もしエルヴィン様が他の女性と関係を持ったなら、切るって約束したのよ」


掌をナイフのように見立てて、空を笑顔で切るツェツィーリアに、何を?とは聞かなかった…というか聞けなかった。

彼女の隣にいるエルヴィンと、ルートヴィヒの表情を見れば何を切るのかわかる。二人とも驚くほど青ざめている。

つまりはそういうことなのだろう。哀れみの目を向けていると、エルヴィンは咳払いをする。


「だから大丈夫ですよ。流石に、私の子供以外に婚外子を作られると、色々と困りますからね」


ツェツィーリア節で告げるのは清々しくて気持ちがいい。

心の中に潜んでいる私が、彼女に拍手を送っている。

確かに、婚外子を作る貴族は一定数いる。それはどちらかに不備があり、子供が作れない場合に多い。または色欲に溺れた貴族が、どこかしらに種を撒く。それで婚外子がいるというのを耳にしたことがある。

貴族に取り入りたい女性が、男性と関係を持つと婚外子が出来てしまい、そこから後継者問題に発展するのだ。

それはそれは面倒くさいんだとか。

それを知っているから、ツェツィーリアはしっかりと婚前から対処しているのだろう。


「婚外子なんか作りませんよ。どこぞのクズ野郎じゃあるまいし」


エルヴィンがどこの誰かのことを言っているのかは、理解したが…彼を引き合いに出すのは違うだろう。


「とりあえず…二人がいい関係なのは分かったわ。ルートヴィヒ様も…本当は嬉しいんですよね」


今まで相手がいなかったツェツィーリアのことを、顔には出さないが気にはしていたのだろう。

それが今。幸せそうに彼女を見ているではないか。


「あぁ…本当に幸せに…ツェツィーリア」

「ありがとう、ルートヴィヒ」


二人とも幸せそうな顔をしている。

ツェツィーリアとエルヴィンにとって、幸せな一日の一歩になると…いいな。

ここまで読んでくさりありがとうございます。


ジークフリートが出てこないと、なぜか不安になる私です笑笑。

早く登場させたいさせたいとい気持ちを抑えながら、次章を執筆中です!!

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